こちら報道最前線 ~現場では今日もゴム弾が飛び交っております~

木川のん気

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第二章

日下遥(3)

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 およそ両手では運べない量になった食器類は、店員の強い勧めもあって配送サービスを利用することにした。
 追加の料金を取られたが予定よりも両手が軽いことを直人は素直に喜んだ。これで気兼ねなく他の店も回れるからだ。ユニクロの下着コーナーで新素材のアンダーシャツを手に取っていると、遥が思い出したように言った。

「そういえば女性が一人暮らしするときに男性物の下着を干すと防犯になるっていうわよね。どう? ナオもショーツとブラジャー干してみる?」
「それは防犯になるのか……?」

 ……どんな犯罪者を避けるというのか。

「どっちかっていうとリア充アピールかしら」
「待て待て。彼女いない奴が干してたらただのイタイ奴だろうが」
「あら。あんた彼女いないの?」

 いかにも初耳みたいな顔をしているのが腹立たしい。大体、もし居たとしたらどこからか情報を拾ってくるのが日下遥という女なのだ。

「そもそも居たことがねぇよ」
「もったいないわねぇ。高校大学とそこそこモテてたくせに。もったいない」
「二回もいうな。つーか、そういうハルカはどうなんだよ」
「あたしはいいのよ。このママ譲りの美貌があれば彼氏の一人や二人すぐにでも作れるんだから」
「……はいはい。そうでしょうね」

 否定しきれないのが悔しい。

 しかしなんというか……。
 遥に彼氏がいないことを喜んでいる自分がいる。
 それはなんともフクザツな気分だった。

 
 ◇◆◇


「オススメの店を教えてあげるわ。感謝しなさい」

 そう言われて連れてこられたのは本格フレンチが食べられるという――直人一人だったら絶対に入れないような――オシャレな店だった。
 遥に背中を押される格好で店内に入り、一度じゃ到底覚えられない名前の料理を数品注文する。といっても、どんな料理か見当もつかないのでココでもほとんど遥にお任せだ。
 一〇分ほどして運ばれてきた料理はどれも食べたことのない味付けばかりだったが、遥が勧めるだけあってハズレなく美味い品ばかりだった。

「彼氏もいないのになんでこんな店知ってんだ?」

 思わず訊くと、遥はあっさり言ってのけた。

「逆よ逆。一人の方が気楽に行きたいトコに行けるのよ」
「そういうもんか」

 一人の時はあまり外出しない直人からすると、よくわからない理屈だった。
 頼んだ品をあらかた食べ終え、二人は一息つく。

「そういえばナオ。晩ゴハンはどうするつもり?」
「もう晩飯の話かよ」

 椅子の背もたれに体重を落としながら反射で言い返す。
 まぁ、何も考えていなかったのだが。

 当初の予定では、持ち帰った食器で自炊でもしようと思っていた。
 しかし配送サービスを活用したためそうもいかない。となると次に思いつくのはインスタントやコンビニ飯。だが、こう美味いものを食べた後ではどうにも乗り気になれなかった。
 かといって夕飯を抜くという選択肢は選びたくない。今でこそ満足感が先行しているものの、やはりオシャレな皿は少しばかりモノ足りなかった。

「特に予定がないならウチに来なさいよ」

 遥に提案されて「ああ、その手があった」と心の中で呟いた。
 しかし一応のポーズとして訊いておく。

「なんでさ?」
「朝出てくるときママに言われてたのよ。たまにはゴハンに誘いなさいってね」
「なるほどな」
 
 軽く頷いて、オッサンにも「たまには顔を出せ」と言われていたのを思い出した。
 ……特別報道隊の訓練がどんなモノになるのか見当もつかない。ただ、決して楽ではないのだけは確かだ。この機会を逃せばずるずると先延ばしになってしまいそうな気がした直人は、遥の、というより美弥子からの誘いを受けることにした。

「そうだな。美弥子さんに報告もしなきゃだし、お邪魔しようかな」
「オッケー。ママに連絡いれとくわ」

 さっそく遥は携帯を取り出してポチポチとメッセージを打つ。
 それからは初めに言っていたように昼食代は遥の奢りとなり、夜までの時間を二人でぶらぶらとデートの如く過ごした。
 予定とはかなり違うスケジュールになったが、これはこれで決して悪くない休暇だった。
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