DANCING・JAEGER

KAI

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第1章

【母の言葉】

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 どこにでもあるような日本家屋。


 日本の古き良き屋敷には、表に『』という表札が出ている。


 多くの監視カメラが設置され、門は鉄製。塀にはネズミ返しがある。


 そして今日、屋敷の前には洗車を繰り返してなんとか小綺麗にした古い車が何台も停まっていた。側にはスーツを着た運転手たちが主の帰りを待ちながらタバコを吸っている。


 屋敷の、日当たりの良い部屋。


 そこに相変わらず素肌に革ジャンの龍敏が、布団に横になっている妙齢の女性の隣に座っている。


「オカン・・・・・・どうや? 加減は?」

「今日はお日様もポカポカしてて、良い調子よ」


 そうは言っても母親の頬はこけ、声には張りがない。


「・・・・・・そっか」


 龍敏はいつもの凶暴性など消えたかのように、母親の前では大人しい。


「今日は騒がしいわね」

「幹部会やからな」

「そう・・・・・・このところは渡世も厳しいものね」


 極道の妻として、そんじょそこらの女性とは肝が違う。


「・・・・・・クインちゃんとは会っているの?」

「あ・・・・・・ああ、こないだも会ったわ」


 どんな場面かは、病人相手に言うことができなかった。


「そう・・・・・・『』なんて心無い言葉を言う人もいるけど、クインちゃんは優しい仲間想いの子よ。仲良くしてなさいね」

「ま・・・・・・向こうがなぁ・・・・・・」

「・・・・・・差別を生んだのは人間。クインちゃんの立場でアナタと親しくはできないでしょうね」

「・・・・・・そろそろ会議や」

「そう・・・・・・」


 龍敏はポケットに手を入れて、部屋を出て行こうとする。


 すると・・・・・・


「ねえ龍敏」

「なんやオカン」

「・・・・・・ヤクザの息子に産んでごめんなさいね」

「・・・・・・んなこと、オカンの息子で良かったと、思ってるよ」


 背中を向けてはいるが、神妙な面持ちは背中からでも窺える。


 その証拠に、龍敏は癖の関西弁を忘れてしまっている。


 ヤクザの息子ーーーーまともな少年時代を過ごせるわけもない。


 いじめ抜かれた小学校一年二年・・・・・・トイレ掃除の水をかけられ、机に花を置かれる日々。


 そして三年生のある日。技術の授業の時間だった。


 配られた彫刻刀を見て、龍敏はそれを復讐に使える武器だと、認識したのだ。


 その日から、彼をいじめる者はひとりも居なくなった。


「オカンが何も悪く思うことないよ。俺の人生だ。俺の問題だ・・・・・・」


 中折れ帽を目深に被り、いよいよ出ようとする龍敏に、消え入りそうな声で母がもうひとつ。言葉を贈った。


「・・・・・・自分に正直に生きなさい。正直者が馬鹿を見るのはカタギだけ。極道は信じる道を極める者のことなの。その先に、アナタの人生の『』があるわ」

「・・・・・・分かった」


 ふすまを閉め、廊下を歩く。


 もう・・・・・・長くはない。


 母親の病状も気になる。


 だが、屋台を支えている者として、仕事スイッチを入れなければいけないのだ。
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