こちら報道最前線 ~現場では今日もゴム弾が飛び交っております~

木川のん気

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第二章

模擬戦(1)

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 特別報道隊・第五部隊。
 その創設メンバーとして配属された直人・瀬尾・勢戸には、直属の上司となった佐久間が用意した特別なメニューが初日から与えられた。

「い、いきなり摸擬戦!? ですか……っ」

 ほとんど反射で声を上げた直人は慌てて敬語の態を取り繕った。
 だが、かろうじて特別報道隊の業務内容を知っている程度の三人がいきなり模擬戦を行ったところで勝ち目などあるはずがない。それがわからない佐久間ではないはずなのに、何を考えているのか……。
 勇気を振り絞って訊ねると、

「問題ない。お前たちの勝利は期待していない」

 あまりにもあっけなく言い切られた。
 だったら何で! と顔に露骨な不満が浮かんだところで、ようやく佐久間は今回の目的を明かした。

「まずはことが重要だ。ゴム弾の衝撃やアーマーの耐久度。装備の重量であったり、争奪戦の流れであったり。そういった口で説明してもわかりにくい事は実際に経験して覚えるのが一番確実であり、てっとり早い。特別報道隊がこの国で最も危険な職とまで呼ばれることになった理由をその身で体験してこい」


 百聞は一見に如かず――つまりそういう訳だ。


 今まで練習台に撃ち込んでいたゴム弾の前に、今度は自らの身をさらすことになる。
 それは特別報道隊を志したときから覚悟していたとはいえ、やはり相応に緊張と不安が高まった。
 しかしその点はさすがというべきか。つい最近まで新入社員の指導員を務めていた佐久間である。
 報道管理庁の指定する特別な全身保護アーマーの装着方法に関しては、一切抜かりなく教えてくれた。

 アーマー装着を始める直人たちに、佐久間が簡単な説明を始める。

 報道管理庁の定めるスクープの〝争奪戦〟はに近い。
 五人一組のチームでゴム弾を撃ち合い『報道許可エリア』と呼ばれる場所の陣取り合戦をする要領だ。

 サバゲーと違う点は、銃撃戦に加えて『近接戦闘』が許可されている点と、脱落者の離脱が『自己申告』ではなく『強制』であるという点だ。
 ただし『強制』といっても第三者によって連れ去られるような事はない。たったいま直人が身に着けたアーマーが脱落者の動きを封じる役目を担っているからだ。

 が取り付けられているアーマーは、一定以上の衝撃を感知すると装備者の肘や膝の関節部分、さらには無線通信機能で連動している電動ガンのトリガーをロックする仕組みになっている。
 この仕組みによりゴム弾に被弾したり警棒で殴られたりした場合には、アーマーによって強制的に〝争奪戦〟から脱落させられるのである。



 説明が終わると、ついに模擬戦の準備が始まった。



 お台場にある日ノ丸テレビ所有のこの施設は、元々はサバゲーブーム時に建てられた専用の遊技場だ。
 ブームの鎮火と共に客足も減り、潰れかけていたのを日ノ丸テレビが丸々買い取って特別報道隊の訓練施設としてリサイクルしたうってつけの施設である。

 模擬戦の相手を務めるのは、新たに一人の新隊員を迎えた第四部隊だった。

 常にスクープを求めて日本各地を飛び回る特別報道隊が東京に残っていることも珍しいが、本来の業務ではないただの訓練に二つの部隊が参加することはさらに珍しい。
 このミラクルを可能にした裏側には、やはり冬季オリンピックとワールドカップが同時に開催される四年に一度のサイクルが関係しているのだが――ぶっちゃけ直人にはどうでもよかった。

 心の準備が中途半端なまま、模擬戦のフィールドに足を踏み入れる。

 初めて付けたアーマーは想像していたほどの重さはなかったが、インカム付きのフルフェイスヘルメットまで被るとさすがに息苦しい。慣れるまでにはかなり時間が掛かりそうだ。

 本来なら五対五の試合になるべきところだが、両部隊とも新人教育を優先する事情で三対三となった。
 もっともこちらは新人三人なのに対して、あちらは新人一人にベテランが二人付き添う形。さっそく教育方針の違いが浮き彫りとなっている。

「それでは両部隊、配置に着けぃ!」

 配置のセオリーなどわかるはずもない直人たち三人は、相手チームの動きを見様見真似でコピーするしかなかった。佐久間から何のアドバイスも飛んでこないのがもどかしい。

 そして、


 ピィ――――――――!


 実際の争奪戦でも使われているホイッスルの音が、開始の合図だった。
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