社畜戦士

いぶさん

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第六話 研修・再びその2

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「やったー! 面会のOK出たー!!」

「!!」

俺達の班は、別の班の研修の進み具合を表す発言を聞いて焦り始める。

「なんか、普通の研修じゃないな」

「ああ、本格的にマナーとかを身に着けるまで終わりそうにない……」

モッさんと俺は会話を交わし、次に携帯で面会の許しを得るにはどうする? と思いを巡らせた。

「じゃあ俺、電話するよ。一応社長だし」

「!」

住田が口を開いた。助かった、と俺は胸をなでおろした。コイツ、大丈夫か? とモッさんは思ったかも知れない。とにかく、住田が電話をするのを、固唾をのんで見守った。

「もしもし、SSOTの社長、住田と申します――」



――、数十秒、時間が経っただろうか。住田は携帯のボタンをピッと押し、電話を切った。

「OKだって」

「でかした!!」

モッさんが飛びつく様に喜んだ。

「でもちょっと待て、何か後10分後に広告の完成形をPRしないといけないらしいぞ」

「ハアッ!?」

「10分後!?」

モッさんと俺は愕然とした。やっぱり厳しいな、と糸賀は頭を掻いた。

「俺達の会社で、どんなポスターが作れるかとか?」

「どんな会社です、とか説明しないと」

「待て。逆に相手側の会社がどんな会社か知らないと」

「あー! 時間無い」

会話が飛び交うが、話が前に進まない。

「あと2分! 遅刻だけはしない様にしないと!!」

俺達は話がまとまらないまま、ポスターを作成させてもらう会社がある(という設定の)部屋へ移動した。道中、他の班の同期がどんよりとした顔ですれ違うのが見えた。

「……あのクソ野郎!!」

小声でキレているヤツも居た。どんな面会になるのか……。俺達は不安しかない状態で相手会社の部屋をノックした。どうぞと、中から声がする。失礼しますと、俺達4人はぞろぞろ部屋に入って行った。部屋に入ると、少し圧力をかけて来る様な、そんな表情の30代くらいの男性が一人、机越しに座っていた。どうぞお掛けくださいと言われ、失礼しますと机に並んだ椅子に腰掛けた。まずい、失礼しますって二回言った。俺はそう思ったが、同じコトを思った者も居たかも知れない。しかしそこはあまり突っ込まれず、軽い自己紹介が、相手側から始まった。

「株式会社HEの伊藤と言います」

「はい! SSOTの社長、住田です」

「糸賀と言います」

「SSOTの大本と言います」

「SSOTの社員、田淵と言います」

「はい、よろしく。早速ですがあなた方は何を提案しに来たの?」

自己紹介を済ませると伊藤と名乗る男は急に核心に触れる質問をしてきた。そこの君と、糸賀は指をさされ、矢面に立たされた。

「え……あ……」

『10分で準備をして来い』

そんな条件を言い渡され、ポスターの事どころか、ろくにこの面会の準備すらできていなかったため、糸賀は何も言えなかった。

「はい!」

! 住田が手を挙げた。続けざまに言う。

「御社のPRをするポスターです」

「ポスターね……それで我が社にどんなメリットがあるの?」

「それは……」

文字通りの圧迫面接に、住田も言葉を失った。

「そんなんでよく来られたね。出直して来て」

「……ハイ」

俺達の社(班)は相手会社の部屋から出た。

「……」

「……」

俯き、誰も研修センターの元居た部屋に戻るまで口を開かなかった。しかし、部屋に戻ってからは漸く元気を取り戻した。一番に声を上げたのはモッさん。

「さあ、会議室(仮名)に戻ったんだからどうやって面会行くか準備しとかないとな」

「明らかに準備不足だったよ」

俺も続く。

「皆さ、他の班は取り敢えず電話掛けてから面会の準備してる様だけど、準備を完璧にしてから電話掛けようや」

「ああ、確かに」

目の前の作戦会議に集中はしていたが、周りの様子からも、俺達の社(班)だけでなく、同期の新入社員全員、研修に力が入っていくのが感じ取られた。
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