ただΩというだけで。

さほり

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発情期

4.

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  津田がなにごとか応えている。少しうつむいて、顔を上げた瞬間に、ビクッと頭が揺れた。男の肩越しに、津田が乾を見ているのが分かった。

  ポーン、という音が響く。

「あ、じゃ、エレベーター来たんで、また!」

  津田の動揺に気づかない様子で、男は小包を抱えたまま軽く頭を下げて、エレベーターに乗り込んでいった。
  軽く片手を上げて男に応えた津田は、エレベーターの扉が閉まるのを見届けると、伏し目がちに歩き出した。

  ゲートを抜け、長い脚を動かすたびに、キュッキュッと小さな音がする。足元を見ると、津田はオフィスで見る革靴とは違う、くたびれたスニーカーを履いていた。
  黒いTシャツにジーンズ姿の彼が、休暇を押して出勤してきたわけでないことは服装で分かる。

  さっきの男とはにこやかに話をしたであろう津田の顔は、いつもの無表情に戻っていた。
彼が近づくにつれ、揺れる空気がほんのりと甘くなる。うっすら紅潮した頬と潤んだ目を見れば、発情休暇が虚偽でないのは明らかだ。

  何を言ってくるかと待っていた乾に、津田はすっと会釈しただけで横を通り過ぎようとした。驚いた乾は思わず、振り向きざまに彼の手首をつかんだ。

「え…… っ?」

  腕をとられて前につんのめり、振り向いた津田が怪訝そうな目で乾を見る。
その潤んだ目が一瞬大きく見開かれたかと思うと、彼の細い身体がガクッと崩れた。

「う…… あっ」

  乾が掴んだままの腕が震えている。
  床にへたり込むような姿勢でうなだれる、津田のうなじから甘い匂いがしていた。

「ん…… うぅ…… っ」

  津田は片手で自らの腰を抱き、苦し気な声をあげて乾の手を振り払った。
  前のめりに床にうずくまって震える彼の息が荒い。乾は息をのんだ。「病気で具合が悪い」わけではないことは、一目瞭然だった。

「津田さん、抑制剤ピルは……?」
「飲んでるよ!」

尋ねると、聞いたことのない鋭い声で津田が答えた。

「飲んでても…… たまに、こういう…… っ、は、う…… っ」

    
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