ただΩというだけで。

さほり

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決断

16.

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  真新しい中学の制服に身を包み、こちらに向かってはにかんでいる少女。その写真の少女の頬を、津田の指がついっと撫でた。

「…… 凛花」

  愛しそうに目を細め、微笑みながら娘の遺影を見つめる津田の横顔に、乾は胸が詰まった。

「津田さんに、似てますね…… 」
「そうか?」
「髪の、柔らかそうな感じとか…… 唇…… いや、パーツのバランスなのかな…… 」

  彼女の目元は、津田と違う半月形をしている。人の印象は目に左右されやすいから、もしかしたら似ていないと言われた親子だったのかもしれない。
  それでも乾には、凛花の写真から津田と同じ雰囲気がにおい立つように感じた。

「Ω、だったからな…… 」

  一人娘の人生に起こる、理不尽な不自由や差別をずっと見てきたのだろう。Ωに産んでしまったという負い目のようなものを感じ、津田にかけるべき言葉が見つからない乾は、歩み寄って彼の隣に立った。

「恥ずかしながら、作法がよくわからないんですが…… お線香をあげさせてもらってもいいですか?」

  そう聞くと、津田は涙目を細めて
「ありがとう」
  と言った。

  津田は仏壇の正面にある座布団を避け、畳の上に静かに正座した。乾は勧められた座布団に膝を下ろしながら、慣れた手つきでマッチを擦る津田の指先を見ていた。
  マッチも線香も、迷うことなく抽斗から取り出した津田の所作に、パートナーを亡くしてからの年月を感じる。

  津田は先端につけた火を手で扇ぐと、細い煙の上がった線香を乾に渡してくれた。
  促がされるままそれを香炉灰の上に刺すと、煙が細く天井に向かって昇って行く。おりんを鳴らし、その余韻の中で手を合わせた乾のまぶたの裏でも、一本の煙が縦に線を引いて伸びていた。

  隣を見ると、津田はまだ目を閉じたまま手を合わせている。長いまつげに覆われたまぶたがゆっくりと上がるのを待って、乾は聞いた。

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