上 下
37 / 57

第三十七話 宇宙の逃げ場

しおりを挟む
「さあ、話の続きだ」

爆破の話はまだ続くようだ。

「強さと自己中心さとは表裏一体だ。甘やかしと優しさとも――な。要はバランスが問題なのだ。これについてどう思うツトム、サケル」

爆破の問いに、まずは主人公が答える。

「そ……その通りだと思います。(強さと自己中心さについて、まるでスマシさんみたいだなんて口が裂けても言えない……)」

「そうか、それは嬉しい限りだ。サケルはどうだ?」

「……」

爆破は問うが、うつむいたままの逃隠。

「どうした? 具合でも悪いのか?」

「……表裏一体とは何だい……?」

ずっこける爆破。

「お、……お母さんにでも聞いてくれ。きっと優しく答えてくれるだろう」

「分かったんだい……」

涙目の逃隠。

少し間を置いて、爆破が口を開く。

「そうだ、優しさと言えば、あの看護師の女性のお陰でと研究の成果で、ゾムビーの動きを鈍らせる電波が完成したんだ。このロケットにも搭載しているだろう」



「!!」



驚愕する主人公。

「どうした? ツトム」

「はい……ちゃんと、研究の成果が出たんだと……尾坦子さんのしてきたことは意味があったのかと思うと、嬉しくて……」

爆破の問いに答える主人公。涙腺を刺激するものがあったようだ。爆破は口を開く。

「そう言えばツトムも他の生体実験に参加させられたのだったな。辛かったろう?」

「はい……まぁ、いい気分ではなありませんでした」

主人公は少しうつむいて答える。フーと溜息をつき、爆破は返した。

「そうだろう? しかし上は命令してばかりだ。自分達の身の安全を確保し、常に安全地帯に居る。例えるならこれが今の日本の縮図(風刺画)だ。現場を体験すらしたことない連中が全ての決め事を扱う世の中なのだ」

「はい……」

下を向く主人公。

「暗い話ばかりしてすまない。しかし、これが現実なんだ。社会に出ていきなりそれを体験するよりは、始めから知っておいた方が対処できるだろう?」

「……そうですね」



「さて、……生きるとは苦難に満ちている。飢え、老い、病気と様々な苦難がある。しかし、生きているからこそ私達は巡り合えた。生きてきた結果だ。この縁を大事に、これからも生きて行こうと思う。そして、皆もそう生きていってくれ」



「はい!」

「合点だい!」



爆破の投げ掛けた言葉に、元気良く答える主人公と逃隠。

「午前中の話は、これで終わりだ! 昼食を食べよう」

爆破の一声でランチタイムが始まった。

(今日はカレーか……。宇宙でカレーを食べるなんて、想像もしなかった)

「美味いんだい」

主人公はそっと思い、逃隠は明るく言った。





ランチタイムは手短に終わったようだった。

「皆、ご飯を食べたら、これから筋力トレーニングをする!」



「!」

「!?」



爆破の言葉に、反応する主人公と逃隠。

「部屋を移動するぞ。こっちだ」

促されるままに機内のほとんどのパイロットが部屋を移動した。

(確か聞いたコトがある。宇宙飛行士は無重力空間で筋力が落ちていってしまうって……)

想いを巡らせる主人公に、逃隠が話し掛ける。

「何で宇宙で筋力トレーニングするんだい!?」

「……」

「無視すんナ!」

余りにも無知な逃隠に対して、相手をしていられない主人公だった。爆破は部屋に移ってから口を開く。

「皆居るな? まずは上半身からだ」





特製の機器を使いトレーニングしていく。

「かはっ……つ、辛い……」

「じょ、上半身は苦手だい……」

主人公、逃隠ともに音を上げていた。

「地球へ帰還した時に体調不良になってはいけないからな、しっかり鍛えるんだ!」

爆破は強く言う。

「次、下半身!!」

下半身のトレーニングも、特殊な機器を使って行った。

「つ……辛い……」

「下半身は得意だい!」

相変わらず音を上げている主人公と、一転して得意気になっている逃隠。

「よし! ココで休憩を挟むぞ」



「はい……」

「合点だい!」



爆破の一声で休憩時間になった。

「ここでも少々話をするとしよう」

(なるべく長い話になりますように)

精魂尽き果てそうな主人公は、少しでも長く休憩が欲しいようだ。

「今はロケットに乗って移動しているが、移動手段についてだ。一番金が掛からない移動手段は何か……分かるか? ツトム」

爆破が問い掛ける。

「徒歩……ですかね?」

主人公は答えた。

「正解だ。徒歩で歩いているとよっぽどの事が無い限り、事故にも遭わない、地面に立っているのだからな」

「?」

爆破の説明が何の意味を持つのか、分かり兼ねる主人公。

「次に金が掛からないのは、自転車だ。しかしこれは、足が地面から浮いていて、こける可能性がある」

「ああ、はい……」

話は飛躍していく。

「次が自動車。起こり得る危険として、アクセルの踏み過ぎ等による事故が考えられるな」

(……何の話なのだろう?)

爆破の話は続くが、余り話の意味が理解できていない様子の主人公。

「次は……そうだな、船についてだ。これは地面から離れ、水上に居る。自転車や自動車と違い、転覆する可能性があるな」

(! 確かに。移動手段とそれによるリスクについての話かな?)

「転覆した時、事故現場が陸に近ければ、泳いで陸を目指せる。助かる見込みはあるんだ」

「なるほど!」

「だい!」

「その次は飛行機だ。離陸中に事故が起きれば大惨事だな。緊急脱出は一般人には難しいだろう……海に不時着すれば助かるかも知れないがな。どうだ? 金をかける移動手段になるにつれて、どんどんリスクが増えていくぞ、まだここまでなら安全圏もあるがな」

「な、何が言いたいんですか……?」

ついに質問する主人公。右手を上げてそれを制止する爆破

「今はロケットの中に居る、つまり……宇宙に逃げ場は、無い」

「!!!!!?」





場面は移り、地上――。

hunter.N州支部の宇宙通信所。

『こちら宇宙通信所、こちら宇宙通信所……打ち上げられたロケットの現在の状況を近辺の人工衛星から確認中。! これは……!?』





舞台は再び宇宙空間のロケット内へ戻る。

「な、何言ってるんですかぁ? 物騒な」

主人公は爆破の先程の言葉に怯えていた。

「いやぁ、すまんすまん。まぁ、それだけ覚悟して緊張感を保っておけという事だ」

「もうー」

爆破は主人公を宥めながら思った。

(何故だ……何故私は、いたずらにツトムや隊員達を不安にさせる言葉を……妙だな、胸騒ぎがする……)







「warning!! warning!!」







瞬間――、

警報が鳴った。

『パイロットは全員、コックピットへ集合せよ!!!!』

英語で緊急連絡が入る。

(!? 今コックピットって言ったような……)

主人公達は動揺していた。

「!! ……全員に告ぐ、筋力トレーニングは中止だ、今からコックピットへ戻るぞ!!」





「ラジャー!!」





爆破の命令に応じる隊員達。隊員を含むパイロット達はコックピットへ移動した。

『何があった?』

爆破は英語でフライトデッキに居るパイロットに聞いた。パイロットは答える。

『宇宙通信所からの情報によると、こちらへ向かって来る謎の紫色の物体が確認された、という事です』



『何? ……紫色だと……?』
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

回避とサイコとツトム_第三章 旅先珍道中

いぶさん
SF
 ゾムビーの能力を高める『石』……。狩人達がそれを手に入れてから、ゾムビー側にある異変が。そんな中、狩人・関西支部からとある電話が掛かってくる。また、主人公達、中学生にとってのビッグイベント、クリスマスや修学旅行の季節も訪れる。  大阪や修学旅行先で主人公を待ち受けているモノとは!? クリスマスを通じての主人公の恋の行方は?

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

CoSMoS ∞ MaCHiNa ≠ ReBiRTH

L0K1
SF
機械仕掛けの宇宙は僕らの夢を見る――  西暦2000年―― Y2K問題が原因となり、そこから引き起こされたとされる遺伝子突然変異によって、異能超人が次々と誕生する。  その中で、元日を起点とし世界がタイムループしていることに気付いた一部の能力者たち。  その原因を探り、ループの阻止を試みる主人公一行。  幾度となく同じ時間を繰り返すたびに、一部の人間にだけ『メメント・デブリ』という記憶のゴミが蓄積されるようになっていき、その記憶のゴミを頼りに、彼らはループする世界を少しずつ変えていった……。  そうして、訪れた最終ループ。果たして、彼らの運命はいかに?  何不自由のない生活を送る高校生『鳳城 さとり』、幼馴染で彼が恋心を抱いている『卯月 愛唯』、もう一人の幼馴染で頼りになる親友の『黒金 銀太』、そして、謎の少女『海風 愛唯』。 オカルト好きな理系女子『水戸 雪音』や、まだ幼さが残るエキゾチック少女『天野 神子』とともに、世界の謎を解き明かしていく。  いずれ、『鳳城 さとり』は、謎の存在である『世界の理』と、謎の人物『鳴神』によって、自らに課せられた残酷な宿命を知ることになるだろう――

龍神と私

龍神369
SF
この物語は 蚕の幼虫が繭を作り龍神へ変わっていく工程に置き換え続いていきます。 蚕の一生と少女と龍神の出会い。 その後 少女に様々な超能力やテレポーテーションが現れてきます。 最後まで読んでいただきありがとうございます。

sweet home-私を愛したAI-

葉月香
SF
天才と呼ばれた汎用型人工知能研究者、久藤朔也が死んだ。愛する人の死に打ちひしがれ、心を患う彼の妻、陽向は朔也が遺した新居――最新型OSにより管理されるスマートホームに移り住む。そこで彼女を迎えたのは、亡き夫の全てを移植されたという人工知能、立体ホログラム・アバターのsakuyaだった。

宇宙装甲戦艦ハンニバル ――宇宙S級提督への野望――

黒鯛の刺身♪
SF
 毎日の仕事で疲れる主人公が、『楽な仕事』と誘われた宇宙ジャンルのVRゲームの世界に飛び込みます。  ゲームの中での姿は一つ目のギガース巨人族。  最初はゲームの中でも辛酸を舐めますが、とある惑星の占い師との出会いにより能力が急浮上!?  乗艦であるハンニバルは鈍重な装甲型。しかし、だんだんと改良が加えられ……。  更に突如現れるワームホール。  その向こうに見えたのは驚愕の世界だった……!?  ……さらには、主人公に隠された使命とは!?  様々な事案を解決しながら、ちっちゃいタヌキの砲術長と、トランジスタグラマーなアンドロイドの副官を連れて、主人公は銀河有史史上最も誉れ高いS級宇宙提督へと躍進していきます。 〇主要データ 【艦名】……装甲戦艦ハンニバル 【主砲】……20.6cm連装レーザービーム砲3基 【装備】……各種ミサイルVLS16基 【防御】……重力波シールド 【主機】……エルゴエンジンD-Ⅳ型一基 (以上、第四話時点) 【通貨】……1帝国ドルは現状100円位の想定レート。 『備考』  SF設定は甘々。社会で役に立つ度は0(笑)  残虐描写とエロ描写は控えておりますが、陰鬱な描写はございます。気分がすぐれないとき等はお気を付けください ><。  メンドクサイのがお嫌いな方は3話目からお読みいただいても結構です (*´▽`*) 【お知らせ】……小説家になろう様とノベリズム様にも掲載。 表紙は、秋の桜子様に頂きました(2021/01/21)

時の織り糸

コジマサトシ
SF
アパレル業界に身を置く二人の主人公、ユカとハヤカワの物語。時代は2005年…29歳のユカは急成長するアパレルショップのトップ店長として活躍し、充実した日々を送っています。そんなユカが、ほんの少し先…未来を感じる事が出来るという奇妙な能力に気付き、本来の能力をさらに発揮するようになります。一方で2025年、50歳のハヤカワはかつて、ユカと共に成功を収めた人間でしたが、今は冴えない落ちぶれた日々。そんなある日、とあるきっかけで20年前に戻り、再び若き日のユカと出会います。ハヤカワは過去の失敗を繰り返さないために、未来を変えるために奮闘する、過去と未来が交錯するアパレル業界SFストーリーです。

処理中です...