ただΩというだけで。

睦月のむつごと

19.

「だから…… なんつうか、分かるから。いろいろさ、思うようにいかないよな。特に、俺らの身体は…… βとは違うし」

「俺…… すみません。男同士なら、どちらがどうするのかは、事前に話し合うべきだったのに…… 」

「そこは、気にしてほしいとこじゃねぇんだよ。Ωの俺がタチだなんて思わないだろって、それは当然そうだと思うし」

  眉をひそめ、津田が背中を向けた。
  また不快にさせてしまったと、乾は内心ひやりとする。どんな言葉をかけるべきかと、細い肩を見ていたら。

「それに、俺が………… って思ったんだからさ、それで、いいだろ…… ？」

  ぼそぼそと独り言のような声で、津田が呟いた。肝心なところはひときわ聞き取りにくくて、乾は一瞬耳を疑ったけれど。
「お前になら抱かれてもいい」確かにそう聞こえた。

「津田さんっっ！」

  後ろから抱きつくと、津田が驚いた声をあげた。感情のままに強く抱きしめる。密着した津田の身体が、居心地悪そうに身動みじろぎした。

「ちょ、おま、苦し…… 」

  苦しいと言いながらも、津田の声はむしろくすぐったそうに弾んでいて。緩めた腕の中で振り向いた彼は、
「とりあえずお前、そのゴム取れって」
  からかうようにそう言って、おかしそうにくくくと笑った。



「腹減ったなぁ」

  津田がそう言うので、ホテルの近くにあるコンビニに二人で買い出しに行った。乾はルームサービスを取ろうと思っていたのだが、津田が文字のメニューからよりも棚に並んだ商品を見て選びたいと、珍しく主張したからだ。
  今日の支払いは全部自分が、と申し出ていた乾の懐具合を気遣ってのことかと思ったが、コンビニで弁当を選ぶ津田は思いのほか楽しそうだった。

「律と一緒に食うからさ、普段は辛いものが食べられない」

  笑みを浮かべて辛味の強いものを探す津田の見慣れない買い物姿に、乾はなんとも言えない嬉しさを感じた。