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第十節 騒がしいクリスマス その2

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主人公はラブホを前に、動揺を隠しきれずにいる。



「お、尾坦子さん……僕まだ18歳なってないし、ここでするコトって……!」

「あー、私が中学の頃は14歳くらいでそういうコトしてる子、ヘーキで居たよ? それと!」

「それと?」

「ツトム君、何だか最近たくましくなって来たし、バレないんじゃないかなって」

「じゃないかなって言ったってぇ……」

「さぁ、乗り掛かった舟、入るよ!」



「カランカラン」



二人は遂に、ラブホ店内に侵入した。尾坦子は至って平常心で、主人公は緊張で口から心臓が出てきそうなくらいになりながらの入店だった。

「こんにちはー」

「ココ……コンニニニ」

受け付けのボーイが二人を見て、声を掛ける。

「いらっしゃい。何時間?」

「じゃあ、2時間で!」

「に……にににに……」

尾坦子は平然とやり取りを行うが、主人公は最早正気を保てていない。

「了解、じゃあ103番の部屋ね」

「はーい。行きましょ、ツトム君」

「は……ハヒ」

主人公の心臓は爆発寸前になりながら、一方の尾坦子はこれからランチにでも行きそうなくらいの平常心で足を進めて行った。

ほんの少しだけ歩き、部屋に辿り着いた。部屋の中は色彩鮮やかな光が照っており、大きなベッドが一つ。とても落ち着けるようなものではなかった。

「わぁ……すっごい光ってるね、ツトム君」

「ホテッ……ホテッ……」

「ツトム君……?」

部屋の様子に興味津々な尾坦子だったが、主人公はそれどころではなく、完全に我を見失っていた。

「に……にににに……」



「ツトム君!」



「はっ!?」

尾坦子の喝で、漸く主人公は我に返った。

「言ったよね? 愛し合いましょうって、大人の恋愛をしよって」

「うん……」

「そんなに浮足立たれちゃ、する気もそげちゃうよ」

「……ごめん」

「分かればヨロシイ! じゃ―折角だから、部屋の中探索してみよっか」



こうしてラブホの一室の探索が行われた。



「!」

尾坦子は洗面台の近くで何か見つけた様だった。

「何? ……このふっといミミズみたいなモノ……」

「おっ! 尾坦子さんには関係ないモノだよ!!」

咄嗟に触るのを止めに入る、主人公だった。



――、

「何だか色んな変なモノあったねー」

「だ……だね」

「じゃあさー」

「?」



「しよっか?」



「! ! ! !?」

その一声に主人公は顔を真っ赤にした。

「緊張しているの? 大丈夫、私小学校2年生までお父さんと一緒にお風呂入ってたから」

(それとこれとじゃ別問題……!)

主人公は心の中でツッコミを入れた。

「じゃあ……脱ぐね……」

「!」

尾坦子は着ていたタートルニットに手をかけた。次に、履いていたロングスカートも、ジップを外し脱いでいった。ゆっくりとショーツ姿になった尾坦子をまじまじと見た主人公は、神秘的なモノを見ている気持ちになった。服の上からはグラマラスな体型だと理解していたが、アウターを脱いだ後のそれはスレンダーとまではいかなくともいい感じのスタイルを維持していた。

「キレイだ……」

思わず、主人公は一声、漏らした。尾坦子は顔を赤くし言った。

「そんなまじまじと見ないでよ、恥ずかしい。ツトム君も、脱いだ脱いだ!」

「わわっ」

主人公も下着一枚になった。

「ツトム君……何だかたくましくなってる……?」

「なんとなくで筋トレ始めたから、その影響かも……」

「そっか、じゃあ照明、暗くして……」



二人の身体は重なり合う。



ッ!」

「大丈夫!? まさか、初めて……?」

「へーき……ツトム君もどうせそうでしょ? ツトム君……」

「?」

「こんなコトして、赤ちゃんが生まれるんだよ、不思議だね」

「! ――」

主人公は思わず顔を赤らめた。



二人は小一時間程、愛を深め合った。



――、

「お疲れさまです。いつでもまた来てくださいね」

二人は店を後にした。



「……」

「……」



二人は暫くだんまりで歩いていた。そこから先に口を開いたのは尾坦子だった。

「ツトム君……良かった……?」

「うん……尾坦子さんは……?」

「良かった……途中から」

「そっか……! あっプレゼントだけど!」

「ん?」

「今日は尾坦子さんが食べたい御飯、おごります!!」

「何でも良いの!?」

「うん! 何でも!!」

「じゃあ……豚しゃぶ! 沢山動いたから、スタミナつけないとね!」

「あっ、えっ? ……うん」

終始、尾坦子に圧倒させられた、クリスマスデートだった。



翌日の主人公のクラスの教室にて――、

(昨日の初体験……! 鼻の下が伸びそうだよ)

そんな主人公に――、

「おっはよ! 主人公隊員! 今日の約束、覚えてる……?」

巨房がルンルン気分で話し掛けてきた。

「約束……? あ!」

「ちょっとぉー! 今、忘れてたでしょ?」

「今思い出したよ! 25日の今日、手伝ってほしい用事があるから裏庭に行くって」

「その通り! 放課後、待ってるからね♪」



――、

そして放課後、主人公が、裏庭に足を運ぶと、殺風景な場所に巨房が一人で立っていた。

「ミノリちゃん? 用事って言うのは……? 特に運ぶモノとかも無さそうだし……」

「うん、用事って言うのは……」

巨房はグッと下唇を噛み締めた後、漸く口を開き、声を大にして言った。

「好きです! ゾムビーと戦ってヒトを助けるあなたが好き! 結婚を前提に付き合ってください!!」

「! ……」

雪がしんしんと振り、辺りは静まり返っていた。世界には二人だけみたいだった。そっと主人公が口を開いた。

「ゴメン……すごく嬉しいけど、前言ったかな? 他に付き合ってる人がいるんだ。その人のことが一番好きだから……ゴメン」

フーと、溜め息をついた巨房は、下を向き、目に浮かぶ雫を光らせながら、それが流れないよう必死で抵抗した。しかし、次の瞬間、急に表情を明るくし、言い放った。

「じゃあ、私を一番の浮気相手にしてね!」

「!!」

「ヨ・ロ・シ・ク頼んだよ! じゃあね」

巨房は主人公の左胸を右人差し指でツンツンつつきながら言った後、ピューと、走り去っていった。急なコトに顔を赤らめる主人公。

(き……、気を引き締めないと)

主人公は独り、寒い冬空の下、思った。
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