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第三十五話 発射

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主人公達が乗ったロケットが、今まさに宇宙へと飛び立とうとしていた――。





『発射5秒前……スリー、ツー、ワン……』





「ボッ……ドゴゴゴゴゴゴ!!」





(ホントに宇宙へ行ってしまうなんて……どうしてこんなことに……)

頭を抱える主人公。





およそ30分前――、



(回想)

(皆、宇宙服に着替えて、準備ができたようだな……)

爆破が周りを見渡していた。



「トントン」



「!」

爆破の肩を叩く者が。振り返る爆破、するとその男は話し掛けてきた。

『日本の部隊の責任者さんか? 俺はhunter.N州支部のエース、名前はコードネームで呼んでくれ。fireって言うんだ、ヨロシク』

握手を求めてくるfire。

『……宜しく』

何か考えながらだが、握手に答える爆破。fireは話を続ける。

『俺は、N州はおろか、アメリカ全土の出動依頼に応えてゾムビー達と戦い、死体の山を築き上げてきた』

(何かと思えば、自慢話か……自尊心の高いヤツだな……)

『だから、今回も俺は活躍できると思うぜ? 何かあったら、俺に頼りな』

去って行くfire。

「…………」

何か考え事をしている爆破。少し不満そうだった。



「スマシさん!」



また誰かが爆破に話し掛けた。振り返る爆破。主人公だった。

「あのー、どうしてこうなったかは百歩譲って聞かないにしても、これから、どんな準備が必要かは聞きたいのですが……」

「だい!」

逃隠も横から出て来た。

「……そうだな」

口を開く爆破。

「ロケットが打ち上げられると、コックピット内ではエンジンや機体からの大きな音が響き、激しい振動が生じる」



「なるほど!」

「だい!」



主人公と逃隠は話に集中している様子だった。

「また、私達は瞬間的に1.6Gの重力で椅子に押し付けられる。これは旅客機の離陸時で感じる時の重力のおよそ5倍になる」



「ご、……5倍……!?」

「だい……」



絶句する主人公と逃隠。

「まぁそれは防ぎようの無い事だ。だから、それに備えての心の準備が必要になる、といった感じかな?」

「わ、分かりました」

「だい……」

「それと、……そうだな、機体が安定するまでは危険だから、宇宙服とヘルメットはしっかりと着用する事だなそれと、ロケットの内部の構造について、基礎知識を少々頭に入れてもらう。まずは……」

(回想終了)



「ドゴゴゴゴゴゴ!!」

(大きな音がするって聞いたけどこんなにも大きいのか……。飛行機とは大違いだ)

爆音の中、主人公は考える。

そして――、

「グググググググ」

乗組員に重力が掛かり始めた。

「クッ」

「だ……だい……」

「うわっ」

爆破、逃隠、そして主人公達に重力が襲い掛かって来る。

「グググ」

「おっ押しつぶされそうだ……!」

弱音を吐く主人公。そこで、

「耐えろツトム。8分後には無重力状態になるからそれにも対応するように!」

爆破が主人公に声を掛ける。

(重力が数倍になった後に、無重力……そんな、殺生なぁー)

困惑する主人公。更に爆破は言う。

「皆、言い忘れていたが、重力は増え続けて、打ち上げられた時のおよそ2倍の、最大3.0Gになるからな……」





「ご――ん」





主人公を、衝撃が襲った。

(今更、そんな情報を……知ってれば気持ちの整理ができたのに……)

「だい……」

逃隠も堪えた様子だった。



数分後――、

「ググググググ」

「はぁ……はぁ……」



更に数分後――、

「ググググ」

「ゼェ……ゼェ……」



更に更に数分後――、

「グググ」

「……」

主人公は精魂尽きた様子だった。







そして――、

「ふわっ」

「⁉」

遂に機内は無重力状態になった。

「ホントに浮いてる……重力が、無い」

主人公は不思議な感覚に陥った。

「ハハ、普通の中学生が体験しえない事を体験しているんだぞ、ツトム。私は過去に1回だけ、副隊長とフライトした事があるから少しだけ馴れているがな」

爆破は笑顔で話していたが、主人公にとってはそれが恐ろしかった。

(英会話もできて、宇宙飛行士の経験もあるなんて……ホント何でもやる人だー‼)

「さて、打ち上げが無事成功した事だし、ミッドデッキに移動するぞ」



ミッドデッキとは、居間や寝室、トイレ、キッチン、倉庫などがあり、乗組員が睡眠や食事、運動などの日常生活を行う空間のことである!



「ふわー」

狩人の数名は浮かびながらミッドデッキを目指した。

「! スマシさん、これは?」

ミッドデッキに辿り着いてすぐに主人公は口を開いた。そこには幾つもの白いボックスがあったからだ。

「これは荷物搭載用ロッカーと言って、生活に必要なものが入っている。食料や飲料水等、様々なモノを収納しているのだ!」

爆破はさらりと答えた。

「た、隊長ォ……身体副隊長のお姿が見えないんだい……」

逃隠も爆破に問う。

「ああ、副隊長なら……」





「サケル、こっちだ」

爆破が答えようとした矢先に、真上から身体が声を発した。

「俺はフライトデッキに居る」



フライトデッキとは機体の操縦を行う場所である。地上との通信や地球観測もここで行われる。



「副隊長ォ! どうしてそこへ!?」

逃隠が身体に問う。

「俺は機体の操縦をする」







「!」







「以前、フライトした経験や、操縦の演習を行ったことがあったからな」





「! ! ! !」





身体からの答えに驚愕する逃隠。そして身体に称賛の言葉を口にする。

「さっ流石でありまス! 副隊長!!」

(副隊長は副隊長でロケットの操縦もできるとは……狩人の隊長と副隊長……やっぱり弱点なし、か……)

二人のスペックの高さに言葉も出ない主人公だった。ひと段落して爆破が話を切り出す。

「さて、ツトム、サケル。そこにキャンバス地の輪っかがあるだろう?」

見渡す二人。輪に気付く。

「そこに足を入れると、体を安定させる事ができる」

爆破は近くにある輪に足を入れて見せた。

「二人もやってみろ」



「はい!」

「うス!」



主人公と逃隠は返事をした後に、足を輪に入れる。



「ホントだ。当たり前だけど、体が固定されて飛んで行く心配がない」

主人公は呟いた。すると爆破は口を開いた。

「何故体を固定したか、だが……」

「ゴクリ」

息を呑む主人公と逃隠。





「爆破スマシの、人生のイロハ教室、始まり始まりー」





ずっこけそうになる二人。

「腰が抜けましたよ!!」

「だい!」

カンカンな様子の二人。

「まぁまぁ、このままずっと時間が過ぎるのを待つよりは良いだろう? このままだと何もせずに4日間、只々待つだけになるぞ」

「それは……」

「……」

爆破になだめられる主人公と逃隠。

「人生全てが勉強だ!」



「!」

「!?」



「こういう気概で始めようと思う」

どうやら爆破の人生のイロハ教室なるものが始まったらしい。

(今回も為になる話が聞けるかも知れない……!)

(この話、長いんだよナァー)

主人公と逃隠の意見は割れていた。

「これは、誰かが話していた事の受け売りだが、聞いてくれ。犯罪者は何故居るのか? それは悪の証明になるからだ。悪人、犯罪者が居ることを伝え、教えかけてきているのだ。物事には全てに意味がある。それが良いか悪いかは別として――な。ところで、死んでいい人間は居ると思うか?」



「!!」

「!?」
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