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最後の封印

セルデリカ、さん

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 セルデリカの言葉を受けたディミトリアは魔族の地である西へと帰って行った。
 去り際に恐ろしいほど冷たく鋭い視線を向けられたが、まぁこのくらいは当然だと思っていたので、特に問題は起きなかった。

 それより目下最大の問題は、セルデリカだ。
 ディミトリアが去ったことで俺たちは再び二人になった訳だが……、

「あー、えーっと。その。この後はどう、しますか? セルデリカ、さん」

 とまぁこんな具合に、らしくもなく俺は大人びたセルデリカにたじたじになっていた。

「うん? なんですか、その口調は。いつも通りに接してくださいな」
「い、いや。そう言われ、ましても……」
「もうっ、いったいどうされたのです? もしかしてディミトリアとの戦いで怪我でもされたのですか!? もしそうなら大変ですわっ、治療魔法をかけますので傷を見せてくださいな!」

 ずいっ、と近づいてきたセルデリカに思わず心臓が高鳴った。顔立ちこそあまり変わっていないが、やけに良い香りと豊満な胸が作り出す魅惑的な谷間が俺の五感をマヒさせようと襲い掛かってくる。
 この破壊力はマズイっ――俺は必死に後ろに後ずさった。

「ま、待て待て――待ってください! 怪我はしてないから大丈夫……っ、です!」
「本当ですか? それなら良いのですが……」

 どこか不満気な様子を見せながらも引き下がってくれたセルデリカに、ほっと胸をなでおろす。ったく……。せっかく語彙力が戻って落ち着いてきたってのに、なんでこんな目に合わなきゃいけないんだ。

 とはいえ、このままぎこちない会話を続けるわけにもいくまい。できる限り普段通りの会話を心掛けながら、俺はこれからの予定を相談することにした。

「えーっと。それよりこれからどう、する? 一度街に戻って次の旅の準備をするのは決まりとしても、西の地に人間は寄り付かないからダンジョンの情報は簡単には手に入らないと思うんだが」
「ああ、それに関して心配はいりませんわ。先ほどディミトリアに教えて貰いましたので、最後のダンジョンの場所はもうわかっているのですよ」
「なっ、本当かっ?」
「はい。わたくしのチカラを取り戻すためと言ったら快く教えてくれましたわ」

 なるほど、と俺は頷いた。
 ディミトリアとは不穏な空気のまま別れることになってしまったが、それでも彼に感謝することにした。もちろんディミトリアは俺なんかのためではなく、魔王の娘の力になりたかったから教えただけだが。

「まぁ本当は、もうほとんどのチカラが戻ってきているのですけどね」
「ん? そうなのか?」
「ええ。語彙力だって会話に支障が無いくらいに戻っているでしょう? ですので、最後のダンジョンには行かないという選択肢もあるとは思いますが……」

 俺の意見を窺うようにセルデリカが視線を向けてくる。
 その瞳がどこか不安気に揺れているのは、俺のことを心配してくれているからか。

 ディミトリアとの戦いで不甲斐なさを見せてしまったのが原因だろうな。

 とはいえ、ここまで来れば最後の封印まで解除してしまいたい。
 そんな風に思うのは、きっと勇者としての本能なのだろう。

「いや、ここまで来たら最後の封印も解いてしまおう。確かに今の語彙力で不便は感じないが、あと一つ封印が残ってるってことは、どこかまだ不完全ってことだろ?」
「父上の魔法ですのではっきりとしたことはわかりませんが……。ですが勇者がそう決めたのなら、わたくしはその決断に付いていきますわ。チカラも十分に戻りましたし、今まで以上にお手伝いできるはずですから」
「あ、ああ。ありがとう」

 怖いくらい魅力的な笑顔に押し切られて思わず頷いてしまった。
 できることならセルデリカには危ない場所に立って欲しくないのだが……。
 しかしこれから向かう先は魔族の地――俺がどう思っていようと、セルデリカには助けてもらう事が増えるだろう。そう思って割り切ることにした。

「さて、まずはとりあえず街まで戻るとするか。西には人間が住む地は無いからな。しっかり準備して、最後のダンジョンに出発しよう」
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