4 / 18
第四話 予兆(前触れ)
しおりを挟む
練習用のECUのはんだ付けを行う事、数日――。
「次は検査、かけてもらおうか?」
「!」
遂に本物の業務を任されるようになった。
と、言ってもすぐそばに先輩社員が付いてのモノだけど――。
いつもの現場から、廊下一つ挟んだ部屋に移動した。そして自動車ECUを検査用の機器に掛けて異常が無いか、確認する。確認すると簡単に言っても使用するワイヤとプログラムが検査するECUと対応していない場合、当たり前かもしれないけれどその機器が壊れてしまう。その上、ECUにワイヤを取り付ける際、真っすぐ取り付けないとECU側のコネクタのピンが折れ曲がってしまう。俺に緊張が走る。ビー、と器機が鳴る。異常なしと、器機は表示された。どうなれば仕事として成功なのだろう……。右も左も分からない俺の頭上には、只々、ハテナマークが沢山存在していた。
「よし、終わったらコネクタ、取り外して」
今回は小林さんがそばに付いてくれて、検査をおこなっていたため、小林さんから指示が飛んできた。はい、と答え、数十万のECUに慎重に触れる。が、
「取り外し方がムカつく」
(え?)
「そんなんじゃなくて、もっとガッと、こうやれよ」
(は!?)
小林さんはそう言って乱暴にECUを扱って器機から取り外した。すいません、とひとまず平謝りしつつ、小林さんに対しても不信感が募り始める。
(取り外し方がムカつく? どういう事だ? それにあんなに乱暴に扱って……壊れたらどうするつもりだ、この人)
この時初めて、この先輩には何かある……と思い始めた。これから始まる、不条理の予兆に、俺は気付き始めていた。
「今日は10台やってもらうから、もっとスピーディーにね」
「ハイ!(検査初日にしては……10台!)」
更に驚きの言葉を掛けられ、もっとスピーディーにならない、と小林さんに質問した。どのようにすれば早くできるか、力を入れ過ぎたりするとコネクタのピンが曲がらないか等、思い当たる質問を全てぶつけてみた。すると、驚きの答えが。
「こんなの、フツーにすればいいんですよ。真っすぐやってりゃ、この型なら滅多に曲がる事なんてないんで!」
そう言って小林さんは自分の仕事があるから、後は自分でやっておいて、とその場から去って行った。テキトーだな、おい。しかし、数十万という金額に怖じ気づき、仕事を早くできていないのも事実。適度な大雑把さも必要なのか、と次からはもっと早さを重視して作業を行う事、数十分――。
ふー、終わった……。
俺は10台のECUを全て検査に掛け終えた。報告をおこなう為に、主に業務をおこなう現場に戻った俺は衝撃の瞬間を目の当たりにする。それは業務をおこなうスペースの、小林さんの机の上で起こっていた。
「あぁ!! クソ!!」
小林さんが声を上げながら、炭素皮膜抵抗器を自身が使うノートパソコンのディスプレイに、ターンと投げ付けていたのだ。
(!!!?)
確か、現場のノートパソコンは客先の借り物、それのディスプレイが壊れんばかりの勢いで、抵抗器を投げつけている? 俺はおどろおどろしげに小林さんに近付き報告をおこなった。
「あっそ! じゃあ次、瀬賀にはんだ付けの練習しといて」
はい、と答え言われた通りに動いた。明らかに気が立っている。その怒りの矛先が、いつか自分に向かないか、不安に思いながら俺ははんだ付けの練習を始めた。
「次は検査、かけてもらおうか?」
「!」
遂に本物の業務を任されるようになった。
と、言ってもすぐそばに先輩社員が付いてのモノだけど――。
いつもの現場から、廊下一つ挟んだ部屋に移動した。そして自動車ECUを検査用の機器に掛けて異常が無いか、確認する。確認すると簡単に言っても使用するワイヤとプログラムが検査するECUと対応していない場合、当たり前かもしれないけれどその機器が壊れてしまう。その上、ECUにワイヤを取り付ける際、真っすぐ取り付けないとECU側のコネクタのピンが折れ曲がってしまう。俺に緊張が走る。ビー、と器機が鳴る。異常なしと、器機は表示された。どうなれば仕事として成功なのだろう……。右も左も分からない俺の頭上には、只々、ハテナマークが沢山存在していた。
「よし、終わったらコネクタ、取り外して」
今回は小林さんがそばに付いてくれて、検査をおこなっていたため、小林さんから指示が飛んできた。はい、と答え、数十万のECUに慎重に触れる。が、
「取り外し方がムカつく」
(え?)
「そんなんじゃなくて、もっとガッと、こうやれよ」
(は!?)
小林さんはそう言って乱暴にECUを扱って器機から取り外した。すいません、とひとまず平謝りしつつ、小林さんに対しても不信感が募り始める。
(取り外し方がムカつく? どういう事だ? それにあんなに乱暴に扱って……壊れたらどうするつもりだ、この人)
この時初めて、この先輩には何かある……と思い始めた。これから始まる、不条理の予兆に、俺は気付き始めていた。
「今日は10台やってもらうから、もっとスピーディーにね」
「ハイ!(検査初日にしては……10台!)」
更に驚きの言葉を掛けられ、もっとスピーディーにならない、と小林さんに質問した。どのようにすれば早くできるか、力を入れ過ぎたりするとコネクタのピンが曲がらないか等、思い当たる質問を全てぶつけてみた。すると、驚きの答えが。
「こんなの、フツーにすればいいんですよ。真っすぐやってりゃ、この型なら滅多に曲がる事なんてないんで!」
そう言って小林さんは自分の仕事があるから、後は自分でやっておいて、とその場から去って行った。テキトーだな、おい。しかし、数十万という金額に怖じ気づき、仕事を早くできていないのも事実。適度な大雑把さも必要なのか、と次からはもっと早さを重視して作業を行う事、数十分――。
ふー、終わった……。
俺は10台のECUを全て検査に掛け終えた。報告をおこなう為に、主に業務をおこなう現場に戻った俺は衝撃の瞬間を目の当たりにする。それは業務をおこなうスペースの、小林さんの机の上で起こっていた。
「あぁ!! クソ!!」
小林さんが声を上げながら、炭素皮膜抵抗器を自身が使うノートパソコンのディスプレイに、ターンと投げ付けていたのだ。
(!!!?)
確か、現場のノートパソコンは客先の借り物、それのディスプレイが壊れんばかりの勢いで、抵抗器を投げつけている? 俺はおどろおどろしげに小林さんに近付き報告をおこなった。
「あっそ! じゃあ次、瀬賀にはんだ付けの練習しといて」
はい、と答え言われた通りに動いた。明らかに気が立っている。その怒りの矛先が、いつか自分に向かないか、不安に思いながら俺ははんだ付けの練習を始めた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる