ただΩというだけで。

縮まらない距離

14.

  うつぶせにさせたい。後ろから強く突きたい。突き動かして、一番奥の、感じるところに俺を全部注ぎ込みたい。
  それから、うなじを噛みたい。思い切り噛んだら、この人は泣くだろうか……？

  泣いて嫌がっても、それでもうこの人は俺のものだ。
  俺のものだ。ずっと離さない。
  俺だけを見て、俺だけを誘う。俺だけのために濡れる。
  俺だけの、津田さん――


  ビクッと、身体が跳ねた。
  わけが分からず、目だけで周りを確認する。
  自分の部屋だ。まだ暗い。あのまま眠ってしまったらしい。

（なんて夢を…… )

  乾は一つ、大きなため息をついた。
  右手には、まだ熱い腕の感触が残っているようだ。

  布団もかけずに寝てしまったのに、身体は熱をもってしっとりと汗ばんでいた。上体をひねって枕もとの時計を見ると、午前5時過ぎだ。
  ひたり、と下腹に冷たいものを感じ、はっとして掌で押さえた。
  スラックスの下で下着が濡れている。

（…… 嘘だろ……？）

  30代になってまで、明け方に下着を洗うはめになるとは思わなかった。
  乾は濡れた手で蛇口をひねり、流しっぱなしにしていた水を止めた。ギュッと下着を絞ると、洗面台の隣の洗濯機に放り込む。

  まだ実家で家族と暮らしていたころ、夜中に下着を洗うのが嫌で仕方がなかった。
  物音を聞きつけて、誰かが起きてくるのではないか、何をしているのだと聞かれたらどうしようと、生きた心地がしなかった。
  下洗いされた下着を見れば、母は長男に昨夜なにがあったか気づくだろう。そう思うと、羞恥で朝食もろくに取れなかった。

  この歳で夢精をしたことはショックだが、あのころに比べれば、後始末は格段に楽だ。一人暮らしのマンションで、誰に見咎められる心配もない。