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一章 聖女と守護者達

二十五話「東の国の神官」前編

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 御子が身動きするのを感じて、イオナンタの腕の中で目覚めた。疲れきったイオの寝顔に、随分無理をさせているのだと悲しくなる。
 御子は日に日に可愛くなるし、パクレットの啖呵《たんか》の通りこの国で育てたくなるけど、そういう訳にはいかないわね。本当にどうしようかしら。

「おはようございます」私のため息で目覚めたらしいイオが、私を見て微笑んだ。
「聖女を抱いて眠り、こうして起きる幸せな時間を貰えた。みんなには悪いけど、御子には感謝しています」
 私の為に怒り、夜を徹して働いて、私の気持ちまでおもんばかってくれる、優しい守護者達が愛しい。間に御子を挟んで、穏やかな口付けを交わす。

 守護者が揃った翌日に、みんなで食事の時間を決めて、その時間に離宮に居ればできる限り一緒に食事をしようと約束をした。
 それ以降、一人二人欠けることがあっても、三人だけの朝食というのは初めてだ。仕方ないけど、やはり寂しい。

 食後のお茶を入れ始めた時に、呼び鈴が鳴った。パースランが対応して、厳しい表情で振り返る。
「マジョラムさんとモーヴ神官です。どうしますか?」タリーもいないし、こんなに早い時間に? 三人で顔を見合わせた。

「一応タッカに教わった方法で、守護者みんなに来客の知らせを送っておきます。特にパクレットは近くにいる筈です。用が済み次第、様子を見に来てくれるでしょう」
 イオの意見に頷いて、私は御子を抱いて部屋の奥に座った。何かあったら聖女の間に飛び込むんだ。

 さて、精霊と話して、マジョラムの気持ちは変わったかしら。彼の過去や気持ちを夢で見せた精霊に免じて、話してみよう。

 パースランが扉を開けると、二人が入ってきたが、その姿に唖然とした。
「どうしたんです? 大丈夫ですか?」イオが駆け寄った。マジョラムはフラフラしていて、殆ど歩けずに神官に抱えられている。

「御子のお世話が出来るよう、教わった事を試みてみたんですが、上手く加減ができなくて」モーヴ神官は泣きそうになっている。
「とにかく横になって下さい」マジョラムをソファに寝かせたイオが回復魔法をかけると、彼はすぐに眠ってしまった。

「お手数をお掛けしてすみません。わたしは魔力量が少なくて。一晩防音結界を張っていたら、回復もできなくなってしまいました」深く頭を下げるモーヴ神官の姿からは、危険性は全く感じられない。
 なし崩しに側に寄ってしまい、少し気まずい顔を見合わせて、四人でテーブルを囲む。

「一体何があったんですか?」私が入れたお茶を一口飲んで、イオが尋ねた。
 モーヴ神官が表情を引き締めて答える。
「昨夜、みな様の言葉を反芻しておりまして。特にパースラン殿が仰ったことに、二人とも打ちのめされてしまいました」改めて頭を下げる神官からパースランに視線を向けたイオと私に、パースランがぶんぶんと首を振る。

「このまま育てば、御子はヴェロニカ様とイオナンタ殿・タリヌム殿らをご父母と慕われ、何処にも行かないと仰るだろうと」モーヴ神官の言葉に、パースランが思い当たった様子で頷く。その通りだろうと見つめる私達に、神官が続ける。

「御子にそう言われる事を想像すると、頭を殴られた様でした。わたし達は労せずして得ようとしていたのだと、目が覚めたのです。精霊達から、ヴェロニカ様はお母君の教育と実際のお役目との違いに悩まれたと聞きました。選定の儀を涙ながらに乗り越え、ご負担で寝込まれ、心を病まれたすぐ後なのに御子を身籠って頂いたのだとも」

 モーヴ神官は話しているうちに泣き出してしまった。精霊達、だいたい本当のことだけど、ちょっと言い過ぎ。前世なら、個人情報流出で訴えるところよ。

「うん、その通りだね」パースランがあっさりと答えた。この口調だと、まだかなり怒ってるわ。
「うちの聖女がイーストフィールドの為に無理をしてるのに、貴方達は感謝すらしない。更に自分達の尻拭いをこちらに押し付けて、それを当然だと思ってたでしょ?」

「本当にすみませんでした。皆さんの言葉に衝撃を受けて、暫く呆然としていました。そうしたら、この国の精霊達が巫女長《ラディアータ》様とヴェロニカ様の気持ちを話してくれて。ようやく、自分達が余りに身勝手だったと理解できたんです」

「貴方の気持ちは分かりました」イオがため息を吐いて頷いた。
「それで、マジョラムはどうしたんですか?」治療者としては放っておけないのね。
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