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松の内
12.
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乾の首筋が、ピクリと動いたのが見えた。
「律は…… 佐伯の家に預かってもらえると、思うんだ。一昨日、連れてったら、また行きたいって、言って…… 」
津田は必死に言葉を選んだ。恥ずかしい。死ぬほど恥ずかしい。こんなふうに、誰かを誘ったことなんかない。いたたまれない気持ちでちらりと目線を上げると、乾は驚いた顔をしていた。
「それは…… その、そういう、お誘い…… だと考えて、いいのでしょうか?」
津田が目を伏せると、乾が吐いたフッという息の音がした。
笑ったのか、それともため息か?
顔を上げられない津田に、硬く困惑したような彼の声が降ってきた。
「お気持ちは、ありがたいです。でも、あの、そういうことをお礼として…… その、提供する、と言われても、正直、あまり…… 嬉しくはありません」
(…… は?)
言われたことが信じられず、思わず顔を上げると、乾は傷ついたような顔で津田を見ていた。
(提供…… ?)
強烈な羞恥と悲しみが、津田の心中で破裂した。
「バカじゃねえの…… 俺なんかの身体が、お礼になるわけねえだろ…… そんな、思い上がってねえよ…… ほんと…… バカみてぇ」
身体が震えた。鼻の奥がツンとする。それに気づかれたくなくて、津田はぐっと奥歯を噛みしめた。
(恥ずかしい…… こんな、最悪…… )
零れる。下を向いていたら、零れてしまう。でも、上を向いたら顔を見られる。どうしたら、顔を見られずにここを出て行けるだろう。
津田が必死に考えていると、突然頭から抱きしめられた。ぼやけた視界が、乾のスーツの濃紺でいっぱいになった。
「…… すみません」
腕にふさがれた耳の隙間から、乾の低い声が届いた。
「すみません。泣かないでください。そうじゃないんです。誤解でした…… 許してください」
熱い息が、頭頂部にかかる。髪の中に、乾の鼻が押し付けられるのを感じた。
「律は…… 佐伯の家に預かってもらえると、思うんだ。一昨日、連れてったら、また行きたいって、言って…… 」
津田は必死に言葉を選んだ。恥ずかしい。死ぬほど恥ずかしい。こんなふうに、誰かを誘ったことなんかない。いたたまれない気持ちでちらりと目線を上げると、乾は驚いた顔をしていた。
「それは…… その、そういう、お誘い…… だと考えて、いいのでしょうか?」
津田が目を伏せると、乾が吐いたフッという息の音がした。
笑ったのか、それともため息か?
顔を上げられない津田に、硬く困惑したような彼の声が降ってきた。
「お気持ちは、ありがたいです。でも、あの、そういうことをお礼として…… その、提供する、と言われても、正直、あまり…… 嬉しくはありません」
(…… は?)
言われたことが信じられず、思わず顔を上げると、乾は傷ついたような顔で津田を見ていた。
(提供…… ?)
強烈な羞恥と悲しみが、津田の心中で破裂した。
「バカじゃねえの…… 俺なんかの身体が、お礼になるわけねえだろ…… そんな、思い上がってねえよ…… ほんと…… バカみてぇ」
身体が震えた。鼻の奥がツンとする。それに気づかれたくなくて、津田はぐっと奥歯を噛みしめた。
(恥ずかしい…… こんな、最悪…… )
零れる。下を向いていたら、零れてしまう。でも、上を向いたら顔を見られる。どうしたら、顔を見られずにここを出て行けるだろう。
津田が必死に考えていると、突然頭から抱きしめられた。ぼやけた視界が、乾のスーツの濃紺でいっぱいになった。
「…… すみません」
腕にふさがれた耳の隙間から、乾の低い声が届いた。
「すみません。泣かないでください。そうじゃないんです。誤解でした…… 許してください」
熱い息が、頭頂部にかかる。髪の中に、乾の鼻が押し付けられるのを感じた。
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