クラッシュゼリー

さほり

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終章・ハッピーDom/subライフ

2.

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「せんせー!息子がボッキンボッキンで寝れないから、便所行ってきていいっスかーー?」

オレが手を挙げて聞いたら、日本史の先生は呆れ顔でチョークを振った。

「本郷、そういうのは休み時間に済ませておきなさい。」
「イヤだって無理。昼休みスタートの生理現象だから!先生、オレ日本史大好きだし家でちゃんと勉強してるから許して!シックス・ナイン・しすぎで藤原京遷都!」

先生は一瞬ぽかんとした後で目玉を上に泳がすと、背中を向けて黒板にチョークを滑らせた。 

持統8年 (694年) 藤原京遷都

先生の背中が笑ってる。

「早く行って来なさい。」

やった!
オレは最近仕入れたゴロ合わせが役に立ったことに満足した。斜め前の海老沢は、肩越しに振り返って残念なものを見る目でオレを見てる。

「あ、海老沢連れて行ってもいいスか?つーか便所じゃなくて保健室でもいい?いやむしろオレたち具合悪いからもう帰ろっか。な、海老沢?」
「ふざけんなバカ!俺を巻き込むな!」

海老沢が顔を赤くして睨んでくる。
夏服のシャツの襟から、チラッと黒い革紐が見えた。

「保健委員だろ、仕事しろよ。」
「誰が保健委員だ、違うわ。」
「大丈夫だって。『人を救いたいという真心さえあれば、誰でもナイチンゲールになれます』から。」
「誰だおまえ。つうか意味わかんねぇんだよ!」

「おーい、漫才は保健室でしなさい。」

先生の言葉に、どっと教室が湧いた。

「ほら海老沢、先生もああ言ってるし。とりあえず保健室行こうぜ?」

席まで迎えに行って腰を抱くと、赤面した海老沢が耳元に顔を寄せてきた。

「ばっかおまえ、何ほんとに勃たせてんだよ?放課後まで我慢しろって。」

言質をとったオレはニンマリした。交代して、海老沢のピンクの耳元に口をつける。

「言ったな?じゃあ放課後、ストッキング買って帰ろうな。約束だぞ?」

海老沢は何か反論したそうに口を開けたけど、オレはさっさと席に戻りながら手を挙げた。

「せんせー!オレやっぱチャイムまでがんばる。がんばりマス。いいゴムo.k. オッケーハザマ。」

永禄3年 (11560年) 桶狭間の戦い

ちょっと上を見て(天井になんか書いてあんのか?)背中を向けた先生の板書に、すかさずツッコミが入る。

「先生それすげぇ未来のバトルになってます!」

先生が慌てて黒板消しの角で1を擦る間に、教室は男子校ならではの生温かい雰囲気に包まれた。

「本郷お前もうエロ年表作れ!」
「加古が萌え絵描いてセット売りしろ!」
「お前のエロを世の中に役立てやがれ!」

賞賛を浴びながら視線を送ると、海老沢の向こうにソフトクリームみたいな入道雲が見えた。
9月の教室はまだ真夏みたいに暑い。
海老沢の首輪カラーが開襟からチラ見えするたびにニヤニヤしちゃうオレの楽しみは、まだまだ続きそうだ。

あ、水鉄砲あれ買うの忘れてたな……

オレはペンケースから油性ペンを出して、忘れないように手の甲に水鉄砲の絵を描いた。
下手な絵は、太ったアルファベットのPを倒したみたいになって。その先から水滴が出てるのを描き出したら、余計に…… もぉ完全に海老沢のアレにしか見えない。

「ぶっは…… っ!」

堪えきれずに吹き出したオレを、海老沢は振り返らなかった。背中を丸めて、机の下でスマホ…… たぶんローションストッキングをググってる。
チャイムの後、どんな顔を見せてくれるのか楽しみでしょうがない。

あー、今日も平和だな。
そんでなんか、すげぇ幸せだ。

オレは手の甲の海老沢をよしよしと撫でて、大きく腕を上げて伸びをした。

【了】
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