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このまま目を覚まさなくても
8.
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夢の内容は覚えていない。重荷を背負って夜中の海を泳ぐような、つらく悲しい夢。その暗い印象だけが、脳裏にこびりついている。
佐伯のサラサラした前髪に鼻を埋めると、懐かしい日なたの匂いがした。
チリ、と、小さな違和感が頭をかすめる。それが津田の胸に、小さな波紋を起こした。
腕の中の佐伯は、不思議そうな顔で見上げている。その頬を手の甲で撫でると、彼は子どものように肩をすくめて笑った。
愛らしい笑顔。愛しさと懐かしさで胸がいっぱいになる。
(どうして、懐かしいと思うんだろう…… ずっと一緒にいたのに…… )
佐伯が腕の中にいる。ただそれだけで、涙が出るほど嬉しい。それなのに、ざわざわとした違和感に、ひどく落ち着かない。何かがおかしい。でも、何がおかしいのか分からない。
津田はつかみどころのない不安を覚え、佐伯の顔を覗きこんだ。
佐伯はいつもどおりにかわいい。30歳手前になっても、その外見は初めて会った大学生の時とほとんど変わらない。でも口を開けば驚くほどに気が強い。この顔で、火みたいな男でーー
佐伯のことを、最近誰かにそう話したような気がする。穏やかに微笑みながら聞いてくれた、誰か。
その肖像はぼんやりとしか浮かばず、津田は首を傾げた。
「話を…… 」
津田が切り出すと、先を促すように佐伯が見上げてくる。そのつぶらな瞳が、たまらなく懐かしい。
「話したいことが、たくさんあるよ…… 」
話したいことと、謝りたいこと。
たくさんの感謝と、懺悔と、謝罪。
いつかまた会えたら、一番に謝ろうと思っていたことーー
「凛花、は……?」
口に出すまで、一人娘のことを忘れていた自分に、津田は驚いた。
陽だまりのような笑顔。柔らかい手の甲に並んだ小さな凹み。抱きついてきた時の、意外な骨の太さと確かな重み。
納豆の匂いにしかめた顔に笑みが漏れそうになり、胸を刺すような違和感に動きが止まった。
佐伯のサラサラした前髪に鼻を埋めると、懐かしい日なたの匂いがした。
チリ、と、小さな違和感が頭をかすめる。それが津田の胸に、小さな波紋を起こした。
腕の中の佐伯は、不思議そうな顔で見上げている。その頬を手の甲で撫でると、彼は子どものように肩をすくめて笑った。
愛らしい笑顔。愛しさと懐かしさで胸がいっぱいになる。
(どうして、懐かしいと思うんだろう…… ずっと一緒にいたのに…… )
佐伯が腕の中にいる。ただそれだけで、涙が出るほど嬉しい。それなのに、ざわざわとした違和感に、ひどく落ち着かない。何かがおかしい。でも、何がおかしいのか分からない。
津田はつかみどころのない不安を覚え、佐伯の顔を覗きこんだ。
佐伯はいつもどおりにかわいい。30歳手前になっても、その外見は初めて会った大学生の時とほとんど変わらない。でも口を開けば驚くほどに気が強い。この顔で、火みたいな男でーー
佐伯のことを、最近誰かにそう話したような気がする。穏やかに微笑みながら聞いてくれた、誰か。
その肖像はぼんやりとしか浮かばず、津田は首を傾げた。
「話を…… 」
津田が切り出すと、先を促すように佐伯が見上げてくる。そのつぶらな瞳が、たまらなく懐かしい。
「話したいことが、たくさんあるよ…… 」
話したいことと、謝りたいこと。
たくさんの感謝と、懺悔と、謝罪。
いつかまた会えたら、一番に謝ろうと思っていたことーー
「凛花、は……?」
口に出すまで、一人娘のことを忘れていた自分に、津田は驚いた。
陽だまりのような笑顔。柔らかい手の甲に並んだ小さな凹み。抱きついてきた時の、意外な骨の太さと確かな重み。
納豆の匂いにしかめた顔に笑みが漏れそうになり、胸を刺すような違和感に動きが止まった。
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