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謎ルートに入った
人生に正解はない
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上司(?)の人から食事に誘われた。
最初その話が出たときは「これが例の『社交辞令』か。『また飲みに行きましょう』『うちにも寄ってくださいね』などと言われて、実際その通りにしようとしたら疎まれるという……」という情報を思い浮かべつつ「良いですね」と答えた。そしたら「じゃあいつ行く?」とお返事いただき、断るタイミングを逃した。社交辞令ちゃうんかい!
その後、なんやかんや理由を付けて言い逃れようとしたが、上手くいかなかった。
「忙しい」? いや、そんなに忙しくないし。「忙しい」と言って断ったあと、別の場所で目撃されて、職場の人に「月澄狸さん昨日◯◯にいたよね!」と声をかけられて、それを上司の人にも聞かれたりしそうだし。
「あなたとは行きたくない」? いやいやいや。
「男性が苦手」? まだそれを「表」で明かす勇気はない。
ということで断るタイミングを逃した私は、あれこれ悶々と考えたのち、一旦何もかも忘れて、ノコノコついて行くことにした。
・今回の学び1……本気で会話している人間もいる。「どうせ社交辞令だろう」などと決め付け、軽く考えたり、思ってもいないことを言ったり、テキトーに相槌を打ったりするのは良くない。
*
一緒にお食事に行ったが、食事というより、二人してペラペラ喋り続けた。
もし相手の人が「モテたい」「彼女ほしい」みたいな感じだったら、そして私が美人だったら、彼は私の趣味や考え方に同調し、すり合わせてくれたかもしれないが。どうもそういう雰囲気ではない。
お互い好き勝手に、自分の興味のあることを喋り続け、その興味の範囲がけっこう合うような感じで楽しかった。相手の人の、子どものように無邪気で、大型犬のようにパワーがある様に癒やされた。
彼と喋っていると、なんだか童心に返れた。子どものような価値基準で生きている人もいるし、純粋な好奇心で動いてもいいのかもなと。
しかし彼はすごいな。私が上司だったら、仕事外でまで職場のポンコツと顔合わせたくないかもしれないけど。彼はこんなポンコツを手助けした上に構ってくださるとは。
……いや、上司と部下(?)で飲みに行くとかは世間的にも普通なのかな? 飲みニケーションとか。でもこれは私が思っていた「職場の人付き合い」という雰囲気とはちょっと違うような……。
あ、でも子育てとかは、親が「上司」のような管理の役割をこなしながら、子どもを可愛がり、一緒に遊んだりするんだよね。ちょっと違うけどペットでも多分そういう感じのはず。大人の視点を持ちつつ、子どもの心で一緒に楽しむような。
「育てる」人は器が深く、親心があり、忍耐強く見守る。
仕事で後輩さんを育てるのが下手な人なんかは、あれこれ教えもせずに後輩さんの悪口を言ってばかり……。
教えたり育てたりするのが苦手な人はポンコツが嫌いかもしれないが、面倒見のいい人は、育てようとか一緒に遊ぼうとか、広い心で接してくださる……のかな? あとオンオフの切り替えがお上手とか。
私は「上下関係があると、先輩や後輩と対等になりにくい。年功序列や上下関係がなかったら友達になれたかもしれないのに。だから上下関係が嫌いだ」派だったのだが、「相手が上司や先輩であるから、その関係は越えられない」と頑なに思っていたのは自分の方だったかもしれない。意外と、そんなこと気にしていない人もいるのかもしれない。
とはいえ、自分たちスタッフ(?)がずさんなことをしていたら、最悪、上司の方々がお客様に頭を下げなくてはならなくなったりするし、そうでなくてもミスへの対応や対策など、普段ご迷惑かけているはずなので、そこのところ覚えておかないと。
上の人はスタッフの人間関係の相談までされて、スタッフの配置とか色々考えなければならないはずなので(仲の悪い人同士を一緒に組ませない・仕事の遅い人と早い人それぞれのペースとバランスを考えるなど)、あんまり余計な負担やストレスをおかけしないよう、真面目に仕事しようっと。
正直、仕事のできない私は、仕事ができる人のすべてを推し量れないし、手伝っていただく一方だが。
でもペットたちも、人間の仕事や家事ができるわけじゃないけど、人間の心に寄り添ってくれる。
そういうふうに、どんな生き物でも分かり合うことは可能……なのかな?
・今回の学び2……上下関係に縛られていたのは自分だった。
*
彼とは趣味や興味の範囲がけっこう似ている気がする。ついうっかり色々喋ってしまう。
が、ヤバい。趣味やら興味やら、感覚が似ているということは、このアカウントが発見されかねない。
しばらく会話していただけで既に彼が「タヌキ」というワードを発していてビビる。普通の人と普通に喋っていてタヌキの話になったことがあるだろうか。
いやー、似たような趣味の人はたくさんいるのだし、大丈夫とは思うが……。自ら墓穴を掘りかねない。危ない。正体を明かさないよう、上手に化けなければ。
「誰も趣味の話に食いついてくれない中で、月澄狸さんが反応してくれたもんでビックリして」と無邪気に喜んでくださっていて、私も「うん、分かります……マイナーな趣味って全然誰も食いついてくれないし、たまに誰か食いついてくれると、すごい嬉しいんですよねー」などと思うが、色んな意味でちょっと気が気ではない。
私は恋愛もできないし本性(ミサンドリスト)をバラすわけにもいかない。一生懸命、表裏を使い分けて保ってきた職場の人間関係をぶち壊すのも、なかなかリスキー。よって、八畳敷のアレみたいに話を広げるわけにはいかないのだ。
・今回の学び3……隠し事があったり、裏表があったりすると疲れる。悪いことはするもんじゃないな。
*
昔の男友達のことを思い出した。
男友達は私に股間を押しつけてきたりした。私は当時その意味が分からなかった(彼も分かっていなかったかも)。
のちに私は別の人から性被害に遭い、以前の男友達の行動が「性的」であったことも知り、多分段々と、「性」への不快感が増していった。
私に性加害をした人も、別にレイプしたわけではない。ただ唐突で、多少強引で、何より私はそういうことに疎い中学生で、意味が分からず恐怖しただけ。
別に今となっても許せることではない。
ただ二人とも、趣味が合った。それで私も嬉しかったし、相手も嬉しかったのかもしれない。
愛情表現が「性」というのはどうしても分かりにくいんだけど、でも仲良くなった動物が私にしがみついて腰を振ってきたら、それはしょうがないというか、彼なりに「本気」なのではないかと思う。
私に性的なことをしてきた二人とも、接点は性「だけ」ではなかった。
私が性に疎かったせいだが、私は事実に気づくまで、喜んで彼らの元へ遊びに行っていた。どちらとも趣味が合い、同じような趣味の人がいなかった私は、彼らと仲良くなれて嬉しかった。向こうもそう思ってくれていたんじゃないか。
他の男性から、「隙があるお前が悪い」と言われたことに激怒し、悲しみ、隠れミサンドリストになった。性というものが不快で、自分が女であること、自分に性欲があることも気色悪く、子を産むことで存続するこの世のシステム含め、すべてを憎んだ。今まで出会った人に、がさつで横暴な男性が多かったこともあり、何かずっと憎悪みたいなものを燃やしつつ生きてきた。
けど、上司の人と話せて、嬉しかったことで、「性」によって流された幸せが蘇ってきた。
そうか。私からしたら「性」は悪であり間違いみたいな扱いだったけれど、多くの人にとっては、喜びの延長線上であり、愛情表現なんだな。
それでも私は私の価値基準で、許せない。分からない。まだ怒りと痛みを抱えている。個人に対してというより、世界そのものに対する憎しみかもしれない。
趣味や価値観が似ている人に出会えるだけで幸せなのに、なぜそこに強引に「性」が絡んでくるのだ?
でも過去の再現のような今を生きている中、私は事が起こる前の「あの頃」のように、「幸せ」を感じた。趣味の合う相手がいて、思い切り好きなことを話せて、久々に幸せだった。舞い上がっているのかな?
この幸せを、このままにしておいてほしい。これ以上を求めないでほしい。そう思いつつ、彼とはコミュニケーションできそうな気もする。
もう私は無知すぎる子どもではない。大人なのだ。もしかしたら冷静にコミュニケーションを取ることができるかもしれない。話せば分かる。……かも。
いや、でもどうだろう。いくら多様性とか言って、少数派の声を取り上げる世の中になっても、「恋してハッピー」が蔓延する世の中に、太刀打ちなどできないのでは。
私は今度こそ、孤独への覚悟を固めなければならなかったかもしれないのに。甘かったのでは。
もう後戻りできないんじゃないの? 私の対応間違っているんじゃないの? どこでどうすれば良かったの? 趣味が似ているなと思っても、グッと飲み込むべきだったの?
気があるとかないとかそういう話じゃないと信じたいけど、「男は下心しかない」がちらつく。
人生に間違いも正しいもないとか言うが、私はすぐ怒り、「あれもこれも間違いだ」と思ってしまう。何もかも間違いだ。
いや、けれど、それだけじゃなかった。「間違い」「嫌」だけじゃなかった。
学校のドッジボール大会が嫌だったけれど、学校のすべてが嫌ではなかったように。
働きたくないと言いつつ、仕事がけっこう好きで、職場の苦手な人のことさえ、実は意外と好きな気がするように。
結果的に「間違い」「嫌」という結末で塗りつぶされてしまったとしても、すれ違ってしまったとしても、それだけではなかったのだ。
今の私には「人生に正解はない」がしっくりくる。
かつては良しとされたことが今は間違いとなるように、所詮「正解」などないのだ。
間違いだと思いたいこともたくさんあるが、世界は矛盾でできている。間違いに見えても、間違いだけではない。間違いによって支えられている部分もある。いわゆる必要悪か。
なので私は今、間違っているかもしれないけれど、幸せで楽しい。
もしも職場の人間関係をメチャクチャにしてしまったら? もう、それはそれで面白そうじゃないか。
一見内気でおとなしそうな私が、職場をしっちゃかめっちゃかにする。さらに職場と家が近いので、職場を乱すことは地域を乱すことでもあるような。みんなけっこうご近所さんが多い。
なんか笑けてきた。もしこの先喧嘩したりして、気まずくなったらどうなる? コメディみたいだ。
最近、夢と現実の境が曖昧な気がしたけど、仕事とプライベートの見境までなくなってきたか。ますますカオスである。
私は二の舞ならぬ三の舞に、静かに足を踏み入れたのかもしれない。
・今回の学び4……人生に正解はない。
*
また「あらしのよるに」の小説版を読みたいな。
最初はどうしてもファンタジーのような物語として読みがちだし、「オオカミとヤギが仲良くなる話」だと知りつつ見たので、小説版の出だし部分も、「このあと仲良くなるんだよね」とテキトーに読み流してしまっていたかもしれない。
先がどうなるか分からない、そしてオオカミを恐れている、そんなメイの気持ちになりきってみると、セリフの重みが増しそう。
絵本や映画では、ヤギとオオカミの出会いはけっこうあっさり流れていたかもしれないが、小説版のメイは、オオカミとの出会いで死を覚悟した。その後も、常に死と隣り合わせでありつつも、友情と信頼を選んだ。
「あらしのよるに」のメイは中性的なので、色んな捉え方ができる。中性的といえばバフォメットは両性具有らしいので、別に関係はないけど何となくヤギらしいような(創作上のイメージとして)。
それはさておき、メイを「セックス恐怖症の女の子」、ガブを「元は人並みに好色だったけれど、優しさ故に本能を押し殺した男」みたいに見ることもできるというか。そのような捉え方だと、若干心理に近づける気がした。
女は男に怯え、男は女にムラムラしながらも我慢する。そしてガブは男社会を、メイは女社会を捨て、互いのピュアな愛を「友情」という形で貫いた、みたいな。
なんて美しいのだろう。私は友情至上主義かもしれない。友達いないけど。
(というか誰でも友達だと思いたいのだけど、こちらだけ勝手に友達だと思い込みそうなもので、難しい)。
「BEASTARS」で食欲と性欲が近いものとして描かれているというのも、唸らされるなぁ。
私は屠殺動画を見て、動物たちの苦しみを思い、涙を流し、気が重くなる。それでも食べることをやめられない。
申し訳ない、可哀想、助けてあげたい、仲良くなりたい。命の格差と理不尽に涙する。それでも食べてしまいたい加虐本能を抑えきれない。
なので「食欲」は分かる。
そして男性にとっての性欲は食欲と同じなのだと言われたら。
もしそうならば、分かる気がする。
オオカミはオオカミであって悪ではない。
しかしそれでも、命は戦わなければならない。
人類は本能に抗いつつ、「本能に従わないと滅ぶ」という矛盾と劣等感と罪悪感を抱え、正当化したい思いをぶつけ合いながら生きる。滅びと永続、自由と支配のバトル。
・今回の学び5……世界は美しい。でもやっぱりめんどくさい。
最初その話が出たときは「これが例の『社交辞令』か。『また飲みに行きましょう』『うちにも寄ってくださいね』などと言われて、実際その通りにしようとしたら疎まれるという……」という情報を思い浮かべつつ「良いですね」と答えた。そしたら「じゃあいつ行く?」とお返事いただき、断るタイミングを逃した。社交辞令ちゃうんかい!
その後、なんやかんや理由を付けて言い逃れようとしたが、上手くいかなかった。
「忙しい」? いや、そんなに忙しくないし。「忙しい」と言って断ったあと、別の場所で目撃されて、職場の人に「月澄狸さん昨日◯◯にいたよね!」と声をかけられて、それを上司の人にも聞かれたりしそうだし。
「あなたとは行きたくない」? いやいやいや。
「男性が苦手」? まだそれを「表」で明かす勇気はない。
ということで断るタイミングを逃した私は、あれこれ悶々と考えたのち、一旦何もかも忘れて、ノコノコついて行くことにした。
・今回の学び1……本気で会話している人間もいる。「どうせ社交辞令だろう」などと決め付け、軽く考えたり、思ってもいないことを言ったり、テキトーに相槌を打ったりするのは良くない。
*
一緒にお食事に行ったが、食事というより、二人してペラペラ喋り続けた。
もし相手の人が「モテたい」「彼女ほしい」みたいな感じだったら、そして私が美人だったら、彼は私の趣味や考え方に同調し、すり合わせてくれたかもしれないが。どうもそういう雰囲気ではない。
お互い好き勝手に、自分の興味のあることを喋り続け、その興味の範囲がけっこう合うような感じで楽しかった。相手の人の、子どものように無邪気で、大型犬のようにパワーがある様に癒やされた。
彼と喋っていると、なんだか童心に返れた。子どものような価値基準で生きている人もいるし、純粋な好奇心で動いてもいいのかもなと。
しかし彼はすごいな。私が上司だったら、仕事外でまで職場のポンコツと顔合わせたくないかもしれないけど。彼はこんなポンコツを手助けした上に構ってくださるとは。
……いや、上司と部下(?)で飲みに行くとかは世間的にも普通なのかな? 飲みニケーションとか。でもこれは私が思っていた「職場の人付き合い」という雰囲気とはちょっと違うような……。
あ、でも子育てとかは、親が「上司」のような管理の役割をこなしながら、子どもを可愛がり、一緒に遊んだりするんだよね。ちょっと違うけどペットでも多分そういう感じのはず。大人の視点を持ちつつ、子どもの心で一緒に楽しむような。
「育てる」人は器が深く、親心があり、忍耐強く見守る。
仕事で後輩さんを育てるのが下手な人なんかは、あれこれ教えもせずに後輩さんの悪口を言ってばかり……。
教えたり育てたりするのが苦手な人はポンコツが嫌いかもしれないが、面倒見のいい人は、育てようとか一緒に遊ぼうとか、広い心で接してくださる……のかな? あとオンオフの切り替えがお上手とか。
私は「上下関係があると、先輩や後輩と対等になりにくい。年功序列や上下関係がなかったら友達になれたかもしれないのに。だから上下関係が嫌いだ」派だったのだが、「相手が上司や先輩であるから、その関係は越えられない」と頑なに思っていたのは自分の方だったかもしれない。意外と、そんなこと気にしていない人もいるのかもしれない。
とはいえ、自分たちスタッフ(?)がずさんなことをしていたら、最悪、上司の方々がお客様に頭を下げなくてはならなくなったりするし、そうでなくてもミスへの対応や対策など、普段ご迷惑かけているはずなので、そこのところ覚えておかないと。
上の人はスタッフの人間関係の相談までされて、スタッフの配置とか色々考えなければならないはずなので(仲の悪い人同士を一緒に組ませない・仕事の遅い人と早い人それぞれのペースとバランスを考えるなど)、あんまり余計な負担やストレスをおかけしないよう、真面目に仕事しようっと。
正直、仕事のできない私は、仕事ができる人のすべてを推し量れないし、手伝っていただく一方だが。
でもペットたちも、人間の仕事や家事ができるわけじゃないけど、人間の心に寄り添ってくれる。
そういうふうに、どんな生き物でも分かり合うことは可能……なのかな?
・今回の学び2……上下関係に縛られていたのは自分だった。
*
彼とは趣味や興味の範囲がけっこう似ている気がする。ついうっかり色々喋ってしまう。
が、ヤバい。趣味やら興味やら、感覚が似ているということは、このアカウントが発見されかねない。
しばらく会話していただけで既に彼が「タヌキ」というワードを発していてビビる。普通の人と普通に喋っていてタヌキの話になったことがあるだろうか。
いやー、似たような趣味の人はたくさんいるのだし、大丈夫とは思うが……。自ら墓穴を掘りかねない。危ない。正体を明かさないよう、上手に化けなければ。
「誰も趣味の話に食いついてくれない中で、月澄狸さんが反応してくれたもんでビックリして」と無邪気に喜んでくださっていて、私も「うん、分かります……マイナーな趣味って全然誰も食いついてくれないし、たまに誰か食いついてくれると、すごい嬉しいんですよねー」などと思うが、色んな意味でちょっと気が気ではない。
私は恋愛もできないし本性(ミサンドリスト)をバラすわけにもいかない。一生懸命、表裏を使い分けて保ってきた職場の人間関係をぶち壊すのも、なかなかリスキー。よって、八畳敷のアレみたいに話を広げるわけにはいかないのだ。
・今回の学び3……隠し事があったり、裏表があったりすると疲れる。悪いことはするもんじゃないな。
*
昔の男友達のことを思い出した。
男友達は私に股間を押しつけてきたりした。私は当時その意味が分からなかった(彼も分かっていなかったかも)。
のちに私は別の人から性被害に遭い、以前の男友達の行動が「性的」であったことも知り、多分段々と、「性」への不快感が増していった。
私に性加害をした人も、別にレイプしたわけではない。ただ唐突で、多少強引で、何より私はそういうことに疎い中学生で、意味が分からず恐怖しただけ。
別に今となっても許せることではない。
ただ二人とも、趣味が合った。それで私も嬉しかったし、相手も嬉しかったのかもしれない。
愛情表現が「性」というのはどうしても分かりにくいんだけど、でも仲良くなった動物が私にしがみついて腰を振ってきたら、それはしょうがないというか、彼なりに「本気」なのではないかと思う。
私に性的なことをしてきた二人とも、接点は性「だけ」ではなかった。
私が性に疎かったせいだが、私は事実に気づくまで、喜んで彼らの元へ遊びに行っていた。どちらとも趣味が合い、同じような趣味の人がいなかった私は、彼らと仲良くなれて嬉しかった。向こうもそう思ってくれていたんじゃないか。
他の男性から、「隙があるお前が悪い」と言われたことに激怒し、悲しみ、隠れミサンドリストになった。性というものが不快で、自分が女であること、自分に性欲があることも気色悪く、子を産むことで存続するこの世のシステム含め、すべてを憎んだ。今まで出会った人に、がさつで横暴な男性が多かったこともあり、何かずっと憎悪みたいなものを燃やしつつ生きてきた。
けど、上司の人と話せて、嬉しかったことで、「性」によって流された幸せが蘇ってきた。
そうか。私からしたら「性」は悪であり間違いみたいな扱いだったけれど、多くの人にとっては、喜びの延長線上であり、愛情表現なんだな。
それでも私は私の価値基準で、許せない。分からない。まだ怒りと痛みを抱えている。個人に対してというより、世界そのものに対する憎しみかもしれない。
趣味や価値観が似ている人に出会えるだけで幸せなのに、なぜそこに強引に「性」が絡んでくるのだ?
でも過去の再現のような今を生きている中、私は事が起こる前の「あの頃」のように、「幸せ」を感じた。趣味の合う相手がいて、思い切り好きなことを話せて、久々に幸せだった。舞い上がっているのかな?
この幸せを、このままにしておいてほしい。これ以上を求めないでほしい。そう思いつつ、彼とはコミュニケーションできそうな気もする。
もう私は無知すぎる子どもではない。大人なのだ。もしかしたら冷静にコミュニケーションを取ることができるかもしれない。話せば分かる。……かも。
いや、でもどうだろう。いくら多様性とか言って、少数派の声を取り上げる世の中になっても、「恋してハッピー」が蔓延する世の中に、太刀打ちなどできないのでは。
私は今度こそ、孤独への覚悟を固めなければならなかったかもしれないのに。甘かったのでは。
もう後戻りできないんじゃないの? 私の対応間違っているんじゃないの? どこでどうすれば良かったの? 趣味が似ているなと思っても、グッと飲み込むべきだったの?
気があるとかないとかそういう話じゃないと信じたいけど、「男は下心しかない」がちらつく。
人生に間違いも正しいもないとか言うが、私はすぐ怒り、「あれもこれも間違いだ」と思ってしまう。何もかも間違いだ。
いや、けれど、それだけじゃなかった。「間違い」「嫌」だけじゃなかった。
学校のドッジボール大会が嫌だったけれど、学校のすべてが嫌ではなかったように。
働きたくないと言いつつ、仕事がけっこう好きで、職場の苦手な人のことさえ、実は意外と好きな気がするように。
結果的に「間違い」「嫌」という結末で塗りつぶされてしまったとしても、すれ違ってしまったとしても、それだけではなかったのだ。
今の私には「人生に正解はない」がしっくりくる。
かつては良しとされたことが今は間違いとなるように、所詮「正解」などないのだ。
間違いだと思いたいこともたくさんあるが、世界は矛盾でできている。間違いに見えても、間違いだけではない。間違いによって支えられている部分もある。いわゆる必要悪か。
なので私は今、間違っているかもしれないけれど、幸せで楽しい。
もしも職場の人間関係をメチャクチャにしてしまったら? もう、それはそれで面白そうじゃないか。
一見内気でおとなしそうな私が、職場をしっちゃかめっちゃかにする。さらに職場と家が近いので、職場を乱すことは地域を乱すことでもあるような。みんなけっこうご近所さんが多い。
なんか笑けてきた。もしこの先喧嘩したりして、気まずくなったらどうなる? コメディみたいだ。
最近、夢と現実の境が曖昧な気がしたけど、仕事とプライベートの見境までなくなってきたか。ますますカオスである。
私は二の舞ならぬ三の舞に、静かに足を踏み入れたのかもしれない。
・今回の学び4……人生に正解はない。
*
また「あらしのよるに」の小説版を読みたいな。
最初はどうしてもファンタジーのような物語として読みがちだし、「オオカミとヤギが仲良くなる話」だと知りつつ見たので、小説版の出だし部分も、「このあと仲良くなるんだよね」とテキトーに読み流してしまっていたかもしれない。
先がどうなるか分からない、そしてオオカミを恐れている、そんなメイの気持ちになりきってみると、セリフの重みが増しそう。
絵本や映画では、ヤギとオオカミの出会いはけっこうあっさり流れていたかもしれないが、小説版のメイは、オオカミとの出会いで死を覚悟した。その後も、常に死と隣り合わせでありつつも、友情と信頼を選んだ。
「あらしのよるに」のメイは中性的なので、色んな捉え方ができる。中性的といえばバフォメットは両性具有らしいので、別に関係はないけど何となくヤギらしいような(創作上のイメージとして)。
それはさておき、メイを「セックス恐怖症の女の子」、ガブを「元は人並みに好色だったけれど、優しさ故に本能を押し殺した男」みたいに見ることもできるというか。そのような捉え方だと、若干心理に近づける気がした。
女は男に怯え、男は女にムラムラしながらも我慢する。そしてガブは男社会を、メイは女社会を捨て、互いのピュアな愛を「友情」という形で貫いた、みたいな。
なんて美しいのだろう。私は友情至上主義かもしれない。友達いないけど。
(というか誰でも友達だと思いたいのだけど、こちらだけ勝手に友達だと思い込みそうなもので、難しい)。
「BEASTARS」で食欲と性欲が近いものとして描かれているというのも、唸らされるなぁ。
私は屠殺動画を見て、動物たちの苦しみを思い、涙を流し、気が重くなる。それでも食べることをやめられない。
申し訳ない、可哀想、助けてあげたい、仲良くなりたい。命の格差と理不尽に涙する。それでも食べてしまいたい加虐本能を抑えきれない。
なので「食欲」は分かる。
そして男性にとっての性欲は食欲と同じなのだと言われたら。
もしそうならば、分かる気がする。
オオカミはオオカミであって悪ではない。
しかしそれでも、命は戦わなければならない。
人類は本能に抗いつつ、「本能に従わないと滅ぶ」という矛盾と劣等感と罪悪感を抱え、正当化したい思いをぶつけ合いながら生きる。滅びと永続、自由と支配のバトル。
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