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第七節 延長戦

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ここは――、宇宙。

永遠に広がる暗がりに、白い透明の光を放つ4名の魂が――。

爆破スマシ、抜刀セツナ、ゾムビーの親玉、そして杉田好実である。

皆、座り込んで遠くを眺めていたところ、杉田が口を開いた。

「時に――、スマシ」

「何だ? 好実……」

「俺と死に別れてから15年くらい経つが、ずっと独り身だったのか? 再会してからの反応を見る限り、忘れられては無い様だったけど……」



「忘れられるハズが無いであろう……!」



「!」

爆破は急に口調を荒げて言った。

「私は!! 私の殆どは、お前の……好実の全てで出来ているのだ……。好実がくれたモノ……好実がくれた言葉……好実がくれた気持ち……全部が私の大切な宝物で……だから……」

爆破はその両目からポロポロと零れ落ちそうになる雫を止められなくなった。杉田は爆破の左目にそっと手をやり、その人差し指の横側で雫を拭った。そしてそっと口を開いた。



「女の子の恋愛は……」



「!」

「名前を付けて保存の、男の恋愛と違って上書き保存だと聞く……忘れようとすれば忘れられるハズだったのに……独りで、寂しくなかったか?」

「……少し」

「俺のコトだけ、考えてくれてたんだな……ありがとう」

「好実……」

二人は顔を近付け合った。



「わーお!」

「ワハハ」



抜刀、親玉の目の前で――。

「! ――」

「ありゃりゃ」

爆破はそっぽを向き、杉田は頭をポリポリと掻いた。

「おっと」

「コリャ失礼」

抜刀と親玉が悪かったと、手で示しても、爆破は機嫌を損ねたままだった。見かねた杉田が、爆破に話し掛けた。

「スマシ、続きはどうする?」

「またで良い……。今度は二人きりになった時に――だ」

「了解!」

「それにしても隊長!」

何にも気を使わない抜刀が、図々しく話し掛けてきた。

「杉田さん……だったか? この人の前では口調、変わんだな」

「!」

「ソウイエバ、コノ者ノ話シ口調デハナカッタナ」

「!?」

親玉も話に乗ってきた。



「馬鹿者!! そんな事、気にせんで良いわ!!」



爆破は死後一番の大声で、怒鳴った。



地上――、

月日は流れ、主人公と巨房は4月の〇×高校の入学式を迎えていた。

「新緑が輝きを増し――」

校長の式辞が、体育館にて執り行われている。

(緊張するな……式辞が頭に入ってこない……)

ふと、主人公は自身の制服の袖を見つめた。

(高校生になったんだなぁ)

主人公は教室に移動し、オリエンテーションを受ける。

と――、

「ツトム君! おんなじ教室だね!!」

「! ミノリちゃん!?」

巨房が主人公に話し掛けてきた。

「まず、学科も同じ!? ふ、普通科もあったでしょ? どうして……?」

「その辺をサーチしてるのはとーぜんでしょ? 何故なら私はツトム君の――」

「ぼ、僕の……?」



「友達なんだから!!」



ガクッと虚を突かれる主人公。

(ま、まぁ恋人とか言われて尾坦子さんとの関係がギクシャクするよりはマシか……)

心の中で、主人公は納得していた。ふと、巨房は切ない表情を浮かべた。しかし――、

「ハイ! オリエンテーション始まるよ! 席に座った座ったー」

巨房は心の内を気取られまいと、気丈に振る舞った。

と――、ここで担任が教室に入ってきた。

「皆さん、初めまして! この教室の担任の環境はぐむと言いますいきなりですが皆さん、私達の社会は自然という基盤の上に成り立っています。より便利な社会を作るコト、豊かな自然を守るコト、この一方を追求すれば他方が犠牲になるため、これらの環境について考えるコトは、両者のバランスを考えるコト、であると言えます。環境科では――」

(!! そうだ……『狩人』部隊の経験から、環境を守るコトばかりを考えていたけど、便利な社会を作らないと、老人や子供は生活できないんだ……バランス――、か……)

ふと、ゾムビーとの戦闘の様子が脳裏に浮かぶ。

(ゾムビーと人間との和解……ゾムビーと人間との共生……! 何を今更! 自分で決めたことなんだ! 今更悩んだって……でも)

今度は爆破の手紙と、爆破の最期が脳裏をよぎった。

(一生、心に背負って生きて行くんだ……)

主人公は胸に誓う。爆破の理想を壊し、人間の生活を選んだコトを背負って生きて行くと――。
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