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第二節 追憶

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「お前は……好実……?」



(回想)

「やあ。こんなところを一人で歩いていたら、危ないオジさんに連れてかれるぜ?」

「誰だ? キサマは」

「俺か? 俺は杉田好実すぎたこのみ。中学2年の青春真っただ中の少年だ!」



――、



「今日は込み入って話が合ってな」

「何だ?」

ふーと一呼吸入れて杉田は口を開く。



「付き合ってくれ」



(回想終了)



「好実……なのか……?」

「でなかった誰に見える? スマシちゃん」



(回想)

「そ、そうだ! こっちもプレゼントを用意しているんだ。目を……閉じてくれ」

「成程、驚かせたいんだな? りょーかい! 目ぇ閉じるぜ」

杉田の身長は174cm、対して爆破は160cm。爆破は背伸びする。

そして――、



二人の唇は重なり合った。



――、



爆破のすぐ後ろにゾムビーの影が……。



「! スマシ! 危ない!!」



ドン、と爆破を突き飛ばす杉田。

「ゾムバァアア!!」

ゾムビーは口から体液を吐き出す。そして、それは杉田の体に降りかかってしまう。

「がぁああ! あぁあああ……ム……ゾム……」

突き飛ばされて廊下に横たわっていた爆破は自分の目を疑った。

「そん……な……。嘘……だろ……?」

目の前で、杉田がゾムビー化したのだ。

「好実……好実!!」

必死に杉田の名前を呼ぶ爆破。しかし――、

「ゾム……ゾム……」

その声は、もう杉谷は届かない。杉田はゾムビー化したのだ。

(回想終了)



「好実ぃ……」

「何だい?」

爆破は杉田に駆け寄った。

そして――、



「ひしっ」



杉田を抱きしめようとする。しかし、体はすり抜けてしまった。



「彼氏か何かか?」

『私ニ聞カレテモ……』



抜刀とゾムビーの親玉はひそひそと会話を交わした。

「スマシちゃん、残念だけど今は手を触れあうコトすら叶わない。でも、こうしてまた会えて嬉しく思うよ」

「! ――」

少し顔を赤くする爆破。そして振り返った。爆破は親玉を睨み付けている。

「話が二転三転して何だが、やはり私はお前達ゾムビーを許す事は出来ない。狩人を結成して、任務を行っていく中で、押し殺していた感情があった。私的感情を職場に持ち込まない様にしていたが、私はお前たちが嫌いだ。世界で一番大切なヒトの命を奪ったのだから」

フルフルと震える爆破を見て、杉田は更に周りを見渡す。そこには1体のゾムビーと、トサカの様に立てた髪型の青年が居た。

「何があったかは知らないけれど、スマシを傷付けるヤツは……許さない……!」

「おいおい俺は……」

弁解しようとする抜刀を、親玉はスッと左手で制して言った。

『私ノ同胞達ガ、オ前達ヲ死ナセテシマッタ様ダナ。オ前達ニ家族ヤ愛スル者ガ居ル様ニ、私ニモ家族ヤ愛スル者ガ居ル。ソシテ私モマタ、ソノ者達ノ命ヲ奪ワレタノダ。私モオ前達ノ気持チガ分カランデモナイ。マズ、事ノ発端ヲ考エルノダ』

「……先ほど言ったように、ゾムビーとの戦いは、人間達がゾムビーの石に、先に手を出した事から始まっている」

ゆっくりと爆破は口を開いた。

『ソウダ。人間達ガ石ニ手ヲ出サナケレバ我々ハ人間ニ手ヲ出サナカッタ』

「しかし! 好実は……好実は何もしていない。その好実を死なせてしまうのはあんまりじゃないか!?」



「……」

「……」

『……』



周囲が静寂に包まれた。





「つ! ま! り! だ」





不意に抜刀が啖呵を切って言う。



「!!」

「!?」



「こちら側としては無関係の人間を殺されたくはない! そっち側からすりゃ人間側から起こした喧嘩だから責任取れ! っつーコトだろ? じゃあ、実際に石を奪った人間に対してのみ、報復を行えばいいんじゃねぇか? 石を奪ったのはどこのどいつだ? 言ってみろ」

『……ア、アメリカノ……MASAトイウ団体ダ』

「ならそこにだけ報復を行ってりゃあ良かったってコトだ! これでまどろっこしい話は無しだ。以上!」

杉田が思わず口を開いた。

「実にシンプルで分かり易いヤツだな……」



「あぁん!? 何か言ったか!?」



「い、いいえ何も……てかスマシ、ここに居るってコトは……」

「ああ、ゾムビーにやられた」

「!? ……辛かったろ?」

「少しだけ意識が残っていてな、部下に葬ってもらったよ。私による被害が少なくて良かった」

「…………」

爆破と話した杉田は、あごに手をやり、少し考え事をした。そして口を開く。

「ポジティブに考えても、いいのかな?」

「?」

「あれから14年、長かった様な、短かった様な気がするけど、こうしてまたスマシに会えた。スマシが長生きしてたら、もうしばらく会えなかったかも知れない」

「ああ、私は……会えて良かった、これで良かったと思う……」

「へへ……」

「フフ……」

「ところでスマシ」

「?」

「今まで何をしていたんだい?」

「私は……」

爆破は抜刀の方を見る。

「この部下と一緒にずっと酒を飲んでいたよ。好実、お前は……?」

「おう、俺は……」

「……?」

「日本の近くでずっと女湯をのぞき見してたさ!」

胸を張って言う杉田に、ズデッとずっこける爆破。次いで、叫んだ。





「この! 大馬鹿者ォオオ!!」




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