上 下
17 / 57

第十七話 苦戦

しおりを挟む
宇宙――。

ゾムビーの親玉が空間を漂っている。

『日本――トイッタカ……。アノ国ニイル我ガ同胞ヨ……石ノチカラヲ見セツケテヤルノダ……!!』





地上――、

K県のとある高架下では――。様子を見ていた主人公も、息をのむ。

「くっそォ……てりゃアアア!!」

弾き返された逃隠は諦めずにゾムビーに向かって行く。

「ガッ!」

右腕を振るう。顔面にヒット。しかし、ゾムビーは無傷である。

「くソ! ああァ!!」



「ガッ! ガッ! ゴッ!」



今度は左腕、続いて再び右腕の殴打、最後に右足の蹴りを加えた。

「ゾ? ……ゾォオオ!!」

再び無傷のゾムビー、今度は反撃に出て、逃隠の腹を殴る。



「ゴッ」



「ぐふゥ」

3メートル近く吹っ飛ぶ逃隠。

「ドシャア」

「ガハッ、ゴホッ」

苦しむ逃隠。

「ジュウ――」

殴られた腹部は、学ランが溶けてスーツが露わとなっている。

「サケル君! くそっ! リジェクトォ!!」

応戦する主人公。

「ドムゥン」

衝撃波は、確かにゾムビーに伝わった。しかし、妙な弾力性によってその衝撃は吸収され、ゾムビーを破壊するには至らない。

「! リジェクトが……効かない……!? 何でだ!? 確かにリジェクトは命中した。他のゾムビーは倒せたのに!」

困惑する主人公。

「ゾ? ……ゾゾ(なんだ……?)」

背中にリジェクトの衝撃を感じたゾムビーは、振り返り、主人公を確認した。

「ゾ……(こっちは……もういい)」

その後、再び逃隠の方を少し見たが、ゾムビーはぷいっと逃隠から視線を逸らし、主人公に標的を変えた。

(畜生、攻撃が効かないどころカ、相手にすらされてないのカ……)

痛みを堪えながら、今ある状況を悔しがる逃隠。

「ゾ……ゾ……」

不気味に主人公に近寄るゾムビー。主人公は思う。

(マズい、まだリジェクトが打てない。調子も悪いせいで、1発あたり15秒はかかる!)

じりじりと忍び寄るゾムビー。

(こうなったら……! 回避の術で攻撃と体液を避けて時間を稼ぎながら戦ってやる!)

覚悟を決める主人公。

「ゾム!(くらえ……!)」

殴りかかってくるゾムビー。

「回避の術! 避け‼」

「ブン!」

回避の術を使い、ゾムビーの拳を左に避ける主人公。ゾムビーの右手が空を切る。

「ゾム!」

今度は左腕を振るうゾムビー。

「はっ!」

再びゾムビーの拳を避け、今度は右へ跳ぶ主人公。刹那、主人公は思う。

(大丈夫だ。他のゾムビーよりもややスピードはあるけど、回避の術の前ではスローモーションだ!)

「ゾ!」

再度ゾムビーが右腕を振るう。

「回転避け!」

主人公は叫びながら右手の手袋でゾムビーの拳をいなす。と同時に右足を一歩斜め前へ踏み出す主人公。体を回転させ、ゾムビーの後ろを取る。

(今だ!)





「リジェクトォオオ!!」





近距離でリジェクトを放つ主人公。しかし、

「ドムゥン」

またしてもゾムビーは衝撃を吸収、破壊されない。

「そ……んな……」

自信を喪失する主人公。



「ゾ!!(くらえ!!)」



振り向いたゾムビーは主人公の腹に一撃を喰らわす。



「ゴッ」



「ぐあああ‼」

吹き飛ばされる主人公。逃隠の隣まで飛んで行った。

「ジュウ――」

主人公の学ランは、腹部が溶け始めている。

「うわあああ!」

急いで学ランを脱ぎ捨ててTシャツ姿になる主人公。

「ジュウゥウウウ」

投げ捨てられた学ランは殆ど溶けてしまった。

「よウ……ツトム……」



「!」



仰向けで倒れている逃隠が主人公に話し掛ける。

「時間稼ギ、ありがとヨ……ダメージも大分、軽くなってきタ」

むくっと起き上がる逃隠。

「さテ、ほいじゃア行きますカ」

「行くって……無理だよ……アイツは他のゾムビーとは違う。スーツによる攻撃も、リジェクトも効かないんだよ?」

主人公はそう言って不安がる。逃隠が少し間をおいて口を開く。

「ツトム……俺ハ、全世界のゾムビーを駆逐すると声高に言っていたガ、本当はゾムビーが恐ろしくて仕方なかったんダ。だガ、身体副隊長に出会っテ、一緒に修行を積んだお陰デ、今はゾムビーと戦えるようになっタ。身体副隊長からハ、どんな時モ……どんな事にモ、恐れずに諦めない事を学んだんダ……今、この瞬間だってそうダ……絶対ニ……最後まで諦めるナ、ツトム…………行くぞォオオオ!!」

走り出す逃隠。

「サケル君! 待って!」

叫ぶ主人公。走りながら逃隠は言う。

「ツトム! 俺が時間を稼グ! お前は力を溜めテ、色々な方法でリジェクトを放つんダ! どんな方法でもいイ! 片っ端からやってくゾ!!」

「ダッ……ガッ! ガッ!」

ゾムビーに飛びかかり、右拳、次いで左拳をぶつけていく逃隠。

「ゾ……ゾゾ!!」

攻撃に対し、微動だにしないゾムビーが反撃する。右拳が飛んでくる。

「サッ」

体を低くして避ける逃隠。

「喰らエ!」

そこからアッパー。ゾムビーの顎にヒット。

「ゾ?(なんだ?)」

効いていない。

「ゾー‼」

裏拳が飛んでくる。

「なんノ!」

「ガッ‼」

スーツの部分である両腕でガードする逃隠。

「ズサー」

少し飛ばされるが、両脚で持ちこたえながら着地する。ゾムビーと逃隠の攻防は続く。一方で、主人公。

(どんな方法でもいいから……そうだ! このゾムビーに対しては、背中側からの攻撃しかしてない。正面からの攻撃なら……何か変わるかも……!)

走り出す主人公。ゾムビーの正面、リジェクトの射程圏内に入る。

「行くよ! サケル君!」

「待ってたゼ! ツトム!」

阿吽の呼吸で横へ跳びながら移動し、ゾムビーの正面を主人公に向けさせる逃隠。

「(行くぞ!)リジェクトォオオ!!」

リジェクトを放つ主人公。ゾムビーの正面にヒットする。

「ドムゥンドムゥンドムゥン!!」

背中側に当てた時とは明らかに違う反応を見せるゾムビー。

(やった! 効いてる!)

安堵する主人公。

「ドムゥン……ドムン……ピタ……」

先程とは違う反応を見せたものの、やはり衝撃を吸収するゾムビー。

「そんな……」

一転、絶望の表情を浮かべる主人公。

「まだダ!!」

ゾムビーに飛びかかっていく逃隠。

「ツトム! 次の手を試セ! 次が打てるまデ、何秒ダ!?」

攻撃しながら逃隠が叫ぶ。

「きょ……今日は、15秒くらい! 調子も悪いんだ!」

返す主人公。

「ヘッ! 15秒の時間稼ぎだナ。余裕だゼ!!」

強気な逃隠。敵の攻撃を回避の術で避けつつ、殴打、蹴りを当てていく。一方で必死の主人公。

(考えろ……考えるんだ。他に、何か手は……)

「もうそろそろだゼ! ツトム!! 行ケ!!」

バッとゾムビーから離れる逃隠。

「(ええい! 一か八か……)リジェクト!」

咄嗟に主人公は、ゾムビーの片足を狙い、リジェクトを放つ。



「バシュッ‼」



ゾムビーの片足は弾け飛んだ。

「やった! 今度こそ、効いた!」

「よっしゃア!」

歓喜する二人。

「ズズズ」

崩れ落ちるゾムビー。

「行くゾ! 畳みかけるんダ! ツトム」

逃隠は言う。しかし、ゾムビーの様子がおかしい。





「ゾゾ――――――‼」





しばらくうずくまっていたが、ゾムビーは急に叫び出す。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

アンドロイドちゃんねる

kurobusi
SF
 文明が滅ぶよりはるか前。  ある一人の人物によって生み出された 金属とプラスチックそして人の願望から構築された存在。  アンドロイドさんの使命はただ一つ。  【マスターに寄り添い最大の利益をもたらすこと】  そんなアンドロイドさん達が互いの通信機能を用いてマスター由来の惚気話を取り留めなく話したり  未だにマスターが見つからない機体同士で愚痴を言い合ったり  機体の不調を相談し合ったりする そんなお話です  

仕合せ屋捕物控

綿涙粉緒
歴史・時代
「蕎麦しかできやせんが、よございますか?」 お江戸永代橋の袂。 草木も眠り、屋の棟も三寸下がろうかという刻限に夜な夜な店を出す屋台の蕎麦屋が一つ。 「仕合せ屋」なんぞという、どうにも優しい名の付いたその蕎麦屋には一人の親父と看板娘が働いていた。 ある寒い夜の事。 そばの香りに誘われて、ふらりと訪れた侍が一人。 お江戸の冷たい夜気とともに厄介ごとを持ち込んできた。 冷たい風の吹き荒れるその厄介ごとに蕎麦屋の親子とその侍で立ち向かう。

富嶽を駆けよ

有馬桓次郎
歴史・時代
★☆★ 第10回歴史・時代小説大賞〈あの時代の名脇役賞〉受賞作 ★☆★ https://www.alphapolis.co.jp/prize/result/853000200  天保三年。  尾張藩江戸屋敷の奥女中を勤めていた辰は、身長五尺七寸の大女。  嫁入りが決まって奉公も明けていたが、女人禁足の山・富士の山頂に立つという夢のため、養父と衝突しつつもなお深川で一人暮らしを続けている。  許婚の万次郎の口利きで富士講の大先達・小谷三志と面会した辰は、小谷翁の手引きで遂に富士山への登拝を決行する。  しかし人目を避けるために選ばれたその日程は、閉山から一ヶ月が経った長月二十六日。人跡の絶えた富士山は、五合目から上が完全に真冬となっていた。  逆巻く暴風、身を切る寒気、そして高山病……数多の試練を乗り越え、無事に富士山頂へ辿りつくことができた辰であったが──。  江戸後期、史上初の富士山女性登頂者「高山たつ」の挑戦を描く冒険記。

特殊装甲隊 ダグフェロン『廃帝と永遠の世紀末』② 海と革命家、時々娘

橋本 直
SF
進歩から取り残された『アナログ』異星人のお馬鹿ライフは続く 遼州人に『法術』と言う能力があることが明らかになった。 だが、そのような大事とは無関係に『特殊な部隊』の面々は、クラゲの出る夏の海に遊びに出かける。 そこに待っているのは…… 新登場キャラ 嵯峨茜(さがあかね)26歳 『駄目人間』の父の生活を管理し、とりあえず社会復帰されている苦労人の金髪美女 愛銃:S&W PC M627リボルバー コアネタギャグ連発のサイキック『回収・補給』ロボットギャグアクションストーリー。

テイルウィンド

双子烏丸
SF
 人類が宇宙に広く進出した、宇宙時代。星から星へと宇宙船が常に飛び交う世の中で、流行した競技、それは小型宇宙船による、レース競技だ。これは、その宇宙レースの色々と幼いショt……いや、優秀で若い宇宙レーサー、フウマ・オイカゼと、その他愉快なレーサーと登場人物が織りなす、SFレース活劇である!

超ショートショート

日程
SF
ここにある文章は、ほぼ全てが原稿用紙1枚に収まる超ショートストーリーです。 一話1分で読めると思うのでぜひどうぞ。

戦国ニート~さくは弥三郎の天下一統の志を信じるか~

ちんぽまんこのお年頃
歴史・時代
戦国時代にもニートがいた!駄目人間・甲斐性無しの若殿・弥三郎の教育係に抜擢されたさく。ところが弥三郎は性的な欲求をさくにぶつけ・・・・。叱咤激励しながら弥三郎を鍛え上げるさく。廃嫡の話が持ち上がる中、迎える初陣。敵はこちらの2倍の大軍勢。絶体絶命の危機をさくと弥三郎は如何に乗り越えるのか。実在した戦国ニートのサクセスストーリー開幕。

処理中です...