ただΩというだけで。

さほり

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新生活

6.

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  鳩が豆鉄砲をくらったような顔の乾に、津田は舌先を出したままいたずらな笑顔を見せる。

「ここ、ピッピして探してみな」

  津田がリモコンを手渡すと、律は生まれて初めて得たチャンネル権に目を輝かせた。

「津田さんて…… 」

  乾は赤らめた顔を隠すように手で口元を押さえている。

「ときどきホントにびっくするようなこと、平気でしますよね 」
「自分では味見してないんじゃねぇかと思ってさ」
「まぁ、してなかったですけど…… 」

  口中に押し込まれたラムネを転がしながら、わずかに顎を動かす乾を見上げ、津田は目を細めた。

「で、どうよ?甘い?」
「美味しいですよ、そりゃあもう」

  やけくそか照れ隠しのような反応に幼さが垣間見えて、小さく吹き出した。その津田の笑顔に、乾が優しく微笑み返す。
  津田はソファの肘掛けに体重を移してから、ゆっくりと立ち上がった。

「じゃ、食事メシ並べんの、手伝うよ。一日中ごろごろしてて、かえって身体痛ぇわ」

  慣れないキッチンで料理をするべからず。乾にそう言われ、食事は彼がコンビニや総菜屋で買って来たもので済ませている。抜糸したら最初に作るものとしてハンバーグをリクエストされているので、津田はそれまでは贅沢な余暇を満喫することにしていた。
  テーブルの上には、乾が持ち帰ったコンビニの袋が二つ置かれている。

  乾は立ち上がる津田に手を貸し、リモコンの三角ボタンを押しながら次々にチャンネルを変える律を目で示した。彼に聞こえないよう、津田の耳元にそっと囁く。

「今の時間、子ども番組はやってないと思うんですけど…… アニメ録画してあるんでそれ再生しますか?」
「いや、メシの間は見せたくねぇから、それはまた今度。ゆっくり観れるときにしよう」
「じゃあ、さっさと並べちゃいましょうね」

  乾が帰りがけに律と一緒に買ってきた夕飯は、津田の好みと律が食べられそうな惣菜を考えて選んだことが分かる品揃えだった。


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