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『差別と暴力』
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今この世の中でも根強い日本の差別。
それは、長い歴史でも語られていたが、今日の現代では話題にならない日本の暗部。
『部落差別』だ。
様々な土地に対する偏見が煮詰まったこの差別意識は、ニュースで取り上げられることもないが、実際のところはまだまだ残っている。
私がざっと調べただけでもーーーー
『結婚するときに昔部落と呼ばれていた土地出身というだけで、相手方の反応が一八〇度変わった。なんとか説得したが、結婚式当日に、向こうの関係者には全員ドタキャンをされた』
『就活面接で出身地を言った途端に、それまで敬語だった担当者が足を組んで履歴書を破った。そして「帰れ」と言われた』
今だに蔓延る部落差別。
これが、戦時中・戦後となるとどうなるか・・・・・・井手氏が語ってくれた。
「そらもう壮絶にいじめられて、学校には来れないわな。せやからまともな教育を受けられない。総じて世間との確執が産まれる。そして自分らの仲間たち以外は信用もしなくなっていくわな。それが、負の連鎖となって、さらに差別を産む」
こうして、部落の人々は当時の忌み嫌われる仕事をしながら生活していたのである。
ーーーーということは、別段、年配の方に聞くまでもなく想像ができる。
私が興味深いと思ったのは、井手氏と部落の人々との関わり合いだった。
関西の一地方で育った井手は、部落の人間とも親しかった。戦時中食糧不足の中でも、部落の人間たちは自分たちのネットワークで、食糧を入手していたのである。
ソレを知っていた井手は、何かと関わり合いを持ち、分けてもらったりなどしていたのだった。
気難しいのは百も承知。
だが、仲間となると心強い。
そんな関係性だった。
しかし、弱者というのは追い詰められるとどうなるのかーーーー
そのことを痛感した『ある』事件があった。
戦争が終わってしばらくした頃だ。
こう言うと『右』の方々から非難を浴びそうだが、あえて使わせてもらう。
日本は負けた。
敗戦国だ。
そしてその事実は、民間にもトラブルを及ぼし始めていた。
『三国人』という言葉を御存知だろうか?
中国・朝鮮・台湾の三つの国の人間が結集した、連合体だ。
彼らは自分たちを『戦勝国』とし、『敗戦国』である日本への横暴は当然の権利であると主張していた。
もともと、彼らも戦争で無理矢理日本へ連れて来られた者も少なくない。
日本への復讐という意味合いが濃かったのであろう。
そうなると、当時の井手氏も被害に遭ったことがある。
通学路の路上に、三国人の若者グループが待っているのだ。
そして、通りがかった日本人に『職質』のように手荷物検査を実施して、金目の物や食物、配給品や嗜好品などを奪取していた。
無論、ただのカツアゲなのだが、警察の駆け込んでも対応が難しく、相手にしてくれない。しかも立っている道を毎日変えて、逃げられないように徹底していたのである。
ある日、中学生だった井手氏もとうとう被害者となった。
配給でもらった菓子数点と肝油ドロップなど。
抵抗したが、何発か殴られて終わった。
だが、ここでただでは転ばないのが、将来ヤクザ者になる井手氏の恐ろしいところだ。
腹を立て、そして報復攻撃を画策した。
その時に頼ったのが、部落の知り合いたちである。
彼らに、三国人グループの横暴と自身の悔しさを語ると、まるで自分のことかのように激怒してくれた。
(これは心強い味方を手に入れたぞ・・・・・・)
井手はそう思った。
決行の日が決まり、数日後・・・・・・
また、居た・・・・・・
三国人のグループだ。ニマニマと、意地悪い笑みを浮かべている。
「おい小日本手荷物検査の時間だゼ」
「・・・・・・」
「てめえ、聞いてンのカ!?」
「今やで!!」
その時だ。
背後から襲いかかったのは、部落衆だった。
「な、なんだお前ラ!?」
「日本舐めんなゴラァ!!」
数で圧倒的だった井手氏。
これで三国人たちも反省して・・・・・・
ゴッ!!
「がふっ!」
ガッ!! ゴンッッ!!
「ギャァ!!」
異変に気が付いて、井手が乱闘現場をよく見た。
三国人たちが血にまみれて、その返り血を、部落衆が浴びているではないか。
「な、何しとるんや・・・・・・」
ふと見ると、ひとりの部落の男性は手にレンガの破片を持っていた。
いや・・・・・・ひとりだけではない・・・・・・全員、拳大の石や鉄パイプやらで武装し、しかも容赦なく殴りつけている。まるで本気で殺そうとしているかのように・・・・・・違う・・・・・・殺すつもりでやっているのだ。
「ま、待てや!!」
「死ね!!」
もう反応のなくなっている三国人らを、何度も何度も本気で殴打している。
そこにあるのは狂気や復讐心ではなく、人間の命は大切であるという最低限の道徳観念すらも学ばせてもらえなかった男たちの姿だった。
そして社会に居場所を与えられず、手に入れるには暴力しかないという極限状態に行き着いた者たち。まだ高校生くらいの年だ。
当たり前に、三国人だろうが誰であろうが、敵対する者は容赦なく暴力で排除する。
なんとも恐ろしい光景だった。
「もうええ!! もうええから許してやりぃや!!」
「ハァハァ・・・・・・」
「な? 俺の復讐はもう済んだから、もう勘弁してあげて? な?」
「・・・・・・お前がいいなら・・・・・・ああ」
血だらけの部落の人間たちは、ようやく三国人らを放して立ち上がった。
「ど、どうするつもりやったんや?」
「部落の中に入ろうとするモンはおらんからな。殺して埋めてやろうと・・・・・・」
「ちょ、チョコレートの腹いせに殺すン!?」
「最初にやり始めたコイツらが悪いんだ。暴力には、暴力を・・・・・・」
身の毛がよだつ想いだった。
世の中、暴力と恐怖でなんとでもしてやる・・・・・・そんな気概が感じられた。
これが、居場所のない者たちの集まり。
注意しておきたいが、差別された者が一概にそうとは断言しないし、言わない。
だが弱者がある一定以上集まると、不思議と『狩る側』になることがある。解釈によっては、後に入ることとなる暴力団にも通じるところがあるだろう。
そのことを思い知らされた。
以来、三国人グループが立つことはなくなったが、同時に井手と部落の関わり合いも希薄になっていった。
「ホンマに殺す気やったンやと伝わってきたわ・・・・・・恐かったで・・・・・・」
井手氏は遠き昔を思い出して、こう呟くのであった。
完
それは、長い歴史でも語られていたが、今日の現代では話題にならない日本の暗部。
『部落差別』だ。
様々な土地に対する偏見が煮詰まったこの差別意識は、ニュースで取り上げられることもないが、実際のところはまだまだ残っている。
私がざっと調べただけでもーーーー
『結婚するときに昔部落と呼ばれていた土地出身というだけで、相手方の反応が一八〇度変わった。なんとか説得したが、結婚式当日に、向こうの関係者には全員ドタキャンをされた』
『就活面接で出身地を言った途端に、それまで敬語だった担当者が足を組んで履歴書を破った。そして「帰れ」と言われた』
今だに蔓延る部落差別。
これが、戦時中・戦後となるとどうなるか・・・・・・井手氏が語ってくれた。
「そらもう壮絶にいじめられて、学校には来れないわな。せやからまともな教育を受けられない。総じて世間との確執が産まれる。そして自分らの仲間たち以外は信用もしなくなっていくわな。それが、負の連鎖となって、さらに差別を産む」
こうして、部落の人々は当時の忌み嫌われる仕事をしながら生活していたのである。
ーーーーということは、別段、年配の方に聞くまでもなく想像ができる。
私が興味深いと思ったのは、井手氏と部落の人々との関わり合いだった。
関西の一地方で育った井手は、部落の人間とも親しかった。戦時中食糧不足の中でも、部落の人間たちは自分たちのネットワークで、食糧を入手していたのである。
ソレを知っていた井手は、何かと関わり合いを持ち、分けてもらったりなどしていたのだった。
気難しいのは百も承知。
だが、仲間となると心強い。
そんな関係性だった。
しかし、弱者というのは追い詰められるとどうなるのかーーーー
そのことを痛感した『ある』事件があった。
戦争が終わってしばらくした頃だ。
こう言うと『右』の方々から非難を浴びそうだが、あえて使わせてもらう。
日本は負けた。
敗戦国だ。
そしてその事実は、民間にもトラブルを及ぼし始めていた。
『三国人』という言葉を御存知だろうか?
中国・朝鮮・台湾の三つの国の人間が結集した、連合体だ。
彼らは自分たちを『戦勝国』とし、『敗戦国』である日本への横暴は当然の権利であると主張していた。
もともと、彼らも戦争で無理矢理日本へ連れて来られた者も少なくない。
日本への復讐という意味合いが濃かったのであろう。
そうなると、当時の井手氏も被害に遭ったことがある。
通学路の路上に、三国人の若者グループが待っているのだ。
そして、通りがかった日本人に『職質』のように手荷物検査を実施して、金目の物や食物、配給品や嗜好品などを奪取していた。
無論、ただのカツアゲなのだが、警察の駆け込んでも対応が難しく、相手にしてくれない。しかも立っている道を毎日変えて、逃げられないように徹底していたのである。
ある日、中学生だった井手氏もとうとう被害者となった。
配給でもらった菓子数点と肝油ドロップなど。
抵抗したが、何発か殴られて終わった。
だが、ここでただでは転ばないのが、将来ヤクザ者になる井手氏の恐ろしいところだ。
腹を立て、そして報復攻撃を画策した。
その時に頼ったのが、部落の知り合いたちである。
彼らに、三国人グループの横暴と自身の悔しさを語ると、まるで自分のことかのように激怒してくれた。
(これは心強い味方を手に入れたぞ・・・・・・)
井手はそう思った。
決行の日が決まり、数日後・・・・・・
また、居た・・・・・・
三国人のグループだ。ニマニマと、意地悪い笑みを浮かべている。
「おい小日本手荷物検査の時間だゼ」
「・・・・・・」
「てめえ、聞いてンのカ!?」
「今やで!!」
その時だ。
背後から襲いかかったのは、部落衆だった。
「な、なんだお前ラ!?」
「日本舐めんなゴラァ!!」
数で圧倒的だった井手氏。
これで三国人たちも反省して・・・・・・
ゴッ!!
「がふっ!」
ガッ!! ゴンッッ!!
「ギャァ!!」
異変に気が付いて、井手が乱闘現場をよく見た。
三国人たちが血にまみれて、その返り血を、部落衆が浴びているではないか。
「な、何しとるんや・・・・・・」
ふと見ると、ひとりの部落の男性は手にレンガの破片を持っていた。
いや・・・・・・ひとりだけではない・・・・・・全員、拳大の石や鉄パイプやらで武装し、しかも容赦なく殴りつけている。まるで本気で殺そうとしているかのように・・・・・・違う・・・・・・殺すつもりでやっているのだ。
「ま、待てや!!」
「死ね!!」
もう反応のなくなっている三国人らを、何度も何度も本気で殴打している。
そこにあるのは狂気や復讐心ではなく、人間の命は大切であるという最低限の道徳観念すらも学ばせてもらえなかった男たちの姿だった。
そして社会に居場所を与えられず、手に入れるには暴力しかないという極限状態に行き着いた者たち。まだ高校生くらいの年だ。
当たり前に、三国人だろうが誰であろうが、敵対する者は容赦なく暴力で排除する。
なんとも恐ろしい光景だった。
「もうええ!! もうええから許してやりぃや!!」
「ハァハァ・・・・・・」
「な? 俺の復讐はもう済んだから、もう勘弁してあげて? な?」
「・・・・・・お前がいいなら・・・・・・ああ」
血だらけの部落の人間たちは、ようやく三国人らを放して立ち上がった。
「ど、どうするつもりやったんや?」
「部落の中に入ろうとするモンはおらんからな。殺して埋めてやろうと・・・・・・」
「ちょ、チョコレートの腹いせに殺すン!?」
「最初にやり始めたコイツらが悪いんだ。暴力には、暴力を・・・・・・」
身の毛がよだつ想いだった。
世の中、暴力と恐怖でなんとでもしてやる・・・・・・そんな気概が感じられた。
これが、居場所のない者たちの集まり。
注意しておきたいが、差別された者が一概にそうとは断言しないし、言わない。
だが弱者がある一定以上集まると、不思議と『狩る側』になることがある。解釈によっては、後に入ることとなる暴力団にも通じるところがあるだろう。
そのことを思い知らされた。
以来、三国人グループが立つことはなくなったが、同時に井手と部落の関わり合いも希薄になっていった。
「ホンマに殺す気やったンやと伝わってきたわ・・・・・・恐かったで・・・・・・」
井手氏は遠き昔を思い出して、こう呟くのであった。
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