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第十一節 成果

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「止め! 少し休憩だ!」

相変わらずリジェクトの特訓を行っている主人公。そこに爆破の指示が入る。

「どうしたツトム? 顔に疲れの色が見えるぞ。しっかり寝てないのか?」

「は、はい……まぁ」

爆破の問いかけに目をそらす主人公。

「……まさか」

(ヒョッ!)

爆破達の後ろでダラダラと汗を流す逃隠。

「ベッドが合わないのか? クッションを硬いのに替えてやってもいいぞ」

「いいえ、大丈夫です!」

(ふいー、危なかったゼー)

汗をぬぐう逃隠。

「今日は早めに上がるか……休憩を挟んだら、今日はあと1時間だ! しっかりな!」

「ハイ!」

座って休憩する主人公。

(このあとサケル君の特訓もあるんだよな、疲れても仕方ないよ)





――夜、主人公と逃隠の自室。

「昼間はどうしタ? ツトム。もうへばったのカ?」

「どうせ僕は体力ありませんよーだ」

少しはぶてる主人公。

「まぁ疲れても無理はないカ。それに毎日筋トレしても意味が無イ」

「?」

逃隠の言葉に疑問を抱く主人公。

「ツトム、超回復って知ってるカ?」

首を横に振る主人公。

「筋トレは1回筋肉を破壊しテ、それを体が治すときに余分に回復させテ、それで筋繊維を大きくしているんダ」

「それを超回復って言うの?」

コクリ、とうなずく逃隠。

「超回復を起こすには体を休めなければいけなイ。ツトムの場合ハ、1日筋トレをしたら1日休憩を挟むようにしよウ」

「良かったー。少なくとも毎日はやらなくていいんだ」

逃隠の言葉に安心する主人公。

「しかシ! 動体視力のトレーニングは毎日やるゾ! いいナ?」

「うん! 分かったよ」

特訓の日々は続く。





こうして狩人ラボに泊まり始めてから二週間が経とうとしていた。



――夜、主人公と逃隠の自室。

「ツトム、少々時期尚早かも知れないガ、実践的な特訓を開始するゾ」

「? どういう事? サケル君」

「回避の術ヲ、実際にお前が使っていくんダ」

「⁉」

突然の逃隠の提案に、驚きを隠せない主人公。

「そ、そんな。もう僕が、回避の術を使えるって言うの?」

「まァ基本中の基本、『避け』をするだけなんだがナ」

主人公の問いかけに軽く答える逃隠。

「手っ取り早く言うト、今から組手をすル。と言ってもツトム、お前はただひたすら俺の攻撃を『避ける』だけなんだけどナ。これまで鍛えた動体視力と下半身の俊敏性で俺の攻撃を避けるんダ!」

「ゴクリ(……うまくいくかな?)」

息をのみ、身構える主人公。

「じゃあ行くゾ! まずは8割の力のパンチだ!」





「シュッ」





逃隠が主人公にパンチを繰り出す。

(……あれ? 拳が……ゆっくり……)

集中した主人公には逃隠のパンチがスローモーションに見えた。

「トン」

主人公は逃隠の拳を軽く手で軌道を変えたため、パンチは当たらなかった。

「見事に『避けた』ナ。だが手に当たってハ、もしこれがゾムビーの体液だったらどうすル?」

「あ、……そうだね」

虚を突かれる主人公。

「下半身を使って触れずに避けるんダ、行くゾ」

「シュッ」

再びパンチを繰り出す逃隠。主人公は完全にそれを見切り、右足を斜め前に動かし避け、体を回転させて逃隠の後ろを取った。

「あ……」

(体が……軽い)

「やるナ、ツトム。後ろまで取るとはナ。どうダ? 自分の身体能力が、向上しているのが分かるだロ?」

振り向き、主人公に話し掛ける逃隠。

「うん! 特訓の成果、ちゃんと出てるよ」

喜ぶ主人公。

「そうカ、だがこれはまだ8割の力ダ。次は10割で色々な技を使っていくゾ、いいナ?」

「うん!」



「でハ、始メ!」



「シュッ……シュッ……シュッ」

両手で交互に、しっかりとしたパンチを1秒間隔ぐらいで打ち込む逃隠。

(1発1発に力を込めているのが分かる……!)

逃隠のパンチを、そう感じ取りながら避け続ける主人公。足を動かし避ける。時折、大きく体を反らして避けるが、下半身に力が入っているため、上体がどんな体制でも崩れない。20秒くらい経って、逃隠が足を使った。



「ガッ」

「⁉」

「すてーん!」



足をとられ、こける主人公。

「イタタ、もう! ずるいよサケル君」

「ハハ、悪いナ、ツトム。だが相手に正々堂々という言葉は通じないゼ、どんな攻撃が来ても対処できないとナ」

「確かにそうだけど……」

納得いかない様子の主人公。

「ほラ」

逃隠が手を差し伸べる。主人公は手をとり、立ち上がる。

「特訓の成果は出てるナ! この調子ならここを出るときにはかなりの精度の『避け』ができるようになるゾ!」

「うん!」

自信に満ち溢れた表情の主人公。そこへ――







「ビ――ビ――ビ――」







「⁉」

警報が鳴る。スピーカーに顔を向ける二人。

「Y市内の繁華街でゾムビー発生。戦闘員は至急現場に向かうように! 繰り返す。Y市内の繁華街で……」

「ツトム、行くゾ!」

「コクリ」

逃隠と顔を合わせ、頷く主人公。



――Y市、繁華街。

「ザッ」

主人公と逃隠の二人がゾムビー発生現場に到着する。爆破と狩人の隊員も数名居る。



「早速、特訓の成果を実践する機会に出くわしたナ、ツトム」

「うん。やってみせるよ、サケル君」



逃隠と会話を交わす主人公。手にいつもの手袋をはめる。通信機を持ち、命令を下す爆破。

「隊員達は民間人の避難を最優先だ。安全なところへ誘導しろ」

「ラジャー」

「それとツトム」

「ハイ!」

「2体、行けるか?」

「やります!」

爆破の応じかけに答える主人公。

「よし、残りは私がやる! 行くぞ!」

繁華街での戦いが始まる!
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