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自分の中の「オンナ」への嫌悪と拒否

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 性犯罪に遭い、それについて「女が悪い」と言われ、以前から抱いてきた違和感が時々爆発してしまう。今では多くの男性に優しくしていただき、「色んな人がいる」と分かりつつあるが、やはり距離を取らないといけないのだろう。

 女が男に自ら近づくということは、求愛と取られるようだ。性的なことが苦手ならば、そのように振る舞わねば。意思をハッキリさせねば。性的なことを許すつもりがないのに男性の側にいることは、男性にとって苦行らしいから。

 男性にとっては「女性と仲良くなる=セックス」というのが自然な流れであり、「セックスのために女性と一緒にいたいのかな」という印象を受ける話が多い。セックスできないなら別れる、みたいな。


 性的に見られるのが嫌なら、女性とだけ関われば解決だろう。しかし、女性と関わってもどこか満たされない。同性愛者でない私は(女性に恋心のような興奮を覚えたことは何度かあるけれど?)、女性と関わっても「友達」以上の関係にはならない。本能的に、何かそれ以上の「深い関係」を求めてしまっているようだった。

 これは私の意志に反する。反するというか、私の意思とは関係ないというか。
 まるで悪魔憑きか何かのようだ。「恋は理屈じゃない」とよく言うように、人は発情してしまったら、本能に抗えないのか。

 女性と友達になっても、その女性は女友達と一緒にいるより、オスを探しに行きたいという欲求を強く持っている、ことが多い気がする。「彼氏ほしい」「結婚したい」と言うとか。自分では、友達関係では、相手を満たせない。そんな寂しさも感じる気がして。


 性犯罪に遭った後、女性である自分のつくりにも嫌悪感を持った。「大人になったら男装して暮らそうか」と思ったほどだった。制服のスカートなんか履いて、女の格好をして、こんなだから女として標的にされてしまった。

 相手を不浄のものと捉えると共に、自分自身の中にある「オンナ」も汚らしく見えた。学校卒業以降、たしかスカートは一度もはいていないんじゃないか。

「女は男に恋してハッピー」だの、彼氏がどうだの、「女の子は恋するために生まれてきた」だの「女は男に強引にされるとドキドキする」だの、「尽くしたい」「支えたい」だの。
 世の中、発情期のメスによる思わせぶりな言葉が溢れている。そりゃ、男性も「こうしてほしいんだろ?」となるわな。

 女は自ら、淫乱な顔して招き入れているのだ。もちろん多くは、性的なふうに見えないように「好き」だの「会いたい」だの、美しい絵や歌のように美化しながら。

 オスを求め、オスに縋る、非力なメス。立場の弱いメス。「女はこうなんだ」と、すべてにおいてそう思わせるかのようなメッセージ。男と女が出会ったら「恋」、それ以外世界に存在しないかのような空気感。


 ウェブ上では、女は男から「肉便器」呼ばわりされることもあるようだ。誰が何を思って言い出したか知らないが、女など男の性欲を吐き出すために存在する便器でしかないという意味だろうか。男性は出した後、賢者モードに入ると女体に嫌悪感を抱いたりもするというから、「女なんて汚い便所だ」という感じかもしれない。

「嫌がる女性を無理やり」というシチュエーションにも、興奮する人が多いイメージだ。あとは「俺の方が上だぞ」という高圧的な態度が(男性側に)好まれそうなイメージ。「男はセックスをすると制服感がある」も何度か聞いた気がするが、これは私の偏ったイメージなのか、実際そうなのか。


 世界にはこんなにもあからさまな悪意が溢れているのに、テレビでも歌でも小説でも映画でも、恋だの結婚だの。まるで相手がいないと生きられないように。醜い本性でしかないのに、恋が世界で一番美しいことであるかのように。

 少子高齢化という言葉も、こちらに「どうあるべきか」を促しているようだった。「嫌でも何でも交尾して子どもを産め」と言われているがごとく、恋だの結婚だの少子高齢化だの、言葉が頭にガンガン響く。


「女の幸せ」をずっと憎んできた。

 何が幸せだ。「これが幸せですよ」と押しつけやがって。交尾したくないときにも彼から強要されるとか、痛いと言ってもやめてくれないとか、家事も手伝ってくれないとか、否定的な話ばかり聞くのに、現実と幻想がごちゃ混ぜに入り乱れ、訳が分からない。交尾に幸せもへったくれもあるか。


 ところが私自身、本能が妙に足掻いてくる。「このままオンナとして生きられないのは悲しい」と。

 そうか。分かった。

 現代社会で、誰かに殺される確立はそんなに高くない。美しくない私が誰かに求められる可能性もほぼない。私が誰かと「恋」みたいな空気になるとしたら、それは私が自ら相手の気を引いたときだ。「あなたのことが好きです」みたいな空気を出し続ければ、相手も「NO」にせよ「YES」にせよ、立ち止まって振り返らざるを得ない。

 殺人犯や通り魔や放火魔を恐れて生きたってしょうがない。ほとんどの人はそんな強引なことはしないと、信じるしかない。寝ている間に火など放たれれば死んでしまうだろうし、それを恐れていてはぐっすり眠れない。大丈夫だと信じるしかないのだ。それはすべてにおいてそうだろう。

 その上で私は何を恐れてきたのか。男というより、本能に流され求めてしまうかもしれない、自分のメスとしての本性ではないか。


 なんで生きているんだろう。なんで生まれたんだろう。こんな思いを我が子にさせたくないから、我が子なんていらない。そう決心しているはずなのに。子どもを育てる能力があるはずないのに。毎日ゆっくり寝たいし遊びもしたい。金は自分のために使いたいのに。

 意志疎通ができない、コミュニケーションが取れない、訳の分からない、感情的な人間は苦手。外出先で子どもが「ギャー」と泣きわめいているのを見ると、愛おしくもなく、イライラするだけ。「なんで子どもってギャーギャー泣くんだ?」と。

 それなのに、私も無責任な男と一緒だ。孕ませて殺すとか、孕ませて逃げるとか、暴力を振るうとか、「堕ろせ」とか。私には暴力的に人を支配する力がないから、そうできなかっただけだ。ただ本能と快楽に流されて子どもを作り、そのあとどうすべきかなど、まったく分からない……そんな人間と大差ない本性を持っていることを感じるのだ。


「なんか流されて妊娠してしまった。どうしよう」となったとき。「子どもを産み育てるのは女の役目」という世間の目。男は精子を出すだけ、女は腹の中に子どもが宿ってしまう。堕ろすにしても、妊娠したという事実からは逃れようがないだろう。

 男にしてみればマスターベーションの延長線上で、「本能なんだから仕方ないだろ」というようなものであったとしても。精子なんかいくらでも捨てられているだろうけど(女の卵子も使わなかったら捨てている状態だろうが)。受精する、命を宿してしまう、人間になる可能性が高いものを発生させて捨ててしまうというのは、非常に重いことだと思う。でも快楽が先立ってしまって、命が軽いのだ。だから何もかもがおかしい。

 けれど実際どうなのか? 命はどの時点で発生するのか? 一つ一つの細胞だってそもそも、生きているといえば生きているんじゃないか。
 それは殺してしまう害虫やカビでも同じことだが。「人間になる可能性があるもの」と「人間ではないもの」で命の重みに差はあるのか。胎児の図とかで見ると、人間のも魚や鳥のとかでも、最初は同じに見えるけれど。

「胎児 いつから人間」で検索すると、様々な議論の痕跡が見える。


 別にレイプとかでなければ、妊娠の責任は男だけのものではないだろう。
 同じ「交尾」という行動をしても、その結果だとか、のしかかってくる責任や感覚、身体・金銭的負担、そういうものは女の方が圧倒的に重そうな気がするのだ。「子ども」といえば「女」とセット、そんなイメージ。

 相手が責任を取ってくれるという保証もなさそうだし。口では「責任を取る」とか「一緒に暮らそう」とかいくらでも言えるだろうし。途中で方向性が合わなくなることもあるだろうし。


 精神性の高い人たちは、性欲なんてものの、もっと先……「人としてどう在るか」ということを考えているだろうに。子どもの悩みにどう答えるかとか、世界の問題をどうなくすかとか、様々なことに取り組んでいるだろうに。私はこんな低レベルなラインで立ち止まっている。人として弱すぎる。

 仕事ができないとしても、働けばお金がもらえるのだから、バリバリ働けば良かったのだ。恋愛とか子どもとか、そういうことを諦めて生きるならば、ひたすら自分をしっかりさせて、後は投資でも趣味に生きるでも。強くなれば良かった。

 ……なんて言っても、落ちこぼれは落ちこぼれ。我々一族の得意技は家庭崩壊だけなんだろう。貧しい人がなかなか貧困から抜けられないように、私も心の貧困から抜けられないのかもしれない。
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