ただΩというだけで。

さほり

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終章

7.

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「俺、煙草やめようと思ってます」
「え?なんで……?」
「もともと付き合いで吸ってた感じなんですよね、喫煙室のコミニュケーションツールというか。でも、体に良くないって分かってるものを、惰性で吸い続けるのはやめようと思って。津田さんより長く生きないといけないですし」

  リスク低減ですね、さらりとそう言って、乾はカウンターを回ってキッチンに向かった。

「あっ!」

  冷蔵庫を開けた乾が、驚いた声を上げてから神妙な顔で中を覗いている。津田が首を傾けると、容量の半分近くを占領する白い箱が見えた。

「ケーキがあったんでしたね。いつ食べます?おやつでもいいし、朝食がわりに今少し切りましょうか?」
「とりあえず、中身の大きさ見てみよ。箱だけでかいのかもしんねぇし」

  結果として、津田の予想は間違っていた。増井はおそらく、昨夜の送別会に出席した全員で少しずつ食べられるようにと考えて選んだのだろう。テーブルに鎮座するいちごのホールケーキは、ゆうに十人分はありそうなサイズだ。

「うーーん…… 」
「増井さんが専務のお嬢さんだってこと、初めて実感したような気がします」

  乾のつぶやきに、津田も頷いて同意を示した。きっと彼女は、毎年の誕生日にはこういう大きなケーキで盛大にお祝いされて育ったのだろう。可愛い砂糖菓子の動物が乗ったケーキは、見栄えが良いぶん値もはりそうに見える。

「ケーキは冷凍できるはずですから、今日と明日の分を切り分けて残りは冷凍庫に入れましょうか。週末ごとに三人で食べて…… って、律君、ケーキは解禁していいんですか?」
「まぁ、もう2歳だしちょっとずつな。律のお祝いでもらったケーキなのに、俺ら二人で食うのもなんか違うだろ」
「じゃあ、来週の誕生日には少し大きめに切ったのでお祝いしましょう。なんかいいですね、毎週、津田さんと一緒にいられるお祝いができるみたいで」
「…… 太りそうだけどな」


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