314 / 417
番(つがい)
14.
しおりを挟む
「あんた達、分かり易すぎるんだよ」
鼻で笑った里谷の顔を思い出し、津田は長く細く息を吐いた。自分が発情休暇を取っている今日、乾が中抜けや早退をして、里谷が気づかないはずがない。もしかしたら、乾が席を外している間にオフィスでそれを揶揄するかもしれない。
乾によると、職場でも自分達の関係はじわじわと漏れているらしい。公にしたいと言ってくれる気持ちは嬉しいが、彼の評判を考えると、やはり自分が去るまでは伏せておきたいと津田は考えていた。
Ωだということを除いても、契約社員の部下に手を出す上司というのは聞こえが良くない。若いメンバーの多い部署とはいえ、内心あまり良く思わない者もいるだろう。
乾が無味乾燥な人間だと思われることは不本意だが、自分のせいで下卑た空想や噂の種にされる方が、津田にとってはずっと不快だった。
津田からの連絡がなくても、できる限り早く帰ると乾は言っていた。
「津田さんみたいに、定時退社を目指します」
そう言って笑った顔を思い出すと、腰の奥で何かがじゅわっと浸み出すような感じがした。
(う…… )
身体を巡る血液に、骨から溶け出したフェロモンが少しずつ混ざるような、不思議な感覚。「その時」に向けて準備を進めるΩの身体が、期待と興奮に甘く痺れていく。
津田は額を押さえ、ゆっくりと息を吐いた。
残りのコーヒーをあおると、冷えた液体が喉を冷やすのが気持ちいい。そう感じることが、身体が既に熱をもっている証拠だろう。
洗濯の終了を知らせる電子音が聞こえ、津田は空になったカップを流しに置くと、洗面所に向かった。
服や下着は外に干すとしても、シーツは乾燥機にかけた方がいいだろうか。ダブルベッドのシーツはかなりの幅がある。
そう思って乾燥機を覗くと、乾が取り出し忘れたのか、一週間分と思しき彼の衣類が乾いた状態で庫内に放置されていた。
鼻で笑った里谷の顔を思い出し、津田は長く細く息を吐いた。自分が発情休暇を取っている今日、乾が中抜けや早退をして、里谷が気づかないはずがない。もしかしたら、乾が席を外している間にオフィスでそれを揶揄するかもしれない。
乾によると、職場でも自分達の関係はじわじわと漏れているらしい。公にしたいと言ってくれる気持ちは嬉しいが、彼の評判を考えると、やはり自分が去るまでは伏せておきたいと津田は考えていた。
Ωだということを除いても、契約社員の部下に手を出す上司というのは聞こえが良くない。若いメンバーの多い部署とはいえ、内心あまり良く思わない者もいるだろう。
乾が無味乾燥な人間だと思われることは不本意だが、自分のせいで下卑た空想や噂の種にされる方が、津田にとってはずっと不快だった。
津田からの連絡がなくても、できる限り早く帰ると乾は言っていた。
「津田さんみたいに、定時退社を目指します」
そう言って笑った顔を思い出すと、腰の奥で何かがじゅわっと浸み出すような感じがした。
(う…… )
身体を巡る血液に、骨から溶け出したフェロモンが少しずつ混ざるような、不思議な感覚。「その時」に向けて準備を進めるΩの身体が、期待と興奮に甘く痺れていく。
津田は額を押さえ、ゆっくりと息を吐いた。
残りのコーヒーをあおると、冷えた液体が喉を冷やすのが気持ちいい。そう感じることが、身体が既に熱をもっている証拠だろう。
洗濯の終了を知らせる電子音が聞こえ、津田は空になったカップを流しに置くと、洗面所に向かった。
服や下着は外に干すとしても、シーツは乾燥機にかけた方がいいだろうか。ダブルベッドのシーツはかなりの幅がある。
そう思って乾燥機を覗くと、乾が取り出し忘れたのか、一週間分と思しき彼の衣類が乾いた状態で庫内に放置されていた。
0
お気に入りに追加
671
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
トップアイドルα様は平凡βを運命にする
新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。
ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。
翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。
運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる