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第十三話 パワハラデイズ
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『今まで甘くしてましたが、これからは厳しくします』
小林さんはその言葉通り、俺に対して当たりが強くなっていった。あの日からの業務の流れはこうだ。まず曖昧に説明され、その業務のイメージが湧かないまま、できますかと問われ、はいと、答える。業務中に質問が浮かぶ。質問する。何で最初に聞かなかったんだと、怒鳴られる。更に日を重ねるごとに、こんな感じになっていく。業務の進捗を話しにいくが、怒鳴られ、常に悪い緊張感の下、業務をおこない不具合が起き、怒鳴られる。
正に、不具合が起こりやすい状況を作り上げられて、不具合が起きればキレると、いったカタチだ。8月前の研修でも、怒鳴られ、委縮してしまいがちだったが、小林さんのそれは目的が分からない以上、あの研修の方がマシに思える。次第に先ほどから語っているパワハラはエスカレートしていく。始めに業務の説明があるのだが、業務を進めて行くうちに言うことが変わり、その上で怒られる。理不尽極まりない。顔を見られただけですぐ機嫌を悪くされる。今日は俺、まだ何もしてないだろ……。この上司が為、瀬賀さんはあんなに元気が無かったんだ。俺はそう悟った。しかし、俺に辞めるという選択肢は無かった。
3年――、ひとまずやってみよう。日本人の悪い癖だが、ひとまず続けていると慣れてきて仕事ができるようになるかも知れないと、思っていたのだ。
それから毎日の様に、今日も怒られるんだとか、今から報告しに行くんじゃない、今から怒られに行くんだと、思う様になっていった。不具合を起こしてはいけないから、質問をする。しかし、
「こっちにも仕事があるんだ。いちいち聞いてくんな」
とはねのけられた。
「自分で調べもせずに――」
と続けられた。そうは言っても、平社員は情報漏洩の危険意識が低いと判断されているため、職場でインターネットを使うことができない。どう調べろと……?
「ここに、色々と資料があるんだよ!」
そう言って小林さんは客先の社内のイントラネットを使い、資料の場所を教えてきた。
「こんなのも分からないのか! 即戦力しか要らないんですよ!!」
おい、ちょっと待て。客先の社内のイントラネットがある事は今知ったぞ。存在が分からないものを、どうやって知っておけというんだ。流石に無理があると思い、小林さんの俺の中の評価は今まで出会ってきた人の中でワースト3に入る性格の悪さとなった。更にパワハラの日々は続く。
ある日、新しく言葉を覚えた。『トルク』というものだ。回転軸の周りのモーメントを指し、簡単に言うとねじりの強さの事である。その日、業務の内容がどんなものか、説明してみろと小林さんに言われた。自身はそこまで無かったが、自分なりの言葉で説明しようとした。
「……トルクが、関係していて――」
「トルクは関係無い」
「!」
俺の説明は遮られた。なら、何が関係しているのだろう……? 純粋に疑問に思い、小林さんの説明を聞いた。
「――が、――で、そこでトルクが関係していて……」
「!?」
さっきトルクは関係ないって言ったのに……! そこから先の説明は全く頭に入って来なかった。
「――、――」
頭ごなしに、只々、否定されている……。この人には、何をやっても、何を言っても無駄なんだと、心から絶望した。よし、そろそろ潮時だな。俺は室井係長に、部署異動の申し出をその日におこなった。うーんと、室井さんは困り果てていた。
「正直、この時期に異動されたら困る。それと、小林君に問題はあるけど、田淵君にも問題はあると思う」
「!」
室井さんの言葉を聞いて、目を見開き驚いた。
小林さんはその言葉通り、俺に対して当たりが強くなっていった。あの日からの業務の流れはこうだ。まず曖昧に説明され、その業務のイメージが湧かないまま、できますかと問われ、はいと、答える。業務中に質問が浮かぶ。質問する。何で最初に聞かなかったんだと、怒鳴られる。更に日を重ねるごとに、こんな感じになっていく。業務の進捗を話しにいくが、怒鳴られ、常に悪い緊張感の下、業務をおこない不具合が起き、怒鳴られる。
正に、不具合が起こりやすい状況を作り上げられて、不具合が起きればキレると、いったカタチだ。8月前の研修でも、怒鳴られ、委縮してしまいがちだったが、小林さんのそれは目的が分からない以上、あの研修の方がマシに思える。次第に先ほどから語っているパワハラはエスカレートしていく。始めに業務の説明があるのだが、業務を進めて行くうちに言うことが変わり、その上で怒られる。理不尽極まりない。顔を見られただけですぐ機嫌を悪くされる。今日は俺、まだ何もしてないだろ……。この上司が為、瀬賀さんはあんなに元気が無かったんだ。俺はそう悟った。しかし、俺に辞めるという選択肢は無かった。
3年――、ひとまずやってみよう。日本人の悪い癖だが、ひとまず続けていると慣れてきて仕事ができるようになるかも知れないと、思っていたのだ。
それから毎日の様に、今日も怒られるんだとか、今から報告しに行くんじゃない、今から怒られに行くんだと、思う様になっていった。不具合を起こしてはいけないから、質問をする。しかし、
「こっちにも仕事があるんだ。いちいち聞いてくんな」
とはねのけられた。
「自分で調べもせずに――」
と続けられた。そうは言っても、平社員は情報漏洩の危険意識が低いと判断されているため、職場でインターネットを使うことができない。どう調べろと……?
「ここに、色々と資料があるんだよ!」
そう言って小林さんは客先の社内のイントラネットを使い、資料の場所を教えてきた。
「こんなのも分からないのか! 即戦力しか要らないんですよ!!」
おい、ちょっと待て。客先の社内のイントラネットがある事は今知ったぞ。存在が分からないものを、どうやって知っておけというんだ。流石に無理があると思い、小林さんの俺の中の評価は今まで出会ってきた人の中でワースト3に入る性格の悪さとなった。更にパワハラの日々は続く。
ある日、新しく言葉を覚えた。『トルク』というものだ。回転軸の周りのモーメントを指し、簡単に言うとねじりの強さの事である。その日、業務の内容がどんなものか、説明してみろと小林さんに言われた。自身はそこまで無かったが、自分なりの言葉で説明しようとした。
「……トルクが、関係していて――」
「トルクは関係無い」
「!」
俺の説明は遮られた。なら、何が関係しているのだろう……? 純粋に疑問に思い、小林さんの説明を聞いた。
「――が、――で、そこでトルクが関係していて……」
「!?」
さっきトルクは関係ないって言ったのに……! そこから先の説明は全く頭に入って来なかった。
「――、――」
頭ごなしに、只々、否定されている……。この人には、何をやっても、何を言っても無駄なんだと、心から絶望した。よし、そろそろ潮時だな。俺は室井係長に、部署異動の申し出をその日におこなった。うーんと、室井さんは困り果てていた。
「正直、この時期に異動されたら困る。それと、小林君に問題はあるけど、田淵君にも問題はあると思う」
「!」
室井さんの言葉を聞いて、目を見開き驚いた。
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