ほの明るいグレーに融ける

さほり

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和臣の話

5.

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「7月に店を閉めてからも、俺は綾人君と連絡を取っていた。主に業務連絡だったけど、俺もあの子をいつまでも無職でいさせるわけにいかないし、責任も感じてた。カズの言う夏の終わりに、俺は師匠についてエチオピアに豆の買い付けに行っていて、帰ってきたら綾人君と連絡がつかなくなっていた。LINEが既読にならないし、電話にも出ない。律儀な子なのに、おかしいと思ったよ。カズにも連絡しただろ。『もう別れたから』と言ったきり、返事もろくによこさなかった。」

そこで忍は、ちらりと和臣を見た。

「…… 責めるつもりはないよ。俺だって、おかしいと思いながら何もしなかった。他に仕事見つけたかな、忙しいのかな、携帯変えたのかな。自分が忙しくなったこともあって、それほど気にしなかったんだ。放置したんだよ。あの子が泣き叫んでいたかもしれないのに……っ!」

絞り出すような忍の声に、和臣は指先が冷たくなるのを感じた。この話の先を聞くのが怖かった。

「先月、友だちがあるサイトの存在を教えてきたんだ。店にもよく来てくれていたから、綾人君のことも知ってるやつだよ。そこは、会員制のゲイサイトで、マニアックな投稿動画やディープなチャットで成り立っているようなところでね。気が進まなかったがとにかく見ろと言われて会員登録したんだ。教えられたものはすぐに見つかった。管理人の男がペットの様子を動画で配信しているブログみたいなもので…… 」

「…… 」

「綾人君だったよ。」

「……え?」

「目隠しをされていたり、モザイクを入れたりしてあったけど、あれは、綾人君だった。2年も一緒に働いて、毎日のように顔を見てきたんだ。目隠しされていたって、わかる。…… 綾人君が、首輪で、鎖につながれて、…… 飼われていた。」

耳から入った情報を、脳が処理するのが異常に遅かった。

飼う?人間を?綾人を?鎖でつないで――?

「遡って始めから見たよ。飼育日記が始まったのは、9月3日。」

和臣は全身に冷水をかけられたように感じた。それは、綾人が和臣のマンションを出て行った翌日だった。

「それから三日と上げず、裸でベッドに寝ている姿、あざのできた腕や脚、手錠で拘束された手首…… 継続的に写真がアップされていて…… 合間に動画も公開されていた。だから、声も確認したよ。あんな声でも……綾人君に間違いなかった…… 」

あんな声。その言葉の意味を、図りたくはなかった。

「あの子が、どんなことをされていたか、とても言えない…… 反吐が出たよ。こんな動画を公開することが、社会的に許されるのかと…… はらわたが煮えくり返った。それで俺は、怒りにまかせて、そのサイトに書き込みをしたんだ。『この、虐待されている子を知っている。これは犯罪だ。自首してその子を開放しろ』そういう内容のことを、書きなぐった。…… 迂闊だったよ。」

忍は眉間を押さえて目を閉じている。唇が震えていた。
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