39 / 59
二章「結婚の儀」
三十五話「巫女姫の来訪」後編
しおりを挟む
「お帰りなさい」父と義母、弟を加えたみんなで食卓を囲んでいると、タリーとイオナンタが王宮から戻って来た。
「お疲れさまでした」イオナンタが両親に挨拶をしてから、私の側に来てくれた。
「大変だったみたいですね」イオの言葉に笑いが混じってるから、光の精霊に聞いたのね?
「御子は巫女姫ミルテに会いたがって、興奮しすぎて熱を出すほどだったそうです。フィルと会った時も喜んでいましたが、やはり自身の聖女は特別なようですね」
うん、あの光景には聖母子像が思い浮かんだわ。
「巫女姫に出生の秘密を説明することになるのかと悩んでたのに、拍子抜けしちゃった。助かったけど」
私の言葉に、周囲のみんなも笑った。
「タリーとイオはいないし、三組の来客が重なるし。オレも本当は不安だったよ」パースランが頭を掻く。
「まぁ、巫女姫がフィルと恋に落ちた瞬間に、巫女姫のことは彼に任せればいいと分かったがな」御子へのコレウスの呑気な対応は、病気じゃないと分かってただけじゃないのね。
「え? 新領地って……」突然上がったフィルの大声に、みんなが注目する。
「昇進には殆どの場合、配置変えが伴う。これまでは病身のラディアータの為に断ってきたが、今後は遠方任務も、家族での異動もあるだろう」落ち着いた父の声に、義母も頷いている。
「だって、巫女姫は……」王都にいるのに、か。
「お前は騎士団に入団したんだ。そんな覚悟もなかったのか。王都にいても従者は激務だ。遊ぶ暇などないぞ」父の叱責に、弟は言葉も出ない。
私の家族に囲まれてしまったタリーが困っている。側に行こうとした私を、タッカが引き止めた。
「スパティフィラム。貴方は何を優先しますか?」義母プリムラの凛とした声に、実母の姿が重なった。
「貴方はまだ騎士ですらない。彼女を助けた父親と聖女である姉の力を笠に着て、彼女の側にいるつもりですか?」義母は続ける。
「姉の傍らに立つためにタリーがどれ程努力していたか、貴方は見ていた筈です」
「……すみませんでした。舞い上がっていたようです」フィルは良い子だ。巫女姫の孤独を慰めてあげたかったのだと、みんな分かっている。そして、それが許される立場でないことも。
「巫女姫も、新領地の神殿で療養予定です」タッカの囁きに頷く。絆を結ばなくてはならない時期だものね。王都より自由に行動できる、新領地の方がいいに決まっている。
「私は家族や御子との別れが寂しいわ」タッカに口付けて囁き返すと
「寂しがる暇なんて、あげませんよ」こっそり腰を撫でる伴侶の言葉に納得し……ちょっと怯える。
パクレットが赤くなって私達を見つめていた。聞かれちゃったわ。でも、風の精霊も生む約束だものね。笑いかけると、こくりと頷く様子が愛しい。また忙しい日々になりそう。
「では、結婚式は来月初めで宜しいですね」タリーの声に、みんなが注目した。
「分かった。伴侶の方々、守護者の皆さん、ヴェロニカを宜しくお願い致します」家族三人と合わせて、私も頭を下げる。
「大切にするとお約束致します」タリーの言葉に涙が零れた。
とうとう結婚するのね。色々あって後回しになっていたけど、こうして絆が深まってからの儀式で、私達にとっては良かったと思う。結局、七人の守護者全員と結婚することになったし。
「披露は女王の在位三十年の祝賀を兼ねて、王族の結婚式に準じた流れで行われます。ヴェロニカの実母ラディアータが王族の血を引くことを我国が了解していると示す為です」タリーが息を継いだ。
「でも実際には、警備上の問題が大きいそうです。女王は騎士団に、ヴェロニカと守護者各々の家族の護衛を依頼しました」タリーの声に皆の顔が真剣になった。
「明日、女王の訓示があります。ヴェロニカのご家族にはこのまま王宮に留まっていただきます」タリーがちらりとフィルを見た。
「日中は、プリムラ様は離宮にお越しください。花嫁教育という名目で、巫女姫も参加予定です」フィルは瞬きしただけで、お父様は微かに頷いた。
「デュランタ様とスパティフィラム殿には、プリムラ様の送迎をお願いします。できればお食事は、離宮でご一緒にお取り下さい」お父様が了解した。これも警備上の問題ね。
「守護者の家族も今月末には王宮に揃います。顔合わせの機会が設けられるそうです。各々で対応して下さい」コレウスが露骨に嫌な顔をするのに、笑い声が洩れた。
「害意があれば離宮には入れませんが、念の為、結界の近くには近付かないで下さい」タッカが付け加え、みんなが頷いた。
「お疲れさまでした」イオナンタが両親に挨拶をしてから、私の側に来てくれた。
「大変だったみたいですね」イオの言葉に笑いが混じってるから、光の精霊に聞いたのね?
「御子は巫女姫ミルテに会いたがって、興奮しすぎて熱を出すほどだったそうです。フィルと会った時も喜んでいましたが、やはり自身の聖女は特別なようですね」
うん、あの光景には聖母子像が思い浮かんだわ。
「巫女姫に出生の秘密を説明することになるのかと悩んでたのに、拍子抜けしちゃった。助かったけど」
私の言葉に、周囲のみんなも笑った。
「タリーとイオはいないし、三組の来客が重なるし。オレも本当は不安だったよ」パースランが頭を掻く。
「まぁ、巫女姫がフィルと恋に落ちた瞬間に、巫女姫のことは彼に任せればいいと分かったがな」御子へのコレウスの呑気な対応は、病気じゃないと分かってただけじゃないのね。
「え? 新領地って……」突然上がったフィルの大声に、みんなが注目する。
「昇進には殆どの場合、配置変えが伴う。これまでは病身のラディアータの為に断ってきたが、今後は遠方任務も、家族での異動もあるだろう」落ち着いた父の声に、義母も頷いている。
「だって、巫女姫は……」王都にいるのに、か。
「お前は騎士団に入団したんだ。そんな覚悟もなかったのか。王都にいても従者は激務だ。遊ぶ暇などないぞ」父の叱責に、弟は言葉も出ない。
私の家族に囲まれてしまったタリーが困っている。側に行こうとした私を、タッカが引き止めた。
「スパティフィラム。貴方は何を優先しますか?」義母プリムラの凛とした声に、実母の姿が重なった。
「貴方はまだ騎士ですらない。彼女を助けた父親と聖女である姉の力を笠に着て、彼女の側にいるつもりですか?」義母は続ける。
「姉の傍らに立つためにタリーがどれ程努力していたか、貴方は見ていた筈です」
「……すみませんでした。舞い上がっていたようです」フィルは良い子だ。巫女姫の孤独を慰めてあげたかったのだと、みんな分かっている。そして、それが許される立場でないことも。
「巫女姫も、新領地の神殿で療養予定です」タッカの囁きに頷く。絆を結ばなくてはならない時期だものね。王都より自由に行動できる、新領地の方がいいに決まっている。
「私は家族や御子との別れが寂しいわ」タッカに口付けて囁き返すと
「寂しがる暇なんて、あげませんよ」こっそり腰を撫でる伴侶の言葉に納得し……ちょっと怯える。
パクレットが赤くなって私達を見つめていた。聞かれちゃったわ。でも、風の精霊も生む約束だものね。笑いかけると、こくりと頷く様子が愛しい。また忙しい日々になりそう。
「では、結婚式は来月初めで宜しいですね」タリーの声に、みんなが注目した。
「分かった。伴侶の方々、守護者の皆さん、ヴェロニカを宜しくお願い致します」家族三人と合わせて、私も頭を下げる。
「大切にするとお約束致します」タリーの言葉に涙が零れた。
とうとう結婚するのね。色々あって後回しになっていたけど、こうして絆が深まってからの儀式で、私達にとっては良かったと思う。結局、七人の守護者全員と結婚することになったし。
「披露は女王の在位三十年の祝賀を兼ねて、王族の結婚式に準じた流れで行われます。ヴェロニカの実母ラディアータが王族の血を引くことを我国が了解していると示す為です」タリーが息を継いだ。
「でも実際には、警備上の問題が大きいそうです。女王は騎士団に、ヴェロニカと守護者各々の家族の護衛を依頼しました」タリーの声に皆の顔が真剣になった。
「明日、女王の訓示があります。ヴェロニカのご家族にはこのまま王宮に留まっていただきます」タリーがちらりとフィルを見た。
「日中は、プリムラ様は離宮にお越しください。花嫁教育という名目で、巫女姫も参加予定です」フィルは瞬きしただけで、お父様は微かに頷いた。
「デュランタ様とスパティフィラム殿には、プリムラ様の送迎をお願いします。できればお食事は、離宮でご一緒にお取り下さい」お父様が了解した。これも警備上の問題ね。
「守護者の家族も今月末には王宮に揃います。顔合わせの機会が設けられるそうです。各々で対応して下さい」コレウスが露骨に嫌な顔をするのに、笑い声が洩れた。
「害意があれば離宮には入れませんが、念の為、結界の近くには近付かないで下さい」タッカが付け加え、みんなが頷いた。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる