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そろそろセミの声も聞き納めかな(夏の最高気温が40度越えって……生き物たちは大丈夫?)

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 私はセミの声が好きだ。
 華々しいようでどこか物悲しく、近いようで遠いような……。哀愁漂う声で、幻想的でもある。

 夏は当たり前のように聞こえるけれど、それ以外の季節は静かである。夏はまた巡ってくるけれど、いつも頭のどこかであの声を追い求めてしまうらしく、夏以外の時期によく夢の中でセミの声を聞く。夢の中では「ほら、こんな時期にセミの声が!」と叫び、はしゃいでいる。


 以前は現実でもセミの声が聞こえる度に夏だ夏だとはしゃいでいた気がする。夏は毎年来るのだと知ってしまった今は「ふーんセミの声か」程度の反応である。なぜ夢の中ではあんなにセミの声に大喜びしているのか分からない。でも多分、夢の中で大喜びする私が本物なのだろう。慣れてしまってもセミの声はどこか特別なのだ。

 夢の中の季節は現実より鮮やかで、雪は雪、クリスマスはクリスマス、田舎の夏は田舎の夏、紅葉は紅葉……と、それにじっくり浸っている。季節や情景とただただ向き合い、現実のなんやかんや……お金のこととか、立場のこととか……そういうものは綺麗さっぱり消えているのだ。現実でセミの声や雪やクリスマスの訪れに大はしゃぎしなくなったのは、段々と季節や空気感以外のことが頭を占めていくせいだろう。


 昨日は二匹のツクツクボウシの声が聞こえた。賑やかで嬉しかった。
 今日はアブラゼミのような声が聞こえた。アブラゼミだろうか、久しぶりだと嬉しくなった。最近ツクツクボウシがメロディーの前にジリジリとアブラゼミのような鳴き方をするので、それかもしれないのだけれど。

 そろそろセミの声も聞き納めかな。


 それにしても、昔はもっと多くのセミの声が聞こえたような。今はけっこうポツポツとしていて、騒々しいというほどではない。セミの数が減ったのか、気のせいか……。以前は山などに連れて行ってもらっていたから、セミの大合唱を聞く機会もあったのかもしれない。


 たしか去年、ネットで昆虫カタストロフィという言葉を知った。世界の昆虫が激減しているらしい。昆虫は絶滅の危機にあるとまで言われているそうだ。

 世界が世界でなくなってしまうような、淡い不安を胸に私は虫たちの写真を撮る。
 大丈夫、今年もいたじゃないか。来年もきっといるだろうと。
 虫はいるのが当たり前だと。


 しかし今年の夏は天気予報の、予想最高気温が40度に迫る様子を見ながら不安になっていた。
 なんとなく、昆虫の死ぬ温度を検索してみた。ゴキブリもスズメバチも40度台で死ぬらしい。

 気温の38度とお湯の38度は違うから、虫の死ぬ温度40度台というのが何を指すかは分からない。ただ、気温が上がるとアスファルトも金属も熱い。最高気温40度って虫にとって大丈夫なのだろうか? テレビなどでも誰も触れていないけれど……。

 夏の暑い日、カラスもトンビも口を開けてハアハアと息をしていた。人間は炎天下でじっとしているだけで熱中症になりそうだけれど、この暑い中、生き物たちは大丈夫なのだろうかと思った。


 大丈夫か大丈夫じゃないか……。大丈夫じゃなかったところでどうしようもないのかもしれない。これが地球温暖化なのだろうか。


 去年はニイニイゼミの声を聞きに公園に行った。アシナガバチたちが飛び交っていて怖かったけれど、昆虫カタストロフィの不安は和らいだ。みんな元気そうだと。

 今年はセミの声をじっくり聞きに行けなかったな。来年は聞きに行こうか。来年行けなかったらその翌年行こう。でも、セミの声はあと何年聞けるのだろう。セミの声が響く夏はいつまであるのだろう。


 生き物が滅びないことを祈る。大量絶滅しないことを祈る。再び夏が来ることを祈る。

 今は秋の虫たちの大合唱が聞こえる。











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