ドラゴン騎士団

カビ

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   更に数ヶ月が経った。あと1週間程でステラが仕事に戻ってしまう。まだ一緒にいたい。ずっとここにいてくれたらどんなに嬉しいことか。こんなにも毎日が楽しいって思えたのは幼少期以来だ。
   僕は荷物を整えると、狩りに出かけた。冬を越すために沢山肉を取らなければ。
兎を3匹と鹿を1頭仕留めた。
鹿は最後に仕留めたかったけど、次会うか分からなかったからやってしまった。これじゃ重くて続けられない。一旦冷凍貯蔵庫に置いてくるかな。
僕は鹿を少々太めの枝に括り付けると、肩に枝を置いて持ち帰った。
   家に着くと、台に鹿と兎を置いて解体作業に入った。まず放血をした後、毛皮に着いた泥や土を洗い流して内臓を取り出す。残った血も綺麗に洗い流す。そして一旦冷凍貯蔵庫で冷凍する。こうすれば臭みが取れて美味しく食べられる。兎も同じようにした。
   服や手に着いた血を洗い、僕は再び狩りに出かけた。贅沢だけど、猪も頂きたいな。猪は皮膚が硬いから解体が面倒だけど、鹿よりも美味しい。
   冬以外の季節は穀物に野菜、牛乳に卵で肉が無くても事足りるけれど、冬になると肉の代わりとなる牛乳と卵だけじゃ足りない。だから冬だけは肉を取りに狩りに出かける。他の村の人々もそうだ。なぜ他の季節でも肉を取らないのかと言うと、ワイバーンがいるから。ワイバーンは多くの肉を必要とする。僕ら人間がいつも動物を狩ってしまうと少なくなる。そうしたら消費量が多いワイバーンは僕らの村を襲撃して肉を得ようとするだろう。
「凄い、大型の雄鹿だ。」
思わず小さく声に出した。すると、何か気配を感じた。もっとでかいのがいる。この空気を引き裂くような鋭い気配……捕食者だ。狼や熊なんかじゃない。もっと強大な……。
「わっ!」
突然大きな鹿が一口で食べられてしまった。そこに居たのはナスコンドルというワイバーンの一種だった。周囲の環境によって体の色が変わる。これで獲物に気付かれずに狩りができる。

   ナスコンドルは僕を睨みつけていた。確実に僕を狙ってる。その証拠にジリジリとこちらに向かってるのだ。ナスコンドルは獲物が中々自分の元によってこない場合、こうして体を低くして近づいてくる。しかも翼や脚に着いた体毛のおかげで音を立てずに忍び寄れる。更に人間の目だと動くと気付くけど、動物の目は必要最低限しか機能してないから、ナスコンドルが近づいて来ても透明にしか見えないのだ。
狼や熊なら静かに立ち去るのを待てば無事でいられる可能性があるけど、こいつは待てば待つほど食われる可能性が高まる。
   僕は後ろに向かって走り出した。あいつは自分に気づいたのだと分かったのか、僕を追いかけてきた。幸い一般のワイバーンは陸上だとかなり遅い。翼を支柱にして兎みたいに跳ねるようにして走ってくるからだ。でも体は大きいから1歩がかなりでかい。いずれ追いつかれる。
「あっ!」
最悪だ。石が足に躓いて転んでしまった。やばい!食べられる!早く立ち上がらないと!
すると、爆風が起こった。何かがとんできたのか?……あれ?既視感を感じる。ナスコンドルはよろめきながら立ち上がると退避した。
一瞬だけ見えたけど、赤黒い稲妻の球が飛んできた。僕はブレスが飛んできた方を見た。そこに居たのは……あの時、リントヴルムが村を襲ってきた時に助けてくれたあの真っ黒なドラゴンだった。
ドラゴンは顔だけこちらに向けて呆れるようにして僕を見ていた。
「えっと……助けてくれてありがとう!」
ドラゴンはやれやれと言わんばかりに目を回して首を横に振った。
「グレイヴ~?どうかした~?」
聞き覚えのある声が聞こえた。ドラゴンは驚いたのか声のする方を向く。
「何よ来るなって……え、フリッグ?」
「……ステラ?」
「えーっと、このことを忘れることは……流石に無理よね。はぁ、どうしよ。」
「君は……。」
彼女は……ステラはドラゴンライダーだった。
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