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男への怒り、女への不信感、人嫌いと人恋しさの狭間

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 連載「生や社会への恐怖、老いや年齢に関する疑問。誰にも聞けないから自問自答する。」のエピソード「正しく自分を理解しないと、他の人まで貶めてしまうなぁ」で書いたように、私は中学生の頃に近所の人からの性犯罪に遭い、そのことを他の男性に言ったら「性犯罪に遭うのは隙があるお前が悪い。俺の友達にダブルレイプされた女の子がいたけど、ちゃんと自分が悪いって自覚してたよ」と言われたことから、どこか男性を憎んできた。

 大人の男じゃなく、中学生の女が悪いと言われるなんて。衝撃を受け、「大人は正しい」「大人は子どもを守る」幻想が崩壊した。大人は子どもを守り導くものではなく、性的に扱い、性欲を正当化し、子どもを責めるものなのか。


 それ以外にも、小学生の頃に男子の集団にいじめられていたり(暴力は振るわれていないけど)、友達だと思っていた男子から性的なことをされたり、不審者につけられた感じがあったり、身内の男性がちょっと乱暴で無神経な感じだったりと、どうも男という存在が苦手だ。

 母が祖父に暴力を振るわれて育ったという話も何度も聞いたし、物心ついた頃、父と母がよく言い争っていて怖かったのも覚えている。
 父は以前、何かの投資(?)にぶっ込むためにけっこうな額を借金したらしい。母が私を妊娠したときに「堕ろせ」と言ったというエピソードも強烈だ。今も何かと「俺の金だぞ!」とか言うのが口癖らしい。なぜ結婚したんだろう。


 そりゃ、私も人として色々と欠陥品ではある。ノロマで、他人の気持ちが分からない。今は仕事ができない人間だ。友達もいない。イメージとしては、「性格の悪いのび太くん」といった感じだ。

 が、自分の至らなさを棚に上げ、延々と愚痴を言いたくなる。


 男性に不信感を募らせた一方、女性のイメージも、別に良くはなかった。
 隠キャである私は、ひょっとしたら女子からもいじめられていたかもしれないが、暴言を吐いてきて目立つ男子のいじめに比べて女子のは陰湿だからか、「いじめられているな」と思ったことは少なかった。基本的に人から逃げ、自分の好きなことをしていたので、無視されても気づかないかも。

 下級生女子に露骨に絡まれ、泣きそうになりながら逃げたことはある。学生の頃の私は非常に小心者で(ところどころ生意気)、いつもビクビクオドオドしており、その様子が面白かったか、あるいは人をイライラさせるので、よくいじめられたのかもしれない。

 露骨に悪ふざけをしたり暴力を振るったり……そういう女子グループが学校に存在する可能性もあっただろうが、こちらの女子は表向きはおとなしめだった(といっても授業中ギャーギャーとよく喋るけど)。

 女子といえば陰口がひどかった。私は空気みたいなもので、どこのグループにも属していないので、よく誰かの陰口を聞いた。
 それも、表ではいつも仲良さそうにしておきながら、いなくなった途端、罵るのだ。あの裏表は一体何だろう。

 女といくら仲良くなっても、裏で何を言われているか分からない。女が嫌いだ。
 男といくら仲良くなっても、性的な目で見られたり、無責任に扱われたりするかもしれない。男が嫌いだ。


 小学生の頃は友達が欲しくてたまらず、毎日寂しかった。でも人と上手く話せず、友達ができにくかったし、せっかく優しくしてくれる子がいたのに引っ越してしまったりして、関係性を長続きさせることはできなかった。

 ある日友達ができた夢を見て、心癒されたことを覚えている。友達は人間ではなく、着ぐるみのような動物たちだった。

 小学生の頃から、友達いっぱいの賑やかなファンタジーマンガを描いていた。でもストーリーはどこか残虐で暗い方に行きがちだった。子ども向けのバトルマンガでも、キャラが怪我をする描写はよくあるだろうが、私は「傷ついても戦うキャラのかっこよさ」より、「怪我をしたキャラの苦痛」とか「内臓破裂」とかに興味を抱いて描いていた気がする。

 現実では気の弱い私。嫌なやつに仕返しなどできるはずもなかったが、心の奥底では、内臓をぶちまけてやるほどの強さが欲しかったのか。


 表向き、求めていたのは友達の「温かさ」か……。
 でも現実で傍目から見る女子の「友情」は、裏で腹をさぐり合うような汚いものだった。派閥争いのようなものもあったみたい。気が抜けない関係なのかもしれない。「人間関係とは面倒なものだ」と気づいた私はあるとき「友達いらないじゃん」と悟った。

 しかし就職すると、途端に人間関係に参加させられた。しかも折り合いが悪かった。
 友達が欲しくて欲しくてしょうがなかったときは、ずっとできなかったのに。「いらないや」となった途端に「飲み会」だの「集まれ」だの、同期のグループに参加させられた。

 私はもう仲間を求める熱は冷めており、しかしうまく言えず、同じ職場の同僚には、同期グループと連絡を取る度に携帯電話を借りねばならず、「自分の携帯持ったら?」と苛つかれていた。同期の名前をなかなか覚えられないことを「失礼」だか「非常識だ」とも言われた。

 音の多い職場で、私は別に耳は悪くないはずだけれど、なぜだか音がよく聞こえなかった。何度も聞き返す勇気はなく、仕事はよく理解できず、ようやく飲み込めたとしても仕事が遅い。同僚はそんな私にとても苛立っているようだった。
 言葉が聞こえなくて聞き返し、先輩から怒鳴られたこともあった(「機械を止めろ」と言われている、スピード重視の場面で、私が状況をよく分かっていなかったから)。


 最後の方では泣きながら仕事していた。夜寝る前は「朝がくる」と絶望。朝も悲しくて涙。何も上達せず、何も楽しくなかった。休日は疲れて寝まくって過ごしたような。しかもせっかくの休日でも、前述の同期グループの集まりがあり、仲の悪い同僚に睨まれながら向かったり(でも断れなかった)。

「明日はまた仕事だ」と思うと、休日も楽しめなかった。就職するときには「定時で上がれる」と聞いて入ったのに、実際には残業のない日がほぼなかったし。電車通勤で、電車待ちやら何やらで片道1時間半くらいかかっていたはず。

 夜の8時くらいに仕事が終わる日も少なくなかったような? もっと長かったか。
 そりゃ、私よりもっと長くキツい仕事の人もいるだろうし、これくらい普通なのかもしれないけれど、私は普通に耐えきれなかった。せっかく、父より給料が高くなっていたというのに、残念ながら私には元々金銭感覚もなく、もう何も考えられず、ただ休みたいだけだった。

 ストレスいっぱいで、結果私は3年弱で、人間関係をブチ切って仕事を辞めた。
 覚えていることといえば、会社のみんなで政治家か誰かの講義(?)を聞いたときに、「学校のいじめ隠蔽事件がありましたけどね、そりゃ、組織の評価を保つために隠蔽するのもしょうがないですよ」とか何とか言われて「は?」と思ったことくらいだ。


 ……中学生の頃からネットに入り浸っている。中学生の頃はSNSと呼ばれるものはなかったけど、無料のチャットとか、無料ゲームのコメント欄とかで、人に絡みに行った。

 不思議なことに、すごく温かく、優しくしてくれる人がいっぱいいた。嫌なやつも多かったし、結局気持ちが荒れた私は、ウェブ上の荒らし・喧嘩師になってしまったけれど。それでも現実では出会ったことがないような優しい人に会えた。親切にしてもらった。「こんな優しい人間が実在するのか?」「現実とネットは別世界なのか?」と思った。ネットが私の世界になった。

 けれど人から「たかがネット」みたいに言われて傷ついた。別にそこまで強い言い方はされていないけれど、そういうニュアンスだった。
 ネットというのは息抜きにやるゲームみたいなものであり、お互いの顔も見えない。嘘もつけるし、奇麗事も言える。ネットでは良い人なんていくらでも演じられる。ただ優しいこと言ってりゃ良いだけなんだから。

「現実の方が大事」と言われているようで辛かった。
 だって現実なんて私は……学がなく、友達も恋人もいたことがなく、キズモノみたいなもんで、性格も見た目も悪くて、仕事もできない……。
 みんなには帰るべき現実、ネットより大事にすべき現実があるのだろうけど、私は現実に帰ったところで何もない。

 ただネットで、誰かに優しくしてもらえることが嬉しくてしょうがないだけだった。現実では嫌われ者だから。こんなに優しくされたことなかったから。
「友達いらないじゃん」「人なんて嫌いだ」と思いながら矛盾している。しかもそのとき優しくしてくれた、印象に残った人の多くは男性だったのだ。男性も深夜までチャットで喋ったりする……女子と同じようにお喋り好きな人は多いのか。


 ネットでは優しい男性に多く出会った。それと現実での印象がかけ離れており、優しい男性をどこか架空の存在だと思っているのかもしれない。
 現実で優しくされた場合は下心があるか、性的に見られているのかもしれない、とも。

 もう私は若くない上に、年齢以上に老けているようなので(年齢を言うと「もっと年上だと思ってた」と驚かれる)、現実で親切にしてくださる方だって、ただ人として親切なだけだろうが。いずれにせよなんだか悲しいという、訳の分からない精神状態になっている。女として見られたいのか見られたくないのか、何なんだ。


 今は一応働いている。「仕事が遅い」というようなことを何度か指摘され、「また同じ悪夢か」と憂鬱になったが、まわりの人も「これはどうやら治らないらしい」と諦めてくださったようだ。けれどまだたまに陰口を言われているらしい。

 大人の陰口は流石に、学生ほどの勢いはないかもしれない。幸いなことに、目に見えるようないじめもない。
 人が陰口を言うのはしょうがない。私も言うようになった。主にネットで書いている。


 私はただ人を愛し、愛されたかっただけかもしれない。人種、性別、そんなもの越えて、いつか誰とでも友達になりたかっただけかもしれない。
 でも現実の関係は私が思い描いていたものとは違った。男は女に興奮し、女の体を支配したい。女はキーキー陰口を言う。人間愛は見えない。人は基本的に人が嫌いなのだろう。


 私は自信喪失した。今では人の優しさが山ほど見えるようになったが、それを心から信頼する気力はない。

 香川照之さんのセクハラ報道がショックだった。香川さんには昆虫の魅力を広め、守ってもらいたかったのに。女性に乱暴するような人だとは思わなかった。
 何の接点もない芸能人のことでさえショックを受ける私は弱虫だ。けれどやっぱり私には、人を見る目がないのだと、自信がどんどんなくなる。良い人だと思った人が良い人じゃなかったらどうしよう。「良い人」ってなんだ。


 相手が女なら、「良い人だと信じていたのに陰口を言われた」程度の被害で済むかもしれない。殴り合いにはならなさそうな気がする。なったとしても勝てばいい。私は女性の中では背も高い方だ(小学生の頃はずっと、背の順で前から2番目だったなぁ……)。

 女が集団で敵対してくるかもしれないけれど、大人の女性は中高生の頃ほど群れで結束していないように見える。一人と敵対しても、余程のことをしていなければ、「他の人とも連鎖的に敵対関係になる」ことはないのではないか。

 今朝は、娘を低血糖症で入院させて共済金など570万円をだまし取っていたという、ひどい母親のニュースが流れていた。娘の体をボロボロにして金を稼ぐなんて。女性でもそんな悪魔のようなことをするのだ。

 基本的に女ができることといえば、自分より弱い子どもを虐待するか、男を誘惑して金を奪い取ること、というイメージだ。女性詐欺師が女性を騙すこともあるかもしれないけれど。


 女も危険ではあるが、男との距離感は、間違えるとよりヤバいのだろう。少しでも関係が深まれば、望まぬ交尾をしようとしてくるかもしれない。妊娠させて「堕ろせ」と言うかもしれない。父のように。

 一度受精した子どもを堕ろす。どれほどのダメージがあるのだろう。何を思うだろう。男は性を簡単に考え、「このくらい良いじゃん」と思っている人も多いのだろうか。
 やや強引に産ませようとする人もいるのだろうか。「女は子どもを産むようにできているんだから」と。

 ってそんなの人によるんだろうけど……。良い人そうに見えるからと、見誤ったらひとたまりもない。こちらが「OKを出した」というふうに取られてしまうかもしれない。「怖くて逆らえなかった」では済まされない。

 女は女を孕ませない。女である私には、やはり男の方が、人生に関わる脅威なのである。


 「信じて裏切られる」ダメージは非常に大きい。最初から疑ってかかる方が楽だ。誰も彼も敵かもしれないと。

 自分自身、表向きはちょっぴり友好と見せかけて、えげつない投稿をしたりしているもので、誰かを悲しませてきたのかもしれないけれど。「仕方ないでしょ」と開き直るくらいしかできなかった。
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