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Ep.2 惨状
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扉を開いた瞬間から、ぐっと空気が重たくなった。
酷く暗く、頭上にある非常灯の緑色が辛うじて俺の周り、つまり扉の辺りをぼんやりと照らしている。しかし、前を向けばその先は闇。ほとんど何も見えない。
視覚情報が入ってこないからか、
「血……だ」
生臭い香りが鼻を突く。
それに、なにか腐ったような匂いも。
俺は身震いした。足が竦み、呼吸が浅くなる。
ゲームならいざ知らず、とてつもない緊張感に襲われて動けない。おいおい、夢だって言ってんだろ、俺。いざとなったら目覚めればいいんだし。そう突っ込んでみたものの、何故か手が震える。思わずしゃがみこみ、壁に手を付いた。
「……あ」
ちょうど足元に、何か転がっていた。細かくは見えないが、ちょうど手のひらサイズの塊。ストラップ紐のようなものが薄ら光っている。手に取ると、金属の冷たい感触と、片側に……ボタンが一つ。
押し込むと、カチリ、と音がして光が一筋暗闇を照らした。どうやら小型のペンライトらしい。
「ほんと…ゲームみたいだな……」
明かりを手に入れて、少しだけ落ち着いた。闇雲に歩き回るのは怖すぎる。
俺は壁に手を添わせたまま、ゆっくりと立ち上がった。手にしたライトを掲げ、通路の奥を照らす。
「……っ!」
突き当たりの正面の壁に寄りかかり、項垂れる男の姿があった。
表情は不明。白衣らしきものを纏い、ピクリとも動かない。投げ出された足の周りにどす黒い血溜まりが広がっている。
生きているのか、死んでいるのかは分からない。
俺はその姿をしっかりと照らしたまま、ゆっくりと歩み寄る。目を離さず、少しでも動いたら立ち止まるよう心の準備をしながら。
あと数歩で彼に手が届く、と言うところまで来た。男に変わった様子は無い。そこで、一旦ライトを彼から逸らし、右に続く廊下を照らすことにした。相変わらず暗い道の先には点々と血が着いており、その先には頑丈そうな扉が閉まっている。
とりあえず、この男に注意を向けていたせいで突然襲われる、なんてことは無さそうだ。
俺はそっと男に向き直ると、改めて全身を観察した。
白衣は血で汚れている。首から名札のようなものを下げており、辛うじて苗字が「クラキ」と読めた。ここの医者だろうか?勇気をだして、白衣のポケットを探ったが、特に何も持っていない。
足からの出血が酷く、素人目に見ても、命に関わる量が流れ出ていると分かる。
そんな中、気になったのは2つ。まず、彼の右手に握られた油性ペンだ。キャップが外されていて、ペン先が乾いている。
もう1つ、それは彼の出血箇所だった。ズボンと共にふくらはぎの肉がえぐり取られている。まるで何かに噛みちぎられたような、そんな印象を受けた。
目を閉じ、深呼吸をしてから、彼の周囲を注意深く見る。メモ帳の類はなく、床に何か書かれた痕跡もない。では、どうして彼はペンを持っていたのだろう?
「これは……!」
見つけたのは、遺体の頭上に引かれた黒い線。力尽きるように彼の頭上で途切れているが、辿っていけば先程照らしたこの先の通路へと続いている。
「自分の通ってきた道を、示そうとしていたのか…?」
単純に考えれば、彼はこの先の頑丈そうな扉から逃げてきて、出口を目指したが、たどり着く前にここで事切れてしまったのだろう。
俺は生唾を飲み込んだ。出口のカードキーを見つけるためには、先に進まなければならない。それは、この先に潜む恐怖と対峙するかもしれない、ということだ。これは序章に過ぎない。
最後にもう一度だけ、亡骸を見つめてから立ち上がる。申し訳ないが、彼はこのまま置いておくしかないだろう。
扉へと続く線は、彼からのメッセージのような気がした。
「……行くか」
俺はそっと遺体から離れる。金属製の扉に向かって歩きながら、焦ったように乱れる黒い線を目で追う。
扉は閉ざされていたが、ノブを回すと鍵はかかっていないようだ。
意を決して、俺は扉を開いた。
酷く暗く、頭上にある非常灯の緑色が辛うじて俺の周り、つまり扉の辺りをぼんやりと照らしている。しかし、前を向けばその先は闇。ほとんど何も見えない。
視覚情報が入ってこないからか、
「血……だ」
生臭い香りが鼻を突く。
それに、なにか腐ったような匂いも。
俺は身震いした。足が竦み、呼吸が浅くなる。
ゲームならいざ知らず、とてつもない緊張感に襲われて動けない。おいおい、夢だって言ってんだろ、俺。いざとなったら目覚めればいいんだし。そう突っ込んでみたものの、何故か手が震える。思わずしゃがみこみ、壁に手を付いた。
「……あ」
ちょうど足元に、何か転がっていた。細かくは見えないが、ちょうど手のひらサイズの塊。ストラップ紐のようなものが薄ら光っている。手に取ると、金属の冷たい感触と、片側に……ボタンが一つ。
押し込むと、カチリ、と音がして光が一筋暗闇を照らした。どうやら小型のペンライトらしい。
「ほんと…ゲームみたいだな……」
明かりを手に入れて、少しだけ落ち着いた。闇雲に歩き回るのは怖すぎる。
俺は壁に手を添わせたまま、ゆっくりと立ち上がった。手にしたライトを掲げ、通路の奥を照らす。
「……っ!」
突き当たりの正面の壁に寄りかかり、項垂れる男の姿があった。
表情は不明。白衣らしきものを纏い、ピクリとも動かない。投げ出された足の周りにどす黒い血溜まりが広がっている。
生きているのか、死んでいるのかは分からない。
俺はその姿をしっかりと照らしたまま、ゆっくりと歩み寄る。目を離さず、少しでも動いたら立ち止まるよう心の準備をしながら。
あと数歩で彼に手が届く、と言うところまで来た。男に変わった様子は無い。そこで、一旦ライトを彼から逸らし、右に続く廊下を照らすことにした。相変わらず暗い道の先には点々と血が着いており、その先には頑丈そうな扉が閉まっている。
とりあえず、この男に注意を向けていたせいで突然襲われる、なんてことは無さそうだ。
俺はそっと男に向き直ると、改めて全身を観察した。
白衣は血で汚れている。首から名札のようなものを下げており、辛うじて苗字が「クラキ」と読めた。ここの医者だろうか?勇気をだして、白衣のポケットを探ったが、特に何も持っていない。
足からの出血が酷く、素人目に見ても、命に関わる量が流れ出ていると分かる。
そんな中、気になったのは2つ。まず、彼の右手に握られた油性ペンだ。キャップが外されていて、ペン先が乾いている。
もう1つ、それは彼の出血箇所だった。ズボンと共にふくらはぎの肉がえぐり取られている。まるで何かに噛みちぎられたような、そんな印象を受けた。
目を閉じ、深呼吸をしてから、彼の周囲を注意深く見る。メモ帳の類はなく、床に何か書かれた痕跡もない。では、どうして彼はペンを持っていたのだろう?
「これは……!」
見つけたのは、遺体の頭上に引かれた黒い線。力尽きるように彼の頭上で途切れているが、辿っていけば先程照らしたこの先の通路へと続いている。
「自分の通ってきた道を、示そうとしていたのか…?」
単純に考えれば、彼はこの先の頑丈そうな扉から逃げてきて、出口を目指したが、たどり着く前にここで事切れてしまったのだろう。
俺は生唾を飲み込んだ。出口のカードキーを見つけるためには、先に進まなければならない。それは、この先に潜む恐怖と対峙するかもしれない、ということだ。これは序章に過ぎない。
最後にもう一度だけ、亡骸を見つめてから立ち上がる。申し訳ないが、彼はこのまま置いておくしかないだろう。
扉へと続く線は、彼からのメッセージのような気がした。
「……行くか」
俺はそっと遺体から離れる。金属製の扉に向かって歩きながら、焦ったように乱れる黒い線を目で追う。
扉は閉ざされていたが、ノブを回すと鍵はかかっていないようだ。
意を決して、俺は扉を開いた。
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