ほの明るいグレーに融ける

さほり

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金曜日

1.

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江藤和臣えとうかずおみが帰宅すると、自宅マンションの部屋の前に、見知らぬ男が立っていた。
ドアをふさいでいるわけではなく、外廊下の手すりにもたれるようにして星のない3月の夜空を見上げている。

暗い電灯の光で、長めの髪が金色に光っている。そのせいか、身体全体もぼんやりと発光しているように見えた。
蛍光色の上着のせいだろうか。

近づく足音に気づいたのか、男はゆっくりと和臣の方に顔を向けた。つり気味の大きな目が印象的な、きれいな顔をしている。

だがしかし、その男は全く和臣の好みではなかった。

右の小鼻に銀色のピアスが光っている。渋谷あたりのがちゃがちゃした店のマネキンのような品のない格好をしているし、袖口からのぞく手首や脚は小枝のように茶色く細い。

親しくなりえないタイプの人間だし、駅で話しかけられたのであれば無視して足早に通り過ぎただろう。

すぐに部屋に入らなかったのは、他人に見られているときに、鍵を開けて自宅に入るのを躊躇しただけだ。向こうに何ら悪意がなくても、30を過ぎたおっさんでも、昨今住所を知られることを用心せずには生きられない。

通り過ぎて向こうの非常階段から降りて時間をつぶすか……

和臣がそう考えたとき、男の方から話しかけてきた。

「こんばんわぁ。」

意外と、悪くない声だ。ただし、語尾が伸びていなければ。

「えっとぉ、江藤さん?あ、今のはしゃれじゃなくってぇ、はは、うけた?うけた?あ、オレね、隣のキャバ嬢の彼氏なんだけどぉ、いや、だったんだけどぉ、かな。」

男は和臣の反応を見るように下から覗き込みながら、一方的に喋った。

「二股がばれておん出されちゃって、今、すっげえ困ってんの。寒いし?夜だし?もう終電ないし?金もないし?」

和臣は思った。いやな展開だ。こんな話は聞きたくない。続きはもっと聞きたくない。

やはり駅前でもう一軒行っておけばよかった。せっかくの金曜日だ。今日は会社の近くで同僚と飲んだ後、最寄り駅近くのバーで一人しっとり飲みなおしてから帰ろうと思っていたのだ。すると折悪く近くの交差点で事故があったらしくサイレンや野次馬が騒々しくて、興をそがれて少し早く帰ってきただけなのに。

「そこになんと!親切なお隣さんが!」

男は両手を銃の形にして和臣をロックオンした。猫のような目を細くして、乱射するように手首を上下に振っている。

なんなんだこのテンションは。帰宅を後悔する和臣に、男はにやにや笑いながら間合いを詰めてきた。

「お兄さん、ゲイでしょ?」

耳元で突然ささやかれた言葉に、和臣は思わず身構えた。
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