325 / 417
このまま目を覚まさなくても
4.
しおりを挟む
看護師に案内された小さな部屋には、くたびれた印象の白衣の医師が一人座っていた。
40代だろうか、PCモニターの光に照らされた彼は、乾の入室に気づくと座って少し待つように指示した。カタカタと音を立てて打ち込んでいるデータは、おそらく津田の処置に関するものだろう。
手術室から出てきたこの医師が、目線とわずかな肯首だけで津田の無事を伝えてくれた時、乾には彼が神に見えた。手術着を脱いでも、その顔を見間違えることはない。
津田の手術と現状の説明を聞くため、乾は医師に指示された回転椅子に腰をかけた。
津田は今、特別室で眠っている。
乾が呼んだ救急車で病院に搬送された彼は、慌ただしく運び込まれた手術室で一命をとりとめた。駆けつけた救急隊員の様子から、津田が生命の危機にあったことは明らかだ。
乾は手術室前の無機質な廊下で待つ間、カタカタと鳴る歯をグッと噛みしめた。すると、その歯列が津田のうなじに食い込んでいた時の感覚が蘇り、叫びそうになるのを必死でこらえた。顎に残る鈍痛は、それだけ強い力で噛んでいたという証拠だ。
術後、意識のないまま病室に移された津田は、まだ目を覚ましていない。包帯で首を巻かれ、縫合した患部が下にならないよう身体を横向きに固定されていた。
点滴の管に繋がれた彼は、河野のマンションから助け出した後の姿を彷彿とさせる。
あの時、なんて酷いことをと、乾は内心憤った。それなのに、今津田を病院のベッドに繋いでいるのは、他ならぬ自分自身だ。
乾は彼の現状を思い出し、顔をしかめてうなだれた。
「合意でしたか?」
突然かけられた声に、乾は驚いて顔を上げた。医師は青白い顔をモニターに向けたまま、横目でちらりと乾を見た。
「乾さんですね。津田、幸生…… さんの番の。今回、番の成立は合意でしたか?」
40代だろうか、PCモニターの光に照らされた彼は、乾の入室に気づくと座って少し待つように指示した。カタカタと音を立てて打ち込んでいるデータは、おそらく津田の処置に関するものだろう。
手術室から出てきたこの医師が、目線とわずかな肯首だけで津田の無事を伝えてくれた時、乾には彼が神に見えた。手術着を脱いでも、その顔を見間違えることはない。
津田の手術と現状の説明を聞くため、乾は医師に指示された回転椅子に腰をかけた。
津田は今、特別室で眠っている。
乾が呼んだ救急車で病院に搬送された彼は、慌ただしく運び込まれた手術室で一命をとりとめた。駆けつけた救急隊員の様子から、津田が生命の危機にあったことは明らかだ。
乾は手術室前の無機質な廊下で待つ間、カタカタと鳴る歯をグッと噛みしめた。すると、その歯列が津田のうなじに食い込んでいた時の感覚が蘇り、叫びそうになるのを必死でこらえた。顎に残る鈍痛は、それだけ強い力で噛んでいたという証拠だ。
術後、意識のないまま病室に移された津田は、まだ目を覚ましていない。包帯で首を巻かれ、縫合した患部が下にならないよう身体を横向きに固定されていた。
点滴の管に繋がれた彼は、河野のマンションから助け出した後の姿を彷彿とさせる。
あの時、なんて酷いことをと、乾は内心憤った。それなのに、今津田を病院のベッドに繋いでいるのは、他ならぬ自分自身だ。
乾は彼の現状を思い出し、顔をしかめてうなだれた。
「合意でしたか?」
突然かけられた声に、乾は驚いて顔を上げた。医師は青白い顔をモニターに向けたまま、横目でちらりと乾を見た。
「乾さんですね。津田、幸生…… さんの番の。今回、番の成立は合意でしたか?」
1
お気に入りに追加
671
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
トップアイドルα様は平凡βを運命にする
新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。
ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。
翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。
運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる