109 / 417
失踪
12.
しおりを挟む
当然、津田の携帯には何度も連絡を入れたうえでのことだろう。彼に何かあったのでなければ、律のお迎えを放棄することなど考えられない。
(やっぱり、事故に…… )
駅までの道で、もしくは駅構内で、津田は何かの事故に巻き込まれたのではないだろうか。
例えば今彼が病院に運ばれていたとして、その状態であることを誰かが連絡してくれるだろうか。命を落とすようなことがあれば、警察から遺族に連絡が行くものであろうが……
最悪の事態を想像して、乾はぶるっと震えた。
「事故では、ないかもしれない…… 」
低い声で、佐伯がつぶやいた。
「T大の、河野教授…… その名前に、覚えがあるよ。息子から聞いたんだ。もちろん昔の話だが…… 彼は昔、幸生君にずいぶん執着していたと…… 」
佐伯は津田を、下の名前で呼んだ。そのことで改めて、彼らの間には乾の知らない歴史があるのだと認識させられた。
「不確かなことを口に出すべきでないかもしれないが…… 会食がそんなに早く終わったということも、不自然に思える。私には、河野君が絡んでいるように思えてならない」
「そう…… でしょうか」
確かに河野は津田に執着していた。ただ、乾には、社会的地位も家庭もある河野が、津田に何らかの危害を与えるとは思えなかった。
「とりあえず律は、私が引き取って自宅に連れて帰るよ。もしも連絡がついたら、幸生君にそう伝えてほしい。都内の救急指定病院には私の方であたってみるから、乾君は…… 河野教授に、料亭での話を聞いてみてほしい。行けなかった非礼もお詫びしなければならないしね」
乾を責めているわけではないだろう。それは分かっているが、佐伯の最後の言葉が乾の胸に刺さった。自分がちゃんと津田と一緒に会食に行けていれば、こんな事態にはならなかったはずだ。
(やっぱり、事故に…… )
駅までの道で、もしくは駅構内で、津田は何かの事故に巻き込まれたのではないだろうか。
例えば今彼が病院に運ばれていたとして、その状態であることを誰かが連絡してくれるだろうか。命を落とすようなことがあれば、警察から遺族に連絡が行くものであろうが……
最悪の事態を想像して、乾はぶるっと震えた。
「事故では、ないかもしれない…… 」
低い声で、佐伯がつぶやいた。
「T大の、河野教授…… その名前に、覚えがあるよ。息子から聞いたんだ。もちろん昔の話だが…… 彼は昔、幸生君にずいぶん執着していたと…… 」
佐伯は津田を、下の名前で呼んだ。そのことで改めて、彼らの間には乾の知らない歴史があるのだと認識させられた。
「不確かなことを口に出すべきでないかもしれないが…… 会食がそんなに早く終わったということも、不自然に思える。私には、河野君が絡んでいるように思えてならない」
「そう…… でしょうか」
確かに河野は津田に執着していた。ただ、乾には、社会的地位も家庭もある河野が、津田に何らかの危害を与えるとは思えなかった。
「とりあえず律は、私が引き取って自宅に連れて帰るよ。もしも連絡がついたら、幸生君にそう伝えてほしい。都内の救急指定病院には私の方であたってみるから、乾君は…… 河野教授に、料亭での話を聞いてみてほしい。行けなかった非礼もお詫びしなければならないしね」
乾を責めているわけではないだろう。それは分かっているが、佐伯の最後の言葉が乾の胸に刺さった。自分がちゃんと津田と一緒に会食に行けていれば、こんな事態にはならなかったはずだ。
0
お気に入りに追加
671
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
トップアイドルα様は平凡βを運命にする
新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。
ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。
翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。
運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる