ただΩというだけで。

さほり

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逡巡

6.

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「なん…… で?」

「津田さんから電話をもらった後、こちらにお願いしておいたんです。律君を預けに来たときに津田さんの様子がおかしかったら、連絡してほしいって」

  乾の肩越しに、彼に連絡したのであろう保育士が不安そうに様子をうかがっているのが見えた。
  彼とは一度、食事に行く前に一緒に律を引き取りに来たことがあるから、ただの上司でないことは分かった上での対応だろう。

「特効薬は、やめたほうがいいです。また胃が荒れるし…… 最近使いすぎてます。抑制剤ピルは、飲んでるんですよね?」

  乾が津田の横髪を払い、火照った頬に手を当てた。冷たい手が気持ちいい。
  津田は少し顎を引くことで彼の質問に答えた。

「こんなに発熱して、動けもしないのに…… どうして、呼んでくれないんですか…… 」

  乾がつらそうに目を細めた。
  傷つけるつもりはなかったのに。ただ、仕事中に呼び出すようなことをしたくなかった。そんな都合のいい頼り方を、したくなかったのだ。

「んあ…… っ」

  思わず声が出てしまった。乾に触れられているだけで、身体が濡れる。力を入れていないと、奥から蜜が溢れ出てしまう。それが怖くて恥ずかしくて、津田は目を伏せた。

  前髪にかかる乾の息が、普段より荒いのが分かる。彼も興奮しているのだと思うと、喜びが甘い快感となって津田の身体を駆け巡った。

「今日、医務室使えないんで…… つらいでしょうけど、少しがんばって歩いてくださいね」


  乾に肩を貸してもらい、着いた先はシティホテルだった。
  少し歩くと言ったけれど、オフィスのある商業ビルを出ればそのホテルの入り口は斜向かいにあった。毎日自宅と職場の往復しかしていない津田はオフィスの周りに何があるのかもよく知らないのだが、乾が迷いのない足取りでそこに向かったということは、避難先として調べてくれていたのだろう。

「座って待っててください」

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