ただΩというだけで。

睦月のむつごと

4.

  耳の後ろの髪の生え際、鎖骨の下、右の脇…… 普段見えないところにあるほくろまでが愛しい。乾がその一つひとつに口づけを落とすと、細い身体がピクリと反応した。

「も…… ちょっと、そういうの…… 」

  居心地悪げに身動みじろぎする津田が、眉をひそめて顔を背ける。彼のそんな恥じらいにも、身体の奥がじんわり温まった。

  好きな人に触れる、それだけのことが、こんなに嬉しいなんて。
  さらっとした肌の温かさや、少し汗ばんできた肘の内側も。津田が身動きするたびに浮き出る肋骨の形も。手を伸ばせば触れられる、唇を寄せると短い吐息が聞こえる。そんな反応が、嬉しくて堪らない。

(やっぱり、発情期じゃない時でよかった…… )

  平常時でさえ、人を惹きつける津田。正直に言えば今だって、早くひとつになりたくて焦る気持ちを堪えている。夢の中では何度も貪った、彼の中はどんなに温かくて気持ちがいいだろう。

  それを味わってもいいというこの状況で、性急に身体を繋げないでいられるのは、彼のフェロモンが抑えられているからだ。
  αの性を煽られてこんな部屋に津田と二人きりになれば、愛しさなどすべて吹き飛んだ、ただの交尾になってしまうだろう。

  その肌に、髪に、触れることで反応する、津田の感情の動きが見たい。漏れる吐息や指先のひくつきを感じたい。αとΩだからこそ、普通なら難しい「普通の」愛を交わしたい。

  津田が夫と死に別れて7年。
  彼の性格とこれまでの態度を見るに、この7年間はそういう行為とは無縁で生きてきたはずで。男に触れられる、という感覚を、この人の身体は忘れているかもしれないから。
  じっくり時間をかけて、愛したい。
  乾はそう思って、猛る自身を諫めながら津田の身体のあちこちにキスをした。