死が二人を分かつまで

異種格闘技トーナメント篇

【名無しの勝者】

　観客たちからの歓声たるや･･････



　日本人が大好きな･･････高慢ちきが寡黙な強者に破られる。



　それが見られたのだ。



　黄色い声援が飛ぶのも、当然だった。



「二発目の蹴り･･････お見事でしたよ。リスクを冒しても果敢に立ち向かうその姿は、しかとネットの向こう側にも伝わっていると思います」


「はあ･･････ありがとうございます･･････」



　近くにいたスタッフが、おずおずと賞金を持ってきた。



　帯で巻かれた、札束。



「どうぞ･･････」


「いりません」


「え？」


「･･････ここにおわす紳士淑女たちに！　夢一夜を見せてあげてください！！」


「「「おおぉぉぉ！！！！」」」


「ではっ！」



　黒ずくめの男はカメラを避けるようにダッシュで逃げていった。



　後に残った観客たちは、タイマン男を起こして、近くの居酒屋に連れ込もうとしていた。



　いまだに呆然としているタイマン男は･･････



「ハハハ･･････金･･････足りるかな」



　虚空に向けて呟くしかなかったのだった。



　･･････



　･･････



　･･････



「ハァハァハァ･･････ここまで来れば、大丈夫」



　バッと手ぬぐいを取った芥川は、道場でニヤリと笑っていた。



「うむ･･････実戦も問題はなかった･･････試合もこなせそうですね」



　一応これでも四四歳。



　スポーツの観点から見れば、かなりの『年寄りロートル』だ。



　だが、それでもまだヤれる･･････



　そのための、ウォーミングアップであった。