ほの明るいグレーに融ける

さほり

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和臣の話

6.

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「どうしてその時点で通報しなかったのか…… 悔やんでも悔やみきれない。こんな結果になるなんて、想像もしていなかった。そう書き込めば、慌ててあの子を手放すんじゃないかって…… 期待していたんだ。」

氷のように冷えた背筋が、かろうじて和臣を支えていた。「こんな結果」…… ?

「レスはなくて…… 次に更新された画像に、綾人君はいなかった。いつもの白い部屋の中じゃなく、どこか森のようなところの写真で、盛った土の上に、アイスの棒が一本挿してあった。『ペットは死亡した。山中に手厚く埋葬した。冥福を祈る。』そうコメントがついていた。…… 頭が真っ白になったよ。その後、アカウントはすぐにブロックされて、そのサイトに行きつくこともできなくなった…… 」

額を手で覆って、忍は長いため息をついた。手の付けられていないつまみとぬるくなったビールをはさんで、二人の男はしばらく黙って座っていた。

「本当に、死んだ、とは…… 」

口を開いたのは和臣だった。自分のものとは思えない小さなかすれた声だったが、忍には届いたようだ。

「…… 限らない、と言うんだろ。俺もそう思った。そりゃあ、そう思ったよ。そりゃあ…… だから、確認したんだ。あの子の履歴書に書かせた、実家の番号に電話したんだよ。家政婦さんが出てね…… あぁ、綾人君はちょっといいお家の子なんだけど…… 」

そこで、忍は一度ぎゅっと歯を食いしばった。

「亡くなりました、それだけははっきり言われたよ。詳しいことを聞こうとしても、存じませんの一点張りでね。どうかそっとしておいてくださいと言われたら、もう何も言えなかったけどね…… 」


その後のことを、和臣はあまり覚えていない。
忍がその後どう動いたのか。
どちらが会計して、どうやって帰ったのか。
ただ和臣の頭の中には、見てもいない綾人の飼育される姿が浮かんでは消えた。

首輪。鎖。手錠……

泣きながら男に蹂躙される綾人の姿が、和臣の脳内で創作されてそこを埋め尽くした。
身体が内側から冷えて、鳥肌がおさまらなかった。

マンションに帰りつくと和臣は、クロゼットの奥にしまい込んだ段ボール箱を引っ張り出し、その蓋を開けた。

綾人の服。綾人のエプロン。綾人のバッグ。綾人の歯ブラシ。綾人のマグカップ。綾人の残していったすべて。

そこにはまだ、綾人のにおいが残っていた。
それを感じると和臣はたまらなくなり、涙があとからあとから溢れて止まらなかった。大人になって初めて、声をあげて泣いた。

綾人。
かわいそうな綾人。
あの日、すぐに探しに行ってやればよかった。
誰かに監禁されていたなんて、考えもしなかった。
辛い思いをしていたのに。辛い思いをしてきたのに。
殺されて埋められた?どこかの山に、一人ぼっちで…… ?
アイスの棒で作った墓標の下に――?

和臣は、目の前の箱に取り縋って泣いた。
いくら泣いても取り戻せないのだとわかっていても、和臣は冷たい床に座って朝まで泣き続けた。
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