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◇現在 名も無き開拓村、ユーデルの宴会2 // ◆四年前 月光樹の洞、最深部

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◇~現在~ 名も無き開拓村、ユーデルの宴会2



 結局飲まされた。

 ジルちゃんは流石に子供だったのでジュースと宴会料理を飲み食いさせるだけにしたが、その分だけ俺の方にお鉢が回ってきた。

「水、くれ……」
「はいはい」

 レネスが魔法を使って、コップになみなみと注いでくれた。

「悪い」
「良いよ。ところでユーデル」

 レネスがジト目でユーデルを見つめる。
 流石にこの乱痴気騒ぎに呆れたようだ。

「なんだい?」
「時魔術は完成したってことで良いの?」
「ああ、もちろん」

 ユーデルが、蠱惑的に微笑んだ。

「……今回、お酒だけの時間を操作させることができた。だが、酒を詰め込んだ樽の外側や、樽に接している地面は一切劣化していない。コントロールは完璧だよ」
「じゃあ、都合良い場所だけを時間を加速させたり遅くさせたりもできるわけね」
「もちろん」
「……よくもまあ、こんな夢物語みたいな魔術を完成させたものね」
「凄いのは私じゃ無いよ。『別の私達』だよ」
「……そうね」
「ともかくこれで人為的に特異点を作ることができる。酒造りのノウハウも大体たまったし、神酒もそろそろ完成する。計画通りさ」
「うん」
「だから、ちょっとどんちゃん騒ぎするくらい良いでしょー?」
「はぁ……しょーがないわね」

 レネスは、ユーデルから盃を出される。
 強い酒だが、レネスは一息で飲み干す。満足げな表情だった。

「じゃ、そろそろ帰るか。味噌はもらってくぞ」
「はいはーい」

 勝手に倉庫へと入って味噌の入った壺を担ぎ、ユーデル達の食料工房をあとにした。
 すこしばかり酔いが残ったのか、レネスは家に変えるとすぐに寝入ってしまった。
 くうくうと可愛らしい寝息を立てている。

「……なあ、ジル」
「なんでしょう、旦那様」
「レネスに晩酌させようと思うんだがどうだろうか」

 ジルは苦笑いしたまま「たまには良いかと」と言ってくれた。



◆ ~4年前~ 月光樹の洞、最深部



 木の中はまるで洞窟のようになっていた。

 日本の遊園地で、庭木をうまく組み合わせて作られた迷路を見たことがあるが、それを凄まじく大規模にしたようなものといえばわかりやすいだろうか。

 明らかに、自然に発生したものではない。誰かがこれを作ったのだ。
 そして、作った「誰か」は、既にもう居ない。

「てりゃあっ!!!」

 巨大な昆虫のような魔物を、俺は剣の一振りで両断した。
 聖剣があるからこそ倒せているが、オーガやコカトリスといった上級の魔物よりもよほど強い。こんな危うい魔物がウヨウヨしている場所だ、俺たちのような人間が足を踏み入れたのは相当久しぶりに違いあるまい。

「ハルト、さすがだよ。完璧に使いこなしたね」

 ユーデルが微笑む。
 何匹もの凶悪な魔物を倒し続けた結果、ようやく聖剣の使い方を学んだ。
 魔力を込めることでどんな硬い外殻を持っていようが切り裂くことができる。
 そして、魔力を込め続けて撃ち放てば、おそらくは……

「あのときの技を、もう一度使える」

 その手応えを、俺は掴みかけていた。
 ここに来るまでは大変だったが、その甲斐があったというものだ。
 ただ、成功したことばかりではなかった。

「……でも、このあたりは探し尽くしたよな。それらしい古文書とかアイテムとかも見当たらないし、うーん」
「魔物がいるばっかりですね……」

 ユーデルの捜し物は、まったく見つからなかった。
 時魔術の手がかりがあるはずなのだが、凶悪生物がうろつくばかり。
 数時間探し歩いたが、流石に披露がたまってきた。

「休憩を入れて、帰ろう」

 ユーデルが、諦め気味にそう呟いた。

「……良いのか?」
「構わないさ。封印されるような危険が魔術が無かったと確認できたなら、それもまた収穫だからね」
「だが……」
「ハルト、きみは自分自身の力で聖剣の使い方に目覚めた。ぼくもそうあらねばならないんだろう」
「ユーデルの助言があったからだよ。俺一人じゃ無理だった」
「ぼくも一人ではないよ。里に戻れば魔法の研究者仲間はいるからね」

 ユーデルは、こざっぱりした顔をしていた。
 落胆はあるだろう。この場は諦めているのだろう。
 だが本当の目的まで諦めるつもりはさらさらない。そんな芯の強さを感じた。
 報われてほしい。

『……ハルト……こっちへ……』

「ん? レネス、なにか言ったか?」
「いえ、何も言ってませんよ?」

 あれ、おかしいな。
 確かにレネスの声が聞こえた気がしたんだが……。
 いや、でも口調が変だった。
 レネスは誰に対しても丁寧語だし、ずいぶんくだけた口調に聞こえた。

 気の迷いかとは思ったのだが、妙に印象に残っていた。
 どこか切実な響きだ。

「……こっちに行ってみないか?」
「ハルト、そちらはもう探したんじゃ?」

 ユーデルが不思議そうな顔をする。

「もう一度だけ見てみないか。見落としがあるかもしれないし」
「……まあ、構わないけれど」

 俺が先導して、ユーデル、レネスがついてくる。
 既に魔物は斬り倒しており、さほどの危険はない。

『そう、こっち……』

 だが、レネスの声が聞こえてくる。
 いや、今俺の後ろにいるレネスとは違う。
 だが明らかに、彼女の声だ。

「ハルトさん……どうしたんですか……?」

 心配げにレネスが尋ねてくる。

「大丈夫」

 何が大丈夫なのかはわからないが、俺には予感がしていた。
 ここに来る必要があった、これこそが運命なのだと。

 まるで樹木をくり抜いたような迷宮の床を、手でなぞる。
 隠し扉などはない。
 そんなものがあればひと目でわかる。
 しかし、この迷宮には、この迷宮ならではの隠し方があるのだ。

「ここだ」

 俺が指を指し示すと、ユーデルとレネスはきょとんとしていた。
 が、ユーデルが先に気づいた。

「……ここだけ、木の質が違う!」
「これはもしかして……ヤドリギ……?」

 ヤドリギとは、樹木に寄生した木のことだ。
 寄生虫のように宿主にとりついて栄養を奪う。

 もっともここは、城よりも大きな木の内部だ。人間程度のサイズのヤドリギがあったところで月光樹そのものにはさほどの影響もないだろう。問題は、まるでその先にある道を塞ぐかのように植えられていることだ。

「このヤドリキの奥に、何かあるぞ……!」
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