魔王によって『語彙力』が封印された世界で『語彙力』を取り戻す物語

第一の封印

アレがアレされた

　俺の頭はパニック寸前だった。
　たった一言『夢』とさえ言えないなんて、明らかに異常事態だ。

　いったい何が起きてんだっ？
　額の冷や汗を強引に拭いながら頭をフル回転させる。
　すると霧が掛かっているかのように曖昧だった記憶が、徐々にはっきりし始めた。

「ク・ソ・つ・え・ー・ヤ・ツ・が、何かを言ってたような……」

　『魔王』と言いたかったはずなのに、勝手に『あのくそつえーヤツ』なんて頭の悪い変換が行われる。でもそのおかげで、俺は完全に魔王の言葉を思い出した。

「そうだア・レ・だっ！　ク・ソ・つ・え・ー・ヤ・ツ・はア・レ・をア・レ・するとか言ってやがったっ！」

　思わず叫んでしまってから、俺は力なく「ははっ……」と笑った。
　いや、笑うしかなかった。
　こんなの……、なんにも伝わらねーじゃねぇか！


『――なぁに、少し世界の理を変えるだけだ』


　魔王の言葉が蘇る。
　そうだ。あいつは最後に自分の存在を魔力に変えて、この世界の語彙力を封印しやがったのだ。

「くそっ！」

　せっかく魔王を倒したってのになんて面倒な置き土産をしてくれてんだっ！
　思いっきり愚痴を叫んでやりたかったが、なんと変換されるか恐ろしくて思いとどまった。

　というか、これは俺だけなのか？

　『世界の理』という単語が更なる冷や汗を湧き出させる。
　まさかこの世界に生きる者すべての語彙力が失われているんじゃ……？

　事態を把握するべく、俺は近くを歩いていた農家らしき青年を強引に捕まえた。
　青年はひどく驚いているようだったが、悪いがそんなことを気にしてる余裕なんかない。俺はまくしたてるように適当な質問をぶん投げた。

「おいアンタっ！　いまアンタが手に持ってるソレはなんだっ！？」
「えっ、えっ？　えーっとコ・レ・ですか？　コ・レ・はア・レ・ですけど」



　これヤバイ――――――ッ！