ただΩというだけで。

さほり

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約束

3.

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  乾は津田と律の習慣に触れ、自分がいなくなった世界で、遺された人たちに想ってもらえたら嬉しいと思うようになった。

「津田さん、」

  髪を撫でながら呼びかけると、津田は乾の胸につけた頭をわずかに傾けて応えた。

「俺、実は昔からなんとなく、死が怖くて。漠然と、死んだら何も残らない、全部消えて無くなってしまうと思うと、ものすごい虚無感に襲われたりしたんですけど…… 
  津田さん達が、亡くなった佐伯さんや凛花ちゃんを大切にしてるのを見て、なんて言うか、死ぬのも怖くないって思うようになりました」

  誰かの心の中で、思い出となって生き続けられるなら。もしかしたらそれが、誰もが一度は考えたことのある、人生の意味なのかもしれない。

「なんだよそれ…… 」

  前向きな気持ちを口に出したつもりだった乾は、津田の低く硬質な声に肩を揺らした。
  津田は両手で乾の服を硬く握り、凍りついた目を見開いて乾を見上げている。彼の手も唇も、小刻みに震えていた。

「津田さん…… ?」

  痩せた喉仏が上下にゴクリと動く。カタカタ鳴る奥歯をギュッと噛み合わせ、津田は歪んだ唇の隙間から、恐怖に掠れた声で懇願した。

「一個だけ、約束して。俺より先に、絶対…… 」

  死なないで。

  およそ彼らしくない願いだった。死に序列などない。そんな約束をしたところで、病気や事故は防ぎきれない。そのことは、津田自身が一番よく知っているはずだ。
  それでもなお、そんな不確かな約束を求める彼が、あまりにも哀しく愛しかった。

「約束します。絶対、津田さんを遺して死んだりしません」

  乾は津田の目を見て誓い、震える身体をきつく抱きしめた。
  もしもこの世に神や仏が本当にいるのなら、一日でいい、自分を彼より長く生きさせてほしい。
  そう、切実に願った。
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