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第一の封印
アレをアレするアレ的なヤツ
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「おいセルデリカっ! コイツはなんだっ?」
「コレはアレだよー。アレをアレするアレ的なヤツ―。コレをアレしないとアレはアレ出来ないと思うから、頑張ってアレしちゃってー」
つまり突然現れたこのゴーレムは祭器を守る番人ってところか。セルデリカはコイツを倒さないことには壺を壊せないと言っているに違いない。
とは言ったものの……、
「そんなアレな感じでアレすんなっ!」
俺とセルデリカの会話に温度差があるのは、セルデリカはさっさと安全なところまで下がって身を隠しているからだ。べつに彼女の手を借りるつもりはないのだが、こういう扱いをされるのは少し腹立たしい。
しかも相手はゴーレムなんだぞ!
ゴーレムってのは剣士にとって一番の天敵と言っても過言じゃない。岩石や鉱石で形作られた身体には一切剣が通らないからだ。
剣が通用しないとなれば、もう俺にはどうすることも出来ない。魔王を倒す旅の道中でも何度か遭遇したことがあるのだが、そのたびに唇を噛みながら逃走するしかなかった。
それほどまでに剣士とゴーレムの相性は悪いのだ。
「大丈夫だよー、勇者ならなんとかなるってー」
「どこにそんなアレが――うおっ!」
そんな会話を遮るように、ゴーレムの巨腕が俺を潰さんと振ってきた。
意思があるのか。それとも魔王の遺した命令に従っているのか。どちらにせよ壺を守っているのは間違いないらしい。
俺は紙一重で回避することに成功したが、いままで立っていた場所はクレーターのように地面がへこんでいた。
「おー、今のはアレだったねー」
「なにアレしてんだっ! アレするとこだったぞ!」
正直、今回も逃げてしまいたかった。
だがここで逃げれば、この語彙力が失われた現状は解決できない。
「くそっ!」
俺は覚悟を決めて聖剣を構えた。
ゴーレムの攻撃は一発一発が凄まじい威力を持っているが、そのぶん動きは遅い。巨腕が繰り出してくる二撃目も避けた俺は、ダメ元で何度か鉱石の身体を斬りつけた。
「ねぇ、勇者ー。なにしてんのー?」
「何って、わかるだろ! アレしてんだよっ!」
「えー? ソレってアレなのー? そんなアレが効くわけないじゃんー」
「……っ」
もちろん斬撃に効果がないことはわかった上で攻撃した訳だが、セルデリカに言われるのはグサッときた。
「じゃあどうすりゃ良いんだよっ?」
「あれー? もしかして勇者ってゴーレムにアレがあるの知らないのー?」
「は? アレってなんだよ」
「アレはアレだよー。一番アレなところー」
だからアレじゃわかんねぇよ――!
と、叫びかけたところでピンと閃いた。
一番アレなところって、まさか『弱点』のことか……?
「まさかコイツにもアレがあるのかっ?」
「あるよー。あるに決まってるじゃんー」
あまりにも簡単に言われて、思わず力が抜けてしまった。いままで逃げるしか出来なかった相手に弱点があったなんて……。
だがショックを受けている暇はない。一秒でも早く語彙力を取り戻すために、俺は思い切り叫んだ。
「教えてくれセルデリカっ! コイツのアレってのはドレなんだっ?」
「アレだよアレ―っ!」
「だからドレだよーっ!」
「アレだってばーっ!」
ほんっとにもう、語彙力が無いとぜんっぜん話が進まねぇ……。
「ぜんっぜんわかんねぇよ! もうアレだっ、アレでアレしてくれ!」
「アレでアレするって、ソレがわかんないよーっ!」
あー、めんどくせぇぇぇぇ!
とうとうこらえきれなくなった俺は、セルデリカの声を無視してゴーレムに向き直った。相手をしっかり観察すれば弱点が見つかるだろ!
すると俺は、ゴーレムの頭部に一つだけ色の違う鉱石が埋まっていることに気付いた。
「もしかしてアレかっ?」
「んー、たぶんソレかなー?」
ダメだ。このままじゃ埒が明かない。
確信は持てないままだが、モノは試しだ!
俺は振り下ろされたゴーレムの右腕を駆けあがって、左手一本で頭部にしがみついた。そしてすぐに、右手に握った聖剣を色の違う鉱石に突き刺した。
――瞬間。
ゴーレムの身体を作っていた鉱石が、バラバラに砕け散った。
「これでアレしたのか……?」
「うん、おつかれさまー」
俺のところに戻ってきたセルデリカを見るに、おそらく倒せたってことでいいのだろう。
まったく、戦闘より別のところで疲れたぜ……。
でもこれで、ようやく壺を壊せる。
「それじゃ、ちゃっちゃとアレしちゃおっかー」
そう言うとセルデリカは一人で壺の元まで歩いていき、まるで祈りを捧げるかのように跪いて呪文じみた言葉を呟き始めた。
その呪文が終わった瞬間、パキンッと音を立てて壺は割れた。
気付けば壺の周りに渦巻いていた禍々しい魔力はいつの間にか消えており、心なしかダンジョンの中が清々しい空気に変わっているような気がする。
もしかして、これで語彙力が取り戻せたのか?
「セルデリカ。これでちょっとはグッドなステータスにリターンしたのか?」
……ん?
なーんか、おかしくね?
「コレはアレだよー。アレをアレするアレ的なヤツ―。コレをアレしないとアレはアレ出来ないと思うから、頑張ってアレしちゃってー」
つまり突然現れたこのゴーレムは祭器を守る番人ってところか。セルデリカはコイツを倒さないことには壺を壊せないと言っているに違いない。
とは言ったものの……、
「そんなアレな感じでアレすんなっ!」
俺とセルデリカの会話に温度差があるのは、セルデリカはさっさと安全なところまで下がって身を隠しているからだ。べつに彼女の手を借りるつもりはないのだが、こういう扱いをされるのは少し腹立たしい。
しかも相手はゴーレムなんだぞ!
ゴーレムってのは剣士にとって一番の天敵と言っても過言じゃない。岩石や鉱石で形作られた身体には一切剣が通らないからだ。
剣が通用しないとなれば、もう俺にはどうすることも出来ない。魔王を倒す旅の道中でも何度か遭遇したことがあるのだが、そのたびに唇を噛みながら逃走するしかなかった。
それほどまでに剣士とゴーレムの相性は悪いのだ。
「大丈夫だよー、勇者ならなんとかなるってー」
「どこにそんなアレが――うおっ!」
そんな会話を遮るように、ゴーレムの巨腕が俺を潰さんと振ってきた。
意思があるのか。それとも魔王の遺した命令に従っているのか。どちらにせよ壺を守っているのは間違いないらしい。
俺は紙一重で回避することに成功したが、いままで立っていた場所はクレーターのように地面がへこんでいた。
「おー、今のはアレだったねー」
「なにアレしてんだっ! アレするとこだったぞ!」
正直、今回も逃げてしまいたかった。
だがここで逃げれば、この語彙力が失われた現状は解決できない。
「くそっ!」
俺は覚悟を決めて聖剣を構えた。
ゴーレムの攻撃は一発一発が凄まじい威力を持っているが、そのぶん動きは遅い。巨腕が繰り出してくる二撃目も避けた俺は、ダメ元で何度か鉱石の身体を斬りつけた。
「ねぇ、勇者ー。なにしてんのー?」
「何って、わかるだろ! アレしてんだよっ!」
「えー? ソレってアレなのー? そんなアレが効くわけないじゃんー」
「……っ」
もちろん斬撃に効果がないことはわかった上で攻撃した訳だが、セルデリカに言われるのはグサッときた。
「じゃあどうすりゃ良いんだよっ?」
「あれー? もしかして勇者ってゴーレムにアレがあるの知らないのー?」
「は? アレってなんだよ」
「アレはアレだよー。一番アレなところー」
だからアレじゃわかんねぇよ――!
と、叫びかけたところでピンと閃いた。
一番アレなところって、まさか『弱点』のことか……?
「まさかコイツにもアレがあるのかっ?」
「あるよー。あるに決まってるじゃんー」
あまりにも簡単に言われて、思わず力が抜けてしまった。いままで逃げるしか出来なかった相手に弱点があったなんて……。
だがショックを受けている暇はない。一秒でも早く語彙力を取り戻すために、俺は思い切り叫んだ。
「教えてくれセルデリカっ! コイツのアレってのはドレなんだっ?」
「アレだよアレ―っ!」
「だからドレだよーっ!」
「アレだってばーっ!」
ほんっとにもう、語彙力が無いとぜんっぜん話が進まねぇ……。
「ぜんっぜんわかんねぇよ! もうアレだっ、アレでアレしてくれ!」
「アレでアレするって、ソレがわかんないよーっ!」
あー、めんどくせぇぇぇぇ!
とうとうこらえきれなくなった俺は、セルデリカの声を無視してゴーレムに向き直った。相手をしっかり観察すれば弱点が見つかるだろ!
すると俺は、ゴーレムの頭部に一つだけ色の違う鉱石が埋まっていることに気付いた。
「もしかしてアレかっ?」
「んー、たぶんソレかなー?」
ダメだ。このままじゃ埒が明かない。
確信は持てないままだが、モノは試しだ!
俺は振り下ろされたゴーレムの右腕を駆けあがって、左手一本で頭部にしがみついた。そしてすぐに、右手に握った聖剣を色の違う鉱石に突き刺した。
――瞬間。
ゴーレムの身体を作っていた鉱石が、バラバラに砕け散った。
「これでアレしたのか……?」
「うん、おつかれさまー」
俺のところに戻ってきたセルデリカを見るに、おそらく倒せたってことでいいのだろう。
まったく、戦闘より別のところで疲れたぜ……。
でもこれで、ようやく壺を壊せる。
「それじゃ、ちゃっちゃとアレしちゃおっかー」
そう言うとセルデリカは一人で壺の元まで歩いていき、まるで祈りを捧げるかのように跪いて呪文じみた言葉を呟き始めた。
その呪文が終わった瞬間、パキンッと音を立てて壺は割れた。
気付けば壺の周りに渦巻いていた禍々しい魔力はいつの間にか消えており、心なしかダンジョンの中が清々しい空気に変わっているような気がする。
もしかして、これで語彙力が取り戻せたのか?
「セルデリカ。これでちょっとはグッドなステータスにリターンしたのか?」
……ん?
なーんか、おかしくね?
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