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土曜日
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ナギサに支えられて帰宅すると、和臣はソファに横になった。
一度パニックになると、そうなった自分に動揺し、さらに酷い症状になるのではないかという不安のせいで治まらないという悪循環に陥る。
とりあえず自宅に帰って来られたことに、和臣は心の底から安堵した。
3月の夕日が差しこむリビングで、ナギサはオレンジ色に光る眉を歪めて和臣を見下ろしている。
精神的な障害を持たない者に、こういう発作のことは理解できないだろう。
かっこ悪い…… どう見ても年下の、金髪の、鼻ピアスの、こんな奴の前で、とんだ醜態だ。
和臣はそう思いながら、息声で呟いた。
「…… 悪かった。何でもないんだ。」
「何でもないわけないだろ?急にあんなふうになって…… 何でもないとかないだろ!?」
茶化してくるかと思った彼の、意外な反応に驚く。昨夜からへらへらした顔しか見せていないナギサに真顔で迫られて、和臣はひるんだ。
ーー 不意打ちだったんだ。
ちょうど綾人のことを思いだしたときに、あれが目に飛び込んできたんだ……
「アイスの棒が、だめなんだ…… 」
嘆息の後に吐き出された和臣の言葉に、はじかれたようにナギサはかぶせた。
「なんで?前は別にそんな……っ」
一瞬の沈黙ののち。
顔を上げた和臣から、ナギサは目をそらした。
「前って、なんだよ?」
「…… 」
「前って、なんだよ?」
必死で頭を回転させているような顔で黙るナギサに、和臣はもう一度聞いた。
「おい!おまえなんなんだよ!…… 誰だよっ!?」
「話すからぁ!」
そう遮って和臣に向き直ったナギサには、もうにやにや笑いが戻っていた。ただ、貼りついたようなその笑顔の、口角が引きつっていた。
「オレも話すからぁ、エトーも、さっきの、アイスの話、全部して。ね?交換。エトーが話したら、オレも全部話す。おけ?」
和臣は黙ってナギサを見つめた。ナギサはそれを合意ととったのか、わざとらしくにっこりと笑ってから踵を返した。
「もう大丈夫そぉだね。コーヒー淹れてくる。エトーはその間にアタマ整頓しといてね。つか、でも、都合よく話変えたりしたらだめだからねぇ?」
振り向きざまにウインクをしてくる。
―― そりゃお前の方だろうが。てゆうかほんとに、誰なんだよ….…
少なくとも、昨日偶然会った、隣のキャバ嬢のヒモでないことだけは確かだ。
昨夜は酔っていたせいもありすっかり忘れていたが、あのキャバ嬢は半年前に引っ越して、今隣室には老夫婦が住んでいるのだから……
一度パニックになると、そうなった自分に動揺し、さらに酷い症状になるのではないかという不安のせいで治まらないという悪循環に陥る。
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顔を上げた和臣から、ナギサは目をそらした。
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「…… 」
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「話すからぁ!」
そう遮って和臣に向き直ったナギサには、もうにやにや笑いが戻っていた。ただ、貼りついたようなその笑顔の、口角が引きつっていた。
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