7 / 9
ヒート2 sideグレイヴ
しおりを挟むトイレから出て保健室に戻ろうとするが、あまり近づいて匂いにあてられてまたトイレに籠ると、彼が出てきた時に気づいてあげられない。
そのままそこで待つことにした。
するとすぐに、保健室から彼が出てくる。
とりあえず声が届くぐらいの近さまでは近づけた。
「もう、大丈夫そうか?」
彼はコクリと頷く。よかった。
「そうか」
至近距離まで寄って匂いがするか確かめると、もう匂いは消えていた。
「薬がちゃんと効いたみたいでよかった」
「入れば?」
彼は少し視線を彷徨わせた後、そう言った。
「ああ」
保健室に入ってソファの端に座る。
彼は距離を開けて反対の端に座った。
「……薬って抑制剤だよな」
「そうだ」
それ以外に何があるというのだ。
「薬を飲ませるために俺を保健室に?」
「ああ、とても辛そうだったから落ち着いたところで早く飲ませてあげようと」
「そうか」
「嫌だったか?」
保健室に何か嫌な思い出でもあったのだろうか。
彼は首を横に振った。
「良かった」
これ以上嫌われたらどうしようかと思った。
「俺が薬はないって言った後……」
「っ!あれは、すまなかった!!」
「昔読んだ本に、ヒート中のΩは本能的に行動するようになり、無意識に抑制剤を隠したり拒否するようになると書いてあった」
本来の意思とは異なる行動をとる場合があると。
幼い頃からΩについて勉強をしていた。その時に読んだ本の中だろう。
「だから、どこかに隠し持っているかもしれないと思って、探そうとしたんだが、その、まあ、探しづらかったから仕方なく……」
君の姿が目に毒だったからとはとても言えない。
「……といっても言い訳にしかならないだろうが」
どんな罵詈雑言も今なら受け入れる所存だ。
「いや、いいんだ。緊急時だったし」
この子は本当に優しすぎると思う。
「正直、俺はお前に犯されると思ってた」
「俺はそんなことしない!これだけは確かだ。信じてくれ」
ズボンを剥いでおいて説得力がないな。
「それはもうわかってる。でも俺は本気でそう思ってたし、あの薬は避妊薬に見えてた。だから、拒否した」
「……すまない。怖い思いをさせた」
オメガが抗えないのをいいことに、ヒートに乗じてそういった事に及ぼうとする輩もいると聞く。
「お前は何も悪くない。俺が怖がり過ぎてただけだ」
「いや、怖がるのは当たり前だ。ヒート中のΩは弱くなる。警戒はしないと、命を落としかねない」
こちらは一度、交際を迫った相手だ。
なおさら恐怖したことだろう。
「……普段、Ωは弱いと言われるのは腹が立つ。でも、こればっかりは認めざるを得ない」
彼は膝を抱え顔を伏せる。
それはまるで不安を隠すようだった。
「俺を見つけたのがお前で良かった。俺は嫌だ嫌だと思っていても、なんの抵抗も出来ずに、お前に運ばれて薬を飲まされた。今回は違ったから良かったけど、これが俺の想定した通りになっていたらと思うと、ゾッとする」
「それは俺もゾッとする」
そんな事態になっていたら、俺は死ぬまで後悔する。
「俺は昔からαが大嫌いだ。だけどお前なら、好きになれそうな気がする」
「それは、とても嬉しいな」
85
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説

上手に啼いて
紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。
■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。

サンタからの贈り物
未瑠
BL
ずっと片思いをしていた冴木光流(さえきひかる)に想いを告げた橘唯人(たちばなゆいと)。でも、彼は出来るビジネスエリートで仕事第一。なかなか会うこともできない日々に、唯人は不安が募る。付き合って初めてのクリスマスも冴木は出張でいない。一人寂しくイブを過ごしていると、玄関チャイムが鳴る。
※別小説のセルフリメイクです。

目標、それは
mahiro
BL
画面には、大好きな彼が今日も輝いている。それだけで幸せな気分になれるものだ。
今日も今日とて彼が歌っている曲を聴きながら大学に向かえば、友人から彼のライブがあるから一緒に行かないかと誘われ……?



欠陥αは運命を追う
豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」
従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。
けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。
※自己解釈・自己設定有り
※R指定はほぼ無し
※アルファ(攻め)視点

【幼馴染DK】至って、普通。
りつ
BL
天才型×平凡くん。「別れよっか、僕達」――才能溢れる幼馴染みに、平凡な自分では釣り合わない。そう思って別れを切り出したのだけれど……?ハッピーバカップルラブコメ短編です。

紹介なんてされたくありません!
mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。
けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。
断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる