魔王によって『語彙力』が封印された世界で『語彙力』を取り戻す物語

木川のん気

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第一の封印

ダンジョン

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 ダンジョンの入り口は、まるで芸術のように凍りついた滝の裏にあった。
 明かりが必要かと思ったが、ダンジョンの中は思っていたよりも何倍も明るかった。どうやら光を放つ鉱石が壁のあちらこちらに埋まっているようだ。

 鉱石に感謝しながらさっそく中に入る。するといきなり毛むくじゃらの大男のような魔物が襲い掛かってきたのだが――、

 ふんっ、あまり俺を舐めるなよ。

 瞬時に聖剣を鞘から引き抜いた俺は、一切無駄のない動きで矛先を魔物の急所に突き刺した。

「おー、すごーいっ!」

 セルデリカに感嘆の声を上げられて少しだけ気恥ずかしくなった。いままでずっと一人で旅をしてたから、こんな風に褒められるのって慣れてないんだよな……。

 とはいえ、浮かれる訳にはいかなかった。魔王の娘とは言うものの、どうやらセルデリカには魔物と戦えるほどのチカラは無いらしい。つまり俺は自分の身だけでなく、彼女のことも守らなくてはならないのだ。

「ごめんねー、今はアレだけど、アレがアレされればちょっとはアレできると思うからー」

 受け取り方によってはそのうち手伝うつもりがあるように聞こえるが、セルデリカ一人くらいならなんとか守り切れるだろう。

 それより気になるのは、俺が魔物を倒すことをセルデリカはどう思っているかだ。
 俺の知る限り、魔物ってのは魔族が率いていることがほとんどだ。自分たちの手足のように使役する魔物を倒されるってのは、仲間を傷つけられているのと同じなんじゃないだろうか。
 あまりにも気になったので、俺は思い切って訊いてみることにした。
 
「なぁ、セルデリカ。俺がこいつらをアレするのって、お前的にどうなんだ?」
「んー? あー、全然アレしなくていいよー。この子たちはもうアレになっちゃってるから、アタシたちのアレをアレしてくれないんだよねー。だからー、勝手に人をアレしないうちにアレしてくれた方がアタシたちにもアレが掛からないから、どんどんアレしちゃってー」

 ……多少慣れてきたとはいえ、ここまでアレだらけだと全くわからねぇ。

 だがどういう理屈か知らないが、気にせずに倒して良いという事だけは伝わった。
 遠慮しなくていいなら願ったりかなったりだ。飛び出してくる魔物は片っ端から倒すことにして、俺たちはダンジョンの奥へ足を進める。

 程なくして、一番奥だと思われる場所にたどり着いた。

 そこは一際広大な空間であり、祭壇と呼ぶべきような場所だった。祭壇の中央には……、だろうか。禍々しい魔力を放つ祭器のようなモノが置いてある。

「あったーっ! アレだよアレ! アレをアレすれば今のコレがちょっとアレになるはずっ!」

 その壺を見るなりセルデリカが騒ぎ出した。どんな仕組みになっているか検討もつかないが、どうやらアレをぶっ壊せば語彙力を取り戻せるらしい。
 俺はさっそく壺の元へ足を向けたが――、

「あーっ、ちょっとまってーっ!」

 セルデリカに思い切りマントを引っ張られて、俺の首がガクンと揺れる。

「いってぇ……。いきなり何すんだよ」
「たぶんねー、ここにはアレがアレしてると思うから気を付けてー」
「うん? アレって」

 なんだよ。と訊こうとしたところで、突然地面がゴゴゴゴゴと揺れ出した。それから地面に突き刺さっていた巨大な鉱石が勝手に動き出し、祭壇の前で何かの形を作り始める。
 嫌な予感がする……。

「なぁ……。アレってのは……、まさかコレのことか?」
「うん。アレってのはコレのことー」

 俺たちの目の前に、巨大なゴーレム現れた。
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