38 / 78
ドロップ
3.
しおりを挟む
目が覚めたとき、俺は中川さんと2人きりだった。
「あれ…… ?」
見回すと、景色は変わってない。同じカラオケルームだけど、いつの間にか大村たちはいなくて。
隣で携帯見てた中川さんが、上からにっこりと笑った。
「おはよう」
ベンチシートで横になってた俺は、まさか朝まで寝てしまったのかと思って慌てて時計を見た。
針が差しているのは、10時過ぎ。
え、どっちの…… ?
「2時間近く寝てたよ。星那くん、酒飲み慣れてないんだね」
よかった。朝まで寝てたわけじゃなかった。
うちは放任主義ってわけじゃない普通の家だから、無断外泊なんかしたら、後で説教くらうに決まってる。金曜日だから学校の心配はないけど、日付けが変わる前には帰りたい。
「すみません。俺、帰らないと…… 」
身体を起こすと、中川さんの腕が伸びてきて、ギュッと俺の耳を引っ張った。
「…… っ!?」
驚いて目を上げると、中川さんはさっきまでと変わらずにこにこと笑っている。その顔のまま、引っ張っている耳に爪を立てて、強引に俺の身体を引き寄せた。
「しつけの悪い子だね。寝てる君につきあってあげた僕に、どの口が帰るとか言えるのかな?」
息がかかるほどの距離で、中川さんが言う。その顔はホントに、楽しそうで。両端の上がった唇が、そのままの形で言葉を発した。
「跪け。」
温度を感じさせない硬質な「命令」に、俺の身体がビクッと震えた。内腿と腰が、ブルブルする。俺はベンチに座ったまま、動けなかった。
「そこじゃないだろう?なんで僕と同じ高さの所に座ってる?跪けって言ったの、聞こえなかったかな?」
耳に食い込む爪に、強く力が込められる。
楽しそうに細められた目に、じっと覗き込まれた。
「跪け。」
中川さんの手が耳を離して、俺の頭を叩いた。
怖い。
笑っている人が、こんなに怖いなんて、知らなかった。
俺は中川さんが指で指示した足元に、ぺたんと座った。
帰りたい。
帰りたいけど、このまま帰してもらえるわけじゃないことは、わかる。
何をしたら、帰してもらえる…… ?
俺は次の指示を待って、中川さんの膝の間から、その笑顔を見上げた。
満足そうに目を細めた中川さんが、腕を伸ばして来る。また叩かれると思って身構えたら、ふわっと頭を撫でられた。
「いい子だね、星那。」
…… 嬉しくない。
ひどく怖い。
なのに、身体の奥から甘い快感が脳に駆け上がる。
褒められたことにホッとして、身体の力が抜けた。
カチャ、と音がして。
俺の頭から離れた手が、目の前にあるベルトを外し始めた。ごく自然な手つきで、中川さんが自分のズボンのジッパーを下ろす。
何…… ?
え…… 何…… ?
何をさせられるのか、予想できることが怖かった。
恐怖で歯が、カタカタと鳴った。
逃げたい。
走って逃げたい。
ここはカラオケルームだし、鍵がかかってるわけじゃない。縛られてるわけでもない。
だからその気になれば、逃げられるはずなのに。
脚にも腰にも、全く力が入らない。
なんでだよ…… ?
わからない。
本気でわからない。
でも、中川さんがいいって言うまで、俺はここから逃げられない。
それだけは強く、本能で、感じた。
「ご褒美だよ。」
鼻先に突きつけられたそれは、凶器だとさえ思うのに。絶対に嫌だと思うのに。
「口を開けなさい、星那。」
どうしても逆らえないその「命令」に、下顎が勝手に、下がった。
「あれ…… ?」
見回すと、景色は変わってない。同じカラオケルームだけど、いつの間にか大村たちはいなくて。
隣で携帯見てた中川さんが、上からにっこりと笑った。
「おはよう」
ベンチシートで横になってた俺は、まさか朝まで寝てしまったのかと思って慌てて時計を見た。
針が差しているのは、10時過ぎ。
え、どっちの…… ?
「2時間近く寝てたよ。星那くん、酒飲み慣れてないんだね」
よかった。朝まで寝てたわけじゃなかった。
うちは放任主義ってわけじゃない普通の家だから、無断外泊なんかしたら、後で説教くらうに決まってる。金曜日だから学校の心配はないけど、日付けが変わる前には帰りたい。
「すみません。俺、帰らないと…… 」
身体を起こすと、中川さんの腕が伸びてきて、ギュッと俺の耳を引っ張った。
「…… っ!?」
驚いて目を上げると、中川さんはさっきまでと変わらずにこにこと笑っている。その顔のまま、引っ張っている耳に爪を立てて、強引に俺の身体を引き寄せた。
「しつけの悪い子だね。寝てる君につきあってあげた僕に、どの口が帰るとか言えるのかな?」
息がかかるほどの距離で、中川さんが言う。その顔はホントに、楽しそうで。両端の上がった唇が、そのままの形で言葉を発した。
「跪け。」
温度を感じさせない硬質な「命令」に、俺の身体がビクッと震えた。内腿と腰が、ブルブルする。俺はベンチに座ったまま、動けなかった。
「そこじゃないだろう?なんで僕と同じ高さの所に座ってる?跪けって言ったの、聞こえなかったかな?」
耳に食い込む爪に、強く力が込められる。
楽しそうに細められた目に、じっと覗き込まれた。
「跪け。」
中川さんの手が耳を離して、俺の頭を叩いた。
怖い。
笑っている人が、こんなに怖いなんて、知らなかった。
俺は中川さんが指で指示した足元に、ぺたんと座った。
帰りたい。
帰りたいけど、このまま帰してもらえるわけじゃないことは、わかる。
何をしたら、帰してもらえる…… ?
俺は次の指示を待って、中川さんの膝の間から、その笑顔を見上げた。
満足そうに目を細めた中川さんが、腕を伸ばして来る。また叩かれると思って身構えたら、ふわっと頭を撫でられた。
「いい子だね、星那。」
…… 嬉しくない。
ひどく怖い。
なのに、身体の奥から甘い快感が脳に駆け上がる。
褒められたことにホッとして、身体の力が抜けた。
カチャ、と音がして。
俺の頭から離れた手が、目の前にあるベルトを外し始めた。ごく自然な手つきで、中川さんが自分のズボンのジッパーを下ろす。
何…… ?
え…… 何…… ?
何をさせられるのか、予想できることが怖かった。
恐怖で歯が、カタカタと鳴った。
逃げたい。
走って逃げたい。
ここはカラオケルームだし、鍵がかかってるわけじゃない。縛られてるわけでもない。
だからその気になれば、逃げられるはずなのに。
脚にも腰にも、全く力が入らない。
なんでだよ…… ?
わからない。
本気でわからない。
でも、中川さんがいいって言うまで、俺はここから逃げられない。
それだけは強く、本能で、感じた。
「ご褒美だよ。」
鼻先に突きつけられたそれは、凶器だとさえ思うのに。絶対に嫌だと思うのに。
「口を開けなさい、星那。」
どうしても逆らえないその「命令」に、下顎が勝手に、下がった。
0
お気に入りに追加
894
あなたにおすすめの小説

こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる