51 / 59
二章「結婚の儀」
四十一話「守護者の家族」後編
しおりを挟む
「こんにちは、新しい雇い主さん達」タッカの兄弟姉妹だと名乗る『影』のメンバー十名が、『裏口』からやって来た。獣道を通って山を登り、結界を兼ねた壁を乗り越える道だ。
上は二十二歳、下は三歳だそうだ。離宮の結界を通っても警告がなく、闇の精霊の歓びが伝わってくるから、信頼できるということ。タッカに隠れて招くなんて、精霊の悪戯までして。
「本気だったの?」タッカが目を見開く。
「当たり前じゃない。私達のリーダーはタッカよ。貴方がこの国に付くなら、みんなも一緒」年長のスーティー。濃い赤紫の髪とピンクの目、褐色の肌の美女だ。
髪か目、肌のどれかに濃い色を含む子ども達。ゲームでは『黒衆』と呼ばれて蔑まれていた。この国では見たことがなかったけど。黒衆の殆どが実は、闇の加護を持っている。
光の信仰により影の立場にいるけど、この国では神殿に保護され、隠れ里の様な所でのんびりと暮らしていた。前世のRPGに出てきた『黒エルフ』みたいな感じだ。
「ようこそ、みんなに会えて嬉しいわ。タッカの兄弟なら、私達の家族ね」私は笑って腕を広げ、近寄ってくれた一番小さな子を抱きしめる。震える体を膝に抱えて黒髪に口付けた。名を訊くとアトロス、と教えてくれる。
守護者達も寄ってきて、抱き上げたり抱きしめたり。パースランとパクレットはあっという間に、大きな子達と友達の顔で話し始めた。
「まだ数十人程、こちらに来るつもりでいるそうなんだけど」タッカが困った顔で言うのに、笑顔を向けた。
「王配に連絡して貰いましょうよ。これまでの報酬がわりに、暮らす場所くらい手配してくれるでしょ?」
タリーを見ると、こちらも小さな子を抱いてご機嫌だ。聾唖らしく、タリーの口を触ってゴルディ、と名を練習している。
「本当は離宮にいて欲しいけど。騎士団の警戒には穴があるらしい。タッカの補助を頼めるとありがたいな」タリーの言葉に頷く。
「聖域でいいんじゃない? 精霊に愛されてる子達なんだから、大丈夫でしょう」
タリーと話していると、子ども達が仰天したり、ぽかんと口を開けている。
「どうかした?」守護者達と首を傾げた。来た途端仕事を頼んじゃ、まずかったかしら。
「精霊に愛されてるって?」最初に話していた女の子が、唖然とした顔で呟いた。
「言っちゃダメだった?」知らなかったんだ。側に立つタッカを見上げる。
「ここへ来た子には言っても大丈夫。すぐに分かる事だから」タッカが笑顔で答えて、口付けてくれた。
「精霊達に会いに行こう」タッカに招かれて、子ども達が伴侶の間へ入って行く。闇がふわっと広がった後に、気配が消えた。
次に現れたのは、パクレットとパースランの両親。職人のパースランの両親は来るのを渋って、商人であるパクレットの両親が、強引に引っ張って来てくれたようだ。
「父さん、母さん」パースランが二人の前で目を潤ませて俯く。
「……反対などせんのに、なんで言わん」お父さんがぶっきらぼうに呟く。
「だって、職人の子は職人だって父さんはいつも……」パースランは小声で答えた。
「やりたい事ができたと言えばええ。嫌がるのに強制したりはせん」手は器用でも、話すのは不器用な親子なのね。
「父さん、お前が心配で仕事が手に着かなかったんだ。その後もお前は手紙一つくれないから、へそ曲げちまって。あたしも心配してたよ」お母さんが涙を溢す。
「……ごめん。何て言ったらいいか分からなくて」お母さんは親戚のパクレットが家族に連絡したのに、パースランはしないのが寂しかったのかも。
パースランは年の離れた末子で、親兄弟が忙しくて余り構って貰えず、同じような境遇のパクレットと二人で、庇い合って育ってきたと聞いた。愛されてはいたのね。
ぽつりぽつりと言葉をやり取りする親子を、みんな見ない振りで気にしている。
私はパクレットの家族に挨拶した。
「うちの末っ子はまだまだひよっこで……本当に大丈夫ですか?」お母さんは不安そうだ。
イオの出番ね、もの柔らかにパクレットの事を褒めて宥めている。
「父さん、北の辺境伯領に行きたいんだけど」恋する兄ラッセルは、それどころじゃないらしい。
「あちらにはツテがないが」突然の発言に、お父さんが困惑している。
「実は今、次期辺境伯である姉が来ていまして……」コレウスが畳み掛ける。お姉さんのファレンは後ろで困っているけど。まぁ、お任せしましょう。
ヒビスクスの案内で敷地内を散策していた、私とタリーの家族が帰って来た。
タッカも見違える様に明るく笑う、黒衆の子ども達を連れて戻っている。
騎士団の副長が、父とヒビスクスの隊の騎士達と一緒に現れた。
そこへ巫女姫と御子が世話係と護衛、神官や巫女達に付き添われてやって来る。
みんなが揃い夕食の準備も整った。公的な行事の準備というけど、実際は顔合わせと内輪の食事会だ。
「この度は私達の為にお越し頂き、ありがとうございます」みんなに促され、立ち上がった。
「こうして結婚の儀を迎えられるのは、私達を支えて下さった皆さんのお陰です」
こういうのは、前もって言っておいてほしいわ。守護者達も立ち、揃って頭を下げた。
乾季の空に小雨が降り、小さな虹が架かる。素敵な晩餐会となった。
上は二十二歳、下は三歳だそうだ。離宮の結界を通っても警告がなく、闇の精霊の歓びが伝わってくるから、信頼できるということ。タッカに隠れて招くなんて、精霊の悪戯までして。
「本気だったの?」タッカが目を見開く。
「当たり前じゃない。私達のリーダーはタッカよ。貴方がこの国に付くなら、みんなも一緒」年長のスーティー。濃い赤紫の髪とピンクの目、褐色の肌の美女だ。
髪か目、肌のどれかに濃い色を含む子ども達。ゲームでは『黒衆』と呼ばれて蔑まれていた。この国では見たことがなかったけど。黒衆の殆どが実は、闇の加護を持っている。
光の信仰により影の立場にいるけど、この国では神殿に保護され、隠れ里の様な所でのんびりと暮らしていた。前世のRPGに出てきた『黒エルフ』みたいな感じだ。
「ようこそ、みんなに会えて嬉しいわ。タッカの兄弟なら、私達の家族ね」私は笑って腕を広げ、近寄ってくれた一番小さな子を抱きしめる。震える体を膝に抱えて黒髪に口付けた。名を訊くとアトロス、と教えてくれる。
守護者達も寄ってきて、抱き上げたり抱きしめたり。パースランとパクレットはあっという間に、大きな子達と友達の顔で話し始めた。
「まだ数十人程、こちらに来るつもりでいるそうなんだけど」タッカが困った顔で言うのに、笑顔を向けた。
「王配に連絡して貰いましょうよ。これまでの報酬がわりに、暮らす場所くらい手配してくれるでしょ?」
タリーを見ると、こちらも小さな子を抱いてご機嫌だ。聾唖らしく、タリーの口を触ってゴルディ、と名を練習している。
「本当は離宮にいて欲しいけど。騎士団の警戒には穴があるらしい。タッカの補助を頼めるとありがたいな」タリーの言葉に頷く。
「聖域でいいんじゃない? 精霊に愛されてる子達なんだから、大丈夫でしょう」
タリーと話していると、子ども達が仰天したり、ぽかんと口を開けている。
「どうかした?」守護者達と首を傾げた。来た途端仕事を頼んじゃ、まずかったかしら。
「精霊に愛されてるって?」最初に話していた女の子が、唖然とした顔で呟いた。
「言っちゃダメだった?」知らなかったんだ。側に立つタッカを見上げる。
「ここへ来た子には言っても大丈夫。すぐに分かる事だから」タッカが笑顔で答えて、口付けてくれた。
「精霊達に会いに行こう」タッカに招かれて、子ども達が伴侶の間へ入って行く。闇がふわっと広がった後に、気配が消えた。
次に現れたのは、パクレットとパースランの両親。職人のパースランの両親は来るのを渋って、商人であるパクレットの両親が、強引に引っ張って来てくれたようだ。
「父さん、母さん」パースランが二人の前で目を潤ませて俯く。
「……反対などせんのに、なんで言わん」お父さんがぶっきらぼうに呟く。
「だって、職人の子は職人だって父さんはいつも……」パースランは小声で答えた。
「やりたい事ができたと言えばええ。嫌がるのに強制したりはせん」手は器用でも、話すのは不器用な親子なのね。
「父さん、お前が心配で仕事が手に着かなかったんだ。その後もお前は手紙一つくれないから、へそ曲げちまって。あたしも心配してたよ」お母さんが涙を溢す。
「……ごめん。何て言ったらいいか分からなくて」お母さんは親戚のパクレットが家族に連絡したのに、パースランはしないのが寂しかったのかも。
パースランは年の離れた末子で、親兄弟が忙しくて余り構って貰えず、同じような境遇のパクレットと二人で、庇い合って育ってきたと聞いた。愛されてはいたのね。
ぽつりぽつりと言葉をやり取りする親子を、みんな見ない振りで気にしている。
私はパクレットの家族に挨拶した。
「うちの末っ子はまだまだひよっこで……本当に大丈夫ですか?」お母さんは不安そうだ。
イオの出番ね、もの柔らかにパクレットの事を褒めて宥めている。
「父さん、北の辺境伯領に行きたいんだけど」恋する兄ラッセルは、それどころじゃないらしい。
「あちらにはツテがないが」突然の発言に、お父さんが困惑している。
「実は今、次期辺境伯である姉が来ていまして……」コレウスが畳み掛ける。お姉さんのファレンは後ろで困っているけど。まぁ、お任せしましょう。
ヒビスクスの案内で敷地内を散策していた、私とタリーの家族が帰って来た。
タッカも見違える様に明るく笑う、黒衆の子ども達を連れて戻っている。
騎士団の副長が、父とヒビスクスの隊の騎士達と一緒に現れた。
そこへ巫女姫と御子が世話係と護衛、神官や巫女達に付き添われてやって来る。
みんなが揃い夕食の準備も整った。公的な行事の準備というけど、実際は顔合わせと内輪の食事会だ。
「この度は私達の為にお越し頂き、ありがとうございます」みんなに促され、立ち上がった。
「こうして結婚の儀を迎えられるのは、私達を支えて下さった皆さんのお陰です」
こういうのは、前もって言っておいてほしいわ。守護者達も立ち、揃って頭を下げた。
乾季の空に小雨が降り、小さな虹が架かる。素敵な晩餐会となった。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる